第7話黒坂愛衣と栞屋の塩谷

黒坂愛衣(15)は自分の前に座る人物を以前から知っていた

正確には彼の作る栞を知っていた、だ

実はいくつか買ったことのある、所謂ファンだった

愛衣は彼の作る栞が気に入っていた

流行りの魔力栞ではなく、昔からあるごく普通の栞

読書好きの人なら一枚くらいは持ってる、お気に入りの読書のパートナー

彼の作品を知ったのは今から半年くらい前

小学生の頃から数年間使い続けたお気に入りの栞を無くしてしまい落ち込んでいた時に、友達がライメイ市の通販サイトで栞が売っている事を教えてくれた

最初は興味などなく無くした栞の代替品のつもりでサイトを開く

出てくるのは魔力栞ばかりで、なかなか普通の栞が見つからなくて諦めかけたその時

一つの栞が目についた

その商品の詳細欄にはこう書かれていた


※この栞は魔力栞ではありません

※手作りで制作しているため多少の歪みあります

※現品限りの一点物です

※返品、交換等は受付ません


今時珍しく魔力栞でない普通の栞を販売していたのだ

デザインも結構凝っていて百合の華が可憐に表現されていた

一目惚れだった

代替品を探すつもりが、一目見てコレだ!と思って見惚れてしまった

さっそく購入しようとすると……ちょっとの差で他の人に買われてしまった


現品限りの一点物


ということはもう手に入らないということだ

気分はさらに落ち込みつつも他に何か良いのが無いかページをスクロールする

すると、詳細欄が同じ内容の物がもう一品見つかった

デザインは向日葵、こちらは一変して元気な印象を与える栞だ

これでも良いか、と購入しようとすると

又しても僅差で買われてしまい、購入できず

他に目を引く物がなかったため、その日は購入を諦めた

念の為、百合の栞の作者の名前をひかえておこうと作者ページへ飛ぶ

そこには『栞屋の塩谷』と書かれていた

過去に出品された物の画像データが残っていた

そこには先ほど購入しようとした向日葵の栞もあった

詳細欄が同じ内容だったから予想はできていた

こう言っては悪いが売れ残りがないか探す

しかし、出品数自体がそんなに多くなく

というか少ない、なんでこれしかないのよ!

結局一つの売れ残りもなく、完売状態だった


それから数日間、栞屋の塩屋のページに頻繁にアクセスし何とか一枚だけ手に入れることができた

その頃には無くした栞の消失感はかなり薄れていた

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