第5話普通の栞屋の男
~日本大会決勝戦の2年前の夏の某日~
俺は
ライメイ市在住のしがない栞屋だ
栞屋ってのは文字のまま栞を売ってるって事だ
売っている場所は市営の通販サイト
売上は市と製作者で半々づつになる
ここライメイ市は創作者への支援がとても手厚い珍しい市なのだ
創作者に対し一定額の助成金が出るし、家賃格安の寮もある
しかし支援を受けるには
①創作者として登録し、毎月何かしらの創作物を市に提出しなければならない
②市からの依頼は原則断ってはならない
③創作物のクオリティの向上に努めなければならない
といった制約を守らなければならない
俺の作った栞は他の創作物の中では安価な部類で、売り上げも少ない
さらに一枚づつ手作りで作っているため量産が出来ない
生活するためにバイトをし苦しいながらも何とかなっているのが現状だ
それでも続けているのはひとえにモノづくりが好きだからだ
そんな俺の元に珍しく依頼が舞い込んできた
ジリリリリと古めかしい固定電話の音が鳴り、受話器をとる
「はい。もしもし」
「塩谷様で、お間違いないでしょうか?」
「そうですが、どちらさまで?」
「こちらライメイ市役所創作部依頼課のトミタです」
「依頼課?ってことは私に依頼ですか!?」
「はい」
よっしゃー!臨時収入ゲットーー!!
「どうかされましたか?」
「い、いえ。なんでもないです!それでどんな依頼何でしょうか?」
「それが、依頼については依頼人の方が塩谷様にしか話さないと」
「え?依頼って市からじゃないんですか?」
「はい。今回の依頼は匿名性を第一に市に対して仲介のみ頼む形式を希望されまして」
「それってアリなんですか?」
「前例はありませんが市長が許可しましたので」
「そうですか、市以外からの依頼ってはことは断る事もできますよね?」
市以外からの依頼は保証もなにも無い、下手すれば詐欺の被害に遭うこともある
そして被害に遭おうと全て自己責任で片付けられてしまう
その分報酬はいいが……
「いえ、それが今回は市長自ら依頼人の方と面会し承諾したので『これは市長である私からの依頼でもある』と話していたので」
「市長自らですか?依頼人は何者なんですかね」
「極秘だそうです。私も知りませんのでお教えできません」
「ぶっちゃけ報酬はどの位になりそうですかね」
「残念ながら極秘事項です」
「依頼品は勿論栞ですよね」
「そちらも極秘事項です」
「私の手に負える内容じゃない場合はどうしたら?断れないんですよね?」
「潔くライメイ市を出ていくか、一定期間の支援中止ペナルティを受けるかの二択ですね」
「マジですか」
「マジです。それでは、明日午前10時に市役所までお越しください」
「え、あの、バイトが」
「お休みしてください。コチラからお仕事先に連絡を入れますのでご安心ください」
「あ、はい。わかりました」
「それでは、明日お待ちしております」
「はい」
いつの間にか追い詰められてるんじゃないか。俺!?
この市から俺を追い出すための口実だったりしないよな……
この日は不安で夜眠れない塩谷であった
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