第3話
ようやく私は、自分が置かれている状況がどれだけ大変なものなのかを理解した。
見たことも聞いたこともない危険な生物がいる場所で、両手の自由を奪われ、情報も知識もなく、持っていた物も全てなくなっている。
どうにかこの状況を打破しようにも、檻を出ないことにはどうにもならない。先程よりも更に絶望的な気持ちで、檻の向こうを眺めていると、遠くから足音が聞こえた。
ゆっくりと近づいてくる。ヒタ、ヒタ、という聞きなれた音。人間の足音だ!
音の聞こえる方へできるだけ近付く。ぴったりと檻にくっついて、足音の主を見ようと目を見開いた。どうか言葉が通じてくれと生まれて初めて神に祈り、目の前に来るのを待つ。
足音はゆっくりと、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。私の檻の前で立ち止まるのを見るが早いか、声をかけた。
「あの!……は?」
「ンナゥ」
猫、だった。二足歩行の猫が、燭台を持って檻を覗き込んでいた。
「ねこ……ねこ?」
私の知るそれよりもかなり大きい猫のような生物は、私の様子などお構いなしに話し(?)始めた。
「ンナゥ、ニャゥネウナ、ニャウ」
気だるそうに親指を立てて後ろを指しながら、これまた気だるそうに発せられた言葉は、私に理解できるはずもなく。
「……あの」
恐る恐る声をかけると、猫は私に言葉が通じていないことが分かったのか、ため息をつきながら頭をぼりぼりと掻いた。フケのようなものが落ちて、猫の着ている薄汚れたチョッキの上に落ちる。猫は私をじろりと見てから、檻の鍵を外して扉を開けた。
「ニャウ」
出ろ、という事だろうか。ちいさな扉に頭をぶつけないように気をつけながら、ゆっくりと檻を出る。どうやら正解だったようで、猫は尻尾を振りながら、私の手枷を掴んで歩き出した。
ぐん、と強く引っ張られてつんのめる。慌てて足を動かして、なんとか転ばないようにしながら歩いていく。歩くたびに手枷の鎖が立てるじゃらじゃらという音に、気が重くなった。
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