第2話【思い出のアルバム】
2人が住んでいるのはリバーサイドの30階建ての最上階。この大きさのマンションはこの時代では中規模マンション。周りには50階建て以上のビルやマンションが立ち並び、その中でもひと際高く目立っているタワーがある。それはこの町のシンボルとなる『スカイタワー』。現在はまだ建設中だが、周辺の建物の中ではすでに一番高くなっている。完成時期はまだ未定だ。
なぜ財力のあるこの2人が高級マンションではなくこの場所に住んでいるのか?その理由はそばを流れる川にあった。その昔、子供のいなかった2人のところに子供を授けてくれたのがこの川である。とある理由でいろいろな場所を転々としてきた2人でしたが、数十年前にこの場所に戻ってきたのであった。
2人は先ほど家に帰り着き、ゆっくりとお茶を飲んでいた。
源蔵「もう何年経ったんだろうかね・・・」
源蔵はお茶をすすって、大きなため息をついた。
たえ「何がですか?」
源蔵「いやぁ、このまま生きててもなぁ・・・なんて(笑)」
たえ「またですか?500年ぐらい前からことあるごとに口にしてますよ。」
源蔵「今回は本気じゃ!」
たえ「それも300年ぐらい前から言ってますよ。」
2人は同じタイミングでお茶をすする。
源蔵「このやりとりも飽きたなぁ。」
たえ「そうですねぇ。」
源蔵とたえはまた同じタイミングでお茶をすすり、大きくため息をついた。
源蔵「おっ、そうじゃ!」
そういうと源蔵は席を立ち、奥の部屋へと行った。源蔵はすぐに戻ってきた。手には何か箱を持っている。
たえ「何ですか?それは。」
源蔵「へっへっへ。なんじゃと思う?」
たえ「うわっ!出た。質問を質問で返す、めんどくさいやつ!」
源蔵「で、何だと思う?」
たえ「いいから、早く言いなさい!(怒)」
源蔵「そ、そんなに怒らなくても・・・」
たえ「で、なんなの!?」
源蔵「なくなったと思ってたんだけど・・・」
源蔵がその箱の蓋を開けると、中にはボロボロの紙の束が入っていた。それを源蔵はそぉーっと取り出す。
たえ「それって・・・」
源蔵「そう。俺たちの思い出のアルバム。」
たえ「どこにあったんですか?よく見つけましたね。」
源蔵「この前、掃除をしていたらたまたま見つけたんじゃ!2人で見ようと思ってずっと隠しとったのよ。」
たえ「1世紀以上ぶりじゃないですか?引っ越しの時にも見つからなかったから、もう捨てたのかと思っていましたよ。」
源蔵「わしもじゃ」
2人は久々のアルバムに胸躍らせていた。源蔵がゆっくり紙をめくろうとすると
-----ヒュー
開いていた窓から風が入ってきた。アルバムの紙の束はその風によりすべて崩れ粉々になった。そしてその粉々になったアルバムは風に乗ってその家から去っていった。源蔵とたえは目を合わせて固まってしまった。
たえ「しょ、しょうがないわよ。アルバムといってもあの時代にはカメラもなくて絵師に描いてもらったものですし、顔ものっぺりしていて似てなかったですし(苦笑)」
源蔵「そ、そうじゃけど・・・」
たえ「それに今はこれがあるじゃない!」
そう言ってたえは慌てて本を取り出した。机に並べられたのは童話の絵本だった。
たえ「ほ、ほら!これらだってだいたい話あってるわけだし!まぁ顔は全然似てないから、アルバムとは言えないけど・・・。昔を思い出すわね!」
源蔵「わしも今じゃ学校の教科書にも載って、『竹取の翁』じゃって。ただのじいさんを『
たえ「まさかあの子たちがこんなに有名になるとはね。」
たえは少し目に涙を浮かべながら、桃太郎の絵本の表紙の顔を優しく撫でた。
源蔵「お前をそれも見るたびに泣くんじゃないよ!ただの絵本だろ。」
たえ「思い出すくらいいいじゃない!」
源蔵「いいけど!それに今の人はこれを作り話だと思ってるけど、実は本当にあったことだったなんてな。知っているのは今じゃわしらだけだ。」
たえ「もう、あの子たちがいなくなって何百年ったったのかしらね・・・」
2人が物思いにふけっていると
-----ピンポーン
突然、家のチャイムがなった。
-----ピンポーン
家のチャイムが鳴る。
源蔵「ん?わしらに知り合いなんていないはずだが・・・」
たえ「新聞の勧誘とかじゃないですか?」
-----ピンポーン
再度チャイムが鳴る。たえは椅子から立ち上がり玄関へ行った。
たえ「はい、はーい。どちら様ですか?」
-----ガチャ
扉を開けるとそこには180cmは越えてるであろうがたいの良いスキンヘッドの男が3人立っていた。全員サングラスをかけ、黒いスーツを着ている。その3人の顔が今にも至近距離に迫って来そうな圧力をたえは感じた。
たえ「ど、どちら様ですか?(マトリッ〇ス!?)」
???「ちょっと、どきなさいよ!あんた達!」
男たちの間をかき分けてこれまた180cmを超え、黒いコートを羽織った男が姿を現した。その男は周りの男たちより細身ではあったががたいはいい。後ろの男たちと同じくサングラスはかけていたが、あご髭をはやして髪型は半分スキンヘッドの半分ロン毛状態で色は緑色ですごく目立っていた。
あご髭の男「山本夫妻でしょうか?」
たえ「そうですけど・・・」
源蔵も誰が来たのか気になって玄関まで出てきた。
源蔵「誰だ?あんた達。」
髭の男「ここではちょっと。何も聞かずに私たちと一緒に来ていただくことはできないでしょうか?」
源蔵「は?」
たえ「なんで見ず知らずの、しかもこんな怖そうな人たちに・・・」
たえはその性格から言い返そうとしたが、後ろのスーツの男たちの威圧感に少し引いた。
源蔵「タエタエ、やめとけ!」
源蔵がたえの前に出てきた。
源蔵「わしらを訪ねて来たってのは偶然ではないんじゃろ?」
髭の男「はい。」
源蔵「それで、行かないって言ったところで無理やり連れて行くんじゃろ?」
髭の男「すみませんが・・・。あ、手荒な真似をするつもりはないので。」
髭の男は両手の手のひらを二人に見せてそう言った。
源蔵「分かった。行こう。」
たえ「げんちゃん・・・。」
源蔵「タエタエ、大丈夫!わしがついてる。」
たえ「げんちゃん。」
源蔵「タエタエのことはわしが守るから大丈夫じゃ!」
たえ「げんちゃん!」
-----ドゴッ!
たえは思いっきり源蔵のお腹を殴った。
源蔵「うぅ、な、なにを・・・。」
源蔵はお腹を抑えて、ひざをついた。たえは源蔵の髪をひっぱり自分の方へと顔を向けさせた。
たえ「人前で『タエタエ』って呼ぶのはやめてって言ってるわよね?」
たえはニコニコしながら源蔵に言った。その笑顔はすごく不気味で、目は全く笑っていなかった。
源蔵「ご、ごめんなさい。」
男たち「・・・・・。」
男たちはその様子に完全に引いていた。
たえ「じゃあすぐに行くわよ!」
源蔵・男たち「はい・・・。」
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