第2話
ところがある日、電車がホームに入ろうとしていたときのことです。
ホームの端にいた彼女が、突然線路に飛び出したのです。
電車はすでにスピードを落としていて、さらに運転手が急ブレーキをかけたのですが、見事なくらいに電車のすぐ前に飛び込んできたので、間に合いませんでした。
――轢かれた!
その場にいた全員がそう思いました。
そして駅員が総動員して、後から駆けつけた警察もいっしょになって彼女を探したのですが、身体の一部はおろか、血の一滴でさえ見つかりませんでした。
「確かに轢かれたはずなんだけどなあ」
「ああ、俺も見た」
私の横に立っていたサラリーマン風の二人が言いました。
彼らの言った通りです。私も片目をつむりながら、もう片方の目で彼女が轢かれるところを見ました。
しかしそこには何もなかったのです。
ところが次の日に駅に行くと、なんとその女が壁を睨みつけながら立っているではありませんか。
私はぎょっとして思わず一歩下がりました。
そして一息つくと、なるべく彼女の方を見ないようにしながらホームを歩きました。
後から来る人も、みんな同じような反応でした。
通勤時間帯に駅に来る人はほぼ同じ人なので、みんな昨日の出来事をよく知っているのです。
その後も彼女は毎日その姿を現し、通勤客も駅員もそれを無視し続けました。
もちろん私も。
そのうちにみんなもまた慣れてきて、彼女を見てもいちいち反応しなくなりました。
ただ彼女のそばを通るとき、彼女のとの距離がみんな前よりは広がったようですが。
彼女も立っているだけであれば、特に大きな問題はありません。
ですが一つだけ困ったことがあります。
それは時折彼女が、思い出したかのように電車に飛び込んでしまうことです。
終
ホームに立つ女 ツヨシ @kunkunkonkon
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