カウント 0

「あなたはそこにいますか」


 声が聞こえました。


 声とともに体が軽くなります。


「なんだかデジャブですね」


 いつの間にか重力が消えていました。


 私は月面に立っている少女を見据えます。


「あなたは――花子ちゃん?」


 頭にクエスチョンマークが敷き詰められます。どうして、コロネちゃんのおともだちがこんなところにいるのでしょうか。


「あなたは何者ですか?」


「そんなことはどうでもいいんじゃないかな」


 花子ちゃんは遠くの空間を指さします。


「あそこに彼がいる。ずっとずっと、私の願いに囚われている存在が。私たちはずっと答えを探していたの。夢とは必要なものなのか。願いを叶える存在は必要なのか、ってね」


 花子ちゃんの目は何故だか悲しそうでした。


「あなたかあの子、どちらが彼にたどり着くのか分からない。でも、私はあなたに答えを伝えて欲しいの。彼に。それはあなた自身の心。それが答えだから。まだ、あなたは飛べるかしら」


 花子ちゃんは私に手を差し伸べます。


 私は花子ちゃんの手を握ります。


「人には羽が生えているの。どこまでも行ける、自由の翼が」


 私の背中から羽が生えます。純白の鳥のような羽と蝶のような黒く鮮やかな翅。


「あなたは終わりの魔法少女。全てを終らせ、新たな未来を作り出す存在――」


「あなたは一体――」


 花子ちゃんの体は光の粒となって消えていこうとしていました。


 花子ちゃんは私の腕に、ブレスレットをはめます。それはコロネちゃんとゆずちゃんとおそろいの大切なプレゼントです。


「私ははじまりの魔法少女。ずっと昔、願いを叶える存在と仲良くなって魔法少女になった。名前は――ミキ」


 花子ちゃんは最後に笑顔で言いました。


「外伝もよろしくのこと!」




 人は一人では生きられません。


 一人で生きるということは自由であることです。けれど、不自由を知らなければ、人は自由にはなれません。


 だから、私は翼を手に入れたのです。みんなの力を借りて。出会いと別れを通して。


 未来へと羽ばたける翼を――


『なるほど。どうしてもあなたは私の前に立ちはだかるのですね』


 私は終わりロストと相対します。私の背後には古びた祠がありました。


『いいことを教えてあげましょう。そこのサギノミヤに触れれば、あなたの願いは叶うかもしれません。それは別の世界で生まれた、願いを叶える存在。ですから、人々を生き返らせることも――』


「鉄拳制裁っ!」


『うがっ!』


 私は終わりロストを殴りとばしました。


『いきなり、何をするんですか!』


「いえ。なんだかどういう終わらせ方をすればいいのか分からなくて」


『それは難儀なことですね!』


 仕返しとばかりに終わりロストは私に殴りかかってきます。私は姿勢を低くして拳を避け、終わりロストの顎にカウンターを打ち込みます。


『光速を超えた黄金聖闘士の拳を避けるとは――』


「今思えば、かなり神話的な戦いを繰り広げていたんですね」


 好機を見逃す私ではありません。


 ペガサス流星拳のごとく、いくつもの拳を繰り出します。


「あれって、何発でしたっけ?確か、星座の星と同じ数だった気が――」


『くっ。私としたことが――しかし、何故敗れる――』


「そういう言葉吐かないでくださいよ。反応に困ります。流石にギャグで終わらせちゃうと批判殺到するので」


『いや……どうみてもあなたがギャグに変えてしまっている感じなのですが』


 終わりロストは体を動かそうとするものの、もう体は動かなくなっているようでした。


『まあ、当然の結末なのでしょう。なにせ、あなたなのですから』


「あなたの願いは何ですか?」


 私は終わりロストに問いかけます。


 終わりロストは大きく笑いました。


『まさか、私の願いを叶えようなどと言うのではありませんよね?私の願いは破壊のみ。全てが終わることを望んでいる――』


 私は終わりロストの手を引きます。


『なにをバカなことを――』


「私はあなたも救うと決めましたから!」


 そして、私は手を伸ばしました。


 祠へと。サギノミヤへと。




 そこは真っ白な空間でした。


ロストは?」


『残念ながら、ここに来れたのはキミだけみたいだね』


 私の目の前には何かが居ました。でも、それは私にでも近くできないほど強大な存在のようでした。


『キミの願いはなんだい?そして、キミに答えを聞かせてもらいたい』


 サギノミヤは声なき声で私に尋ねました。


『願いを叶える存在ボクは必要なのかな?魔法ゆめはこの世界に必要なんだろうか』


 私の答えは決まっていました。


「この世界に不要な存在なんて、何一つありません」


 サギノミヤは笑いました。


『なるほど。平然とそんな嘘を吐くからロストも怒るんだね』


「私は嘘なんか――」


『この世界に不要な存在なんていない。そして、キミの場合、この後こう続くんだ。自分以外には――と』


 サギノミヤは悲しんでいるようにも見えました。


『残念ながら、ボクは消えるよ。ボク自身も答えは決まっていたんだ。ただ、最後にキミの願いを叶えたかっただけだ。願いを叶える存在なんて、初めから必要なかった。人類はまだまだ絶望に打ち勝つ力を持っているさ。彼女もキミも、優しすぎたんだ。こんな、道具に過ぎないボクを消すまいとしたんだから。人は時に醜いものへと変貌する。でも、その醜さを否定してはいけないんだ。醜い蟲でも蝶となり空を羽ばたくことだってあるのだから。絶望が空に広がっていても、どこかに希望は転がっているものさ』


「待って。あなたが消えるなんて――」


『キミは最後に何を願うのだろう。この世に何を想い、何を感じてる』


 私は願いを答えます。




「何度も何度も連呼していい加減聞き飽きたでしょうが――私は、平和で普通な毎日を送りたいのです。みんなを…元通りに」






Endless grief goes on forever …… FINE

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