カウント 2

 そこは真っ黒な世界でした。


 私はどこにいるのかさえ分からなくて。色のない世界でもなく、色を奪われ、塗りつぶされた世界。


「もう、終わってしまったんですね」


 もしかしたらまだ戦いは終わっていないのかもしれません。けれども、もう終わってしまったのです。絶対的な絶望を前にして、私はもう戦えなくなりました。


「んなもん、自分で決めろよ」


 懐かしい声が聞こえてきました。


「あなたは……まさか……」


 黒い空間に赤い影が生まれます。


 それは世界中の誰よりも赤い影で。何よりも熱く燃えていて。


「久しぶりじゃねえか。最弱」


「コルト……」


 コルトの姿を見て、私はこれが夢であるのだと分かりました。


「夢ですか。そう、どうせ夢なんです」


 コルトは鼻で笑います。


「そうだ。たかが夢だ。でもな、フキ。それはお前の守りたかったものなんじゃねえのかよ」


「そういえば、どうして急に復活してるんですか?」


「推して測れよ。そのくらい。作者の気まぐれだ」


「なるほど。それもそうですね」


「なあ、フキ。お前はどうして今まで戦ってこれた?散々裏切られ、苦しんだはずだ」


「だから、もう苦しみたくないんです」


 コルトは私の胸倉を掴みます。


「じゃあ、なんでお前はそんなに苦しそうなんだよっ!」


 コルトの声により私の髪の毛がばらばらと揺れました。


「俺にはお前がよく分からなかった。人間てのは自分の願いのためだけに生きるもんだ。なのに、俺にはお前が誰かのために生きているようにしか見えなかった。でも、そんなはずはねえんだ。なんにもない人間がここまで来れるはずがねえ。お前の望みはなんだ。ここまでして、叶えたい望みは」


「望みなんて……」


 どうしてか、私の冷え切っていて体は徐々に熱を取り戻し始めていました。


「俺が来る必要なんてなかったんだよ。ったく、安っぽい話になるじゃねえか」


 そう言ってコルトはクールに去っていきます。


「私の願い――それは」


 ピシピシと音を立てて黒い世界に光が差していきます。


 そして私は、目を覚ましました。




「フキちゃん!フキちゃん!?」


 私の体を揺す振る感覚と、懐かしい声。


「コトちゃん……」


 私は起き上がります。コトちゃんの顔は涙で濡れていました。


「もしフキちゃんまでいなくなってしまったら、私は一体どうやって生きていけばいいか――」


「それは一体どういうこと?」


『あなたがた二人以外はみんな滅びてしまったのです』


 コトちゃんの代わりに空より舞い降りてきた饗宴の始まりロストが言います。


「空から降りてくるのが好きな人ですね」


『私を人と呼びますか。こんな状況で』


 饗宴の始まりロストは嘲笑いました。


 私はゆっくりと立ち上がります。


「はい。だって、きっと、あなたは誰よりも私に似ていますから」


『なにを――』


「私には夢がある!」


『誰もいない世界で夢など語っても無意味です』


「諦めない限り、夢は消えない。呪いになってでも生き続けます!」


 私は血が染みついた地面を一歩踏みしめました。


「私は欲しい!みんなが笑顔でいられる時間が!本気で叶えたいと思うのなら、叶わない願いなんてありません!」


『愚かな』


「夢を追う人は誰だって愚かに見えてしまうものです。でも、本気だから!どれだけバカにされようとも叶えたいから!」


『うるさい!今すぐ黙らせてやろうか!』


「私の望む世界にはあなたの笑顔もあるんですよ饗宴の始まりロスト」


『黙れ!』


 饗宴の始まりロストの気が恐ろしく膨れ上がります。これは――殺気?


『そこまでおっしゃるのなら、あなた方の希望を砕いてみせましょう。その力の源を殺します』


 饗宴の始まりロストは空を仰ぎ見て言いました。


『我が名は終わりロスト。この物語を終らせる者――』

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