カウント 5
「今更普通のワームが出てきたところで痛くもかゆくもないわ」
一歩前に出ようとするコトちゃんを私は腕を伸ばして止めます。
「コトちゃん。ごめんなさい。他にもワームが出ているから――だから、そっちをお願い」
私の声は自分でも驚くほどに硬い声色でした。
「どうしたの?フキちゃん」
「いいから。セラもお願い」
「この4人は私が相手をするから――だから、二人は他をお願い」
「でも、
『大丈夫ですよ。私はワームを全て倒すまで待ってあげますよ。まあ、全て倒すことができれば――の話ですが』
「待ってやるって」
「私はアイツの言葉を鵜呑みにするほど――」
コトちゃんがセラちゃんの肩に手を載せます。
「セラ。行きましょう」
「しかし――ウィッチマジカル」
「まだ覚えているの?執事流記憶消去術って知っているかしら」
「それは本当に危険な奴だ!」
コトちゃんとセラちゃんは私に背を向けます。
コトちゃんはくるりと体を翻しました。
「フキちゃん。これだけは約束して」
「はい」
決して守れないけれど、私は頷きました。
「フキちゃんが取るのはいつもいつもフキちゃんが一番つらい道なの。でも、今度はそんなことはないって約束して」
「はい」
「自分を傷付けたってなにもいいことはないの。そんなことをするんだったら、誰かを憎んで恨んで、逃げてもいい。復讐した方がいい。そういう道があるっていうことを忘れてはダメ」
「大丈夫だよ。コトちゃん」
コトちゃんは何も言わずに背を見せて、周りに発生したワームたちのもとに飛んでいきました。
「さて……」
私は
「まず、一言。私もあなたのことが気に入らないです。
『生まれて初めて会話らしい会話ができたかと思えば……』
『私もあなたが大嫌いですよ。腹立たしいほどに気が合いますね』
「口調が被っているんですよ。今までなかったはずのキャラ被りです。どうしてみんながこれほどキャラ被りを気にするんだろうって思ってましたけど、こんなのが自分と一緒だと思うと、余計に嫌ですね」
『私だって同意見なんですよ。『』がなければどっちがしゃべっているのかわからない。それに、もっと言いたいことがあるのでしょう?あなたがそんなに怒るなんて、私の知る限りでは一度もないのだから』
そうでしょう。
こんなものを見せられて怒らない人間はいません。
蟲のように蠢いているワーム。
そのワームから声が聞こえます。
『苦しい』
『助けて』
『もう嫌だ』
『やめてくれ』
そして、最後にどのワームも呼ぶのです。
『フキ』と。
「私のともだちをこのような姿にして――絶対に許さない!」
ソラさん。アオちゃん。コロネちゃん。ミワちゃん。
目の前のワームの発している声はみんなの悲鳴でした。
『それは勘違いだよ』
「分かっています」
目の前のワームは、私のともだちであって、ともだちではありません。
きっと、別の世界の、もしかしたらの可能性たち――
『いいじゃないですか!これこそまさにドラマ!苦しんでいるともだちを前に悲劇のヒロインはどうするのか――まあ、こいつらは記憶も理性もありませんが。ただひたすらに魔法少女を蝕むだけの存在です』
『ともだちを殺せ』
と。
失うのがとても怖くて、絶対にもう手放さないと心に誓った存在をこの手で――
『こいつらを殺さなければ世界は滅びますよ?ともだちを取るか、世界を取るか――』
私はワームたちにバトンを向けます。
「みんな。お願い……!」
私の背後にソラさん、アオちゃん、コロネちゃん、ミワちゃんが現れます。
「私は罪を背負います!ともだちを殺すという罪を!私だけ傷付かずに何かを得ることは許されないから!」
5つのバトンから放たれた魔砲は一つに合わさり、大きな一つの魔砲へと変化します。
七色の魔砲は4人の命を奪い去りました。
4人は、声も上げず、この世界から消え去りました。
『そんなに感情的になることじゃないですか。彼女たちはこの世界の彼女たちではありませんし。もっと言うならば、彼女たちはワームの核に選ばれた『願いの依り代』なのですから』
「どうして、こんなことができるんですか」
『これだけではありませんよ?』
待ち遠しき夜明けロストはパチンと指を鳴らします。
すると、泥を盛るようにワームの肉体が戻っていきます。
聞こえてくるのは、この世界を呪う、ともだちの声。
「私は自分の命には価値がないと思っていました」
私は涙を噛み殺して言葉を紡ぎます。気を抜けばすぐにでも嗚咽が漏れ出そうでした。
「私はいつも両親に殴られていました。いつもはいい人なのですけれど、お酒に酔ったり、会社やパートで嫌なことがあると私を怒鳴ってよく殴っていました。学校でもいじめを受けていました。給食にはよくちり芥や虫を入れられましたし、上履きに画びょうが入っていないことの方が珍しかったです。なんども世界を恨みました。力のない自分を恨みました。けれど!誰かが私のように傷付くのが嫌だった!」
『いい子ちゃんアピールですか?そういうの、疲れるんですよ』
「どうしてあなたは平気で誰かを傷付けることができるんですか!」
『それはお父さんとお母さんに聞けばいいんじゃないですか?それとも、クラスメイトに聞いてもいいと思いますよ。「どうして私を苦しめるの」って』
その理由はきっと……
「私が悪いから……ですか?」
すると、
『世界が滅びるまでもう少ししかないですけれど、この世界始まってからで一番面白いお話でしたよ。まあ、私が生まれたのも今日なのですが』
ケラケラケラ。
『ある意味であなたは自分を買いかぶりすぎなんですよ。自分が悪いから、だから、大好きな人は自分を苦しめる、と。滑稽ですよ。それは。あなたがその人たちをどれほど大好きでも、結果はこれですし、なによりあなたは人を、世界を信じすぎているんです。誰かが誰かを傷付けることになんて理由はありません。目の前に蟲が這っていたら指で押しつぶすのと同様に何の感慨なく、罪悪感など露知らずに人は命を奪います。そうですよね。人間という種族は犠牲の上でしか成り立ちません。命を多数奪って一つの命を成り立たせているというものですから。奪うことでしか生きられない、生きているだけで罪な存在。なら、この手でつぶしてあげた方がまだ世界のためだとは思いませんか?』
「それがあなたの、世界を滅ぼす理由ですか?」
『あの文脈からどうしてそんな答えが導き出せるのですか?私はただ単に、
『まあ、どうでもいいことです。ほら。もっと私を楽しませてくださいよ。ともを永遠に殺し続けるということがあなたにとってどれほど苦痛であるのか、是非とも見てみたい』
本当に悪趣味でした。
けれども、私には、自分がこうならないという自信がありませんでした。強い力を持てば――私が誰にも傷付けられずに生きていれば、もしかしたら
「だからこそ――私はあなたを倒してみせる!」
例え、私の心が潰れてしまっても。
私が私でなくなってしまっても――
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