カウント 6

「一体どうして――」


『どうしても何も、見たままだと思いますよ』


 待ち遠しき夜明けロストは私を冷ややかな視線で睨んでいるようでした。目はありませんが。


「フキちゃん。あいつは一体何を言っているの?」


 コトちゃんは焦った口調で私に問いかけます。


『ただ単に私の中のはざーどれべる許容量までエネルギーを取り込ませていただいただけです。ちなみに、私の戦闘力は――いえ、私はこういうキャラじゃありませんでした』


「どうも自分のキャラに悩んでいるようです」


『どうしてそんなところだけ切り取ろうとするんですか。本当に嫌な奴ですね』


「なるほど――それは由々しき問題だ。それはそうととうとう外伝が本編に、本編が外伝に変わってしまったな!」


「セラ。あなたは黙っていてくれないかしら。雰囲気がぶち壊れるの」


 コトちゃんの腕は細かく震えていました。


 冗談なんて言ってみますけれど、私もまた、体の芯から寒さがこみ上げてきて、どうしようもない不安感に襲われてしまいます。


「私たちの話はきちんと聞こえているみたいですね」


 待ち遠しき夜明けロストはなにも答えはしませんでした。


 私の問いかけに関係なく、言葉を紡ぎます。


『わかったでしょう?もうすでにあなたがたでは私に勝てないということに。私のはざーどれべるは未知数のX。ただでさえ、自壊を耐えきれる肉体となったのですから、抵抗などせず、大人しく待っていたらどうでしょう。世界の滅びの時を』


「そんな――」


「耳を貸さないでいいわ。フキちゃん」


 コトちゃんは待ち遠しき夜明けロストの声を遮るようにぴしゃりと言い放ちます。


「コトちゃんも待ち遠しき夜明けロストの声が――」


「いいえ。聞こえないし、あんな醜いものの声なんて聞きたいとは思わない。でもね、あいつが言おうとしていることは手に取るように分かるわ」


 コトちゃんは武道の型のように体を構えます。


「やるわよ。あんなやつに、世界を壊させてなるものですかっ!」


 コトちゃんは手のひらを待ち遠しき夜明けロストに向けます。


「フキちゃん。お願い!」


「はいっ!」


 私はバトンを待ち遠しき夜明けロストに向けました。バトンが七色の光を発します。


「みんな!力を貸して!」


 私の中からみんなが出て来ます。そして、一緒に魔砲を放ちました。


 私たちの放った魔砲とコトちゃんの放った魔砲は合わさり、勢いを増して待ち遠しき夜明けロストのもとに突き刺さります。


「法術焼きそばだ!ぼぼぼぼぉおぉおぉおぉおぉおぉっ!」


 セラちゃんがとどめに待ち遠しき夜明けロストへと一太刀を加えました。


『先ほどこの攻撃は効かなかったというのに、無謀という言葉を知らないのですね。それは罪ですよ』


 セラちゃんの刃は待ち遠しき夜明けロストの体に届いていました。けれども、その体には傷一つ、ついていません。


『ただ、まだ世界を滅ぼすほど力は回復していませんので、お遊戯の時間ですよ』


 待ち遠しき夜明けロストはセラちゃんの薙刀を掴みます。


 掴まれた薙刀は、簡単にバラバラになって、破片が雨のように空から降り注ぎます。


『さあ。楽しい時間の始まりですよ』


 待ち遠しき夜明けロストの背後の空間が卵の殻のようにひび割れます。パラパラと空の破片が落ちてきて――そして、一斉に音も立てずに空間が割れました。


 そこから現れたのは無数のワーム――


『さあ、世界の残酷さもお勉強できる一石二鳥のゲームですよ』


 ワームは私たちのもとへとゆっくりと歩み寄ってまいります。




「みんないなくなればいいのに」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る