カウント 7

「まさか……魔法天使がやられるなんて」


 コトちゃんは震える声で呟きました。


「しかし、倒せないわけではない。リナの……攻撃が効いていたのだから」


 セラちゃんは涙を必死でこらえながら言葉を紡ぎました。


 諸悪の根源たる存在、まだ見ぬ絶望ロストは高く上った太陽に重なるように揺蕩っていました。


「どうして何もしてこないんでしょう。世界を滅ぼす存在なんですから、世界を滅ぼすことができるんじゃないんですか?」


 私はもしかしたらただの言い伝えのようなものだったのではないかという希望にすがろうとします。


「そうだったらいいんだがな。本当に、魔法少女というものは能天気だ」


 幹は腕の中にある、心臓に赤い穴の開いた雷の亡骸をそっと地面に置いて言いました。


「この場の誰もが痛感している。あの存在を目にして、誰一人まだ見ぬ絶望ロストに勝てないであろうことに」


 幹は上空のまだ見ぬ絶望ロストを睨みつけました。幹の手についた血は赤黒く変色し、固まり始めていました。


「でも、諦めたらそこで試合終了なんです!」


「これは試合じゃない!」


 幹は横目で私を睨みます。


「命を懸けた戦いだ。負ければ死ぬんだ」


「あなたがそれを言うのかしら。多くの命を奪ったあなたが」


「お前もな」


 幹とコトちゃんは無言のまま見つめ合っていました。


「私は何一つ間違っていたとは思っていない。私たち妖精がいなければもっと早くに人類は滅びていただろう」


「あれはまだ完全ではないのでしょう?」


 幹はコトちゃんの言葉には答えませんでした。


「お前たちのはざーどれべるではアイツには勝てない。足手まといなだけだ」


「一緒に戦ってくれるんですか!?」


 幹はちっ、と舌打ちをします。


「仲間ではない。足手まといになるだけだといっただろう。アイツの速さには魔法天使でしか対応できない。それに、ヤツのはざーどれべるは今も膨れ上がっている。時間はもうない」


「私たちも手伝います。なにか方法があるんですか?」


 私はまだ見ぬ絶望ロストが時間を止めた空間でも動けたことを思い出します。もしかしたら、まだ見ぬ絶望ロストは時間を止める能力を手に入れたのかもしれません。


「お前たちは、私がまだ見ぬ絶望ロストのもとまで辿り着くための道筋を作れ。最後は私が決める」


「戦姫の力はなくていいのか?」


「どっかの役立たずがしくじったせいでまだ見ぬ絶望ロストも警戒しているだろうそれに、お前ではまだ見ぬ絶望ロストの素の戦闘力に太刀打ちできない」


「幹!貴様、言っていいことと悪いことが――」


「待ってください!セラちゃん。幹だって、きっとリナさんが雷を守ろうと戦ったことを分かっています」


「人間は道具だ」


「幹!」


「やめなさい。セラ。この人でなしも覚悟はあるのよ。そして、人でなし。最後に言い残す言葉は?」


「コトちゃんも何を言って――」


「なら、お前たちに尋ねよう。雷は――ライはパフィーに一体何を伝えようとしていたパフ。ライが死ぬ間際にパフィーに言いたかったことは何だったパフ」


「そんなの、簡単です」


 私は幹の黒い瞳を見つめました。


「ライはパフィーのおともだちだから、ってそう言いたかったんだと思います」


「そうか」


 幹はまだ見ぬ絶望ロストに向き直ります。


「頼むぞ!貴様ら!」




 私とコトちゃん、セラちゃんはまだ見ぬ絶望ロストを中心に三角形を描くように配置につきました。


「魔法天使に花を持たせるよりも前に倒してしまいましょうか」


「そうだな」


「みんな。よろしくね」


 私は私の中に眠る力に語りかけます。


 私の体から、ソラさん、アオちゃん、コロネちゃん、ミワちゃんが出て来ます。


「フキちゃん。それは――」


「私の新しい力。みんなの思いの詰まった力」


「そう……」


 コトちゃんは暗い顔をしました。


「いくぞ!」


「はいっ!」


 先陣は私が切ります。


「人々の心に宿るは希望の星。星は夜空に輝き、いつでも人々を見守っている。安らかに眠る子ども、肩を寄せ合い空を見上げる恋人たち。数多の年月を人々は星に希望を、夢に愛を重ね、見守ってきた。夜に降り注ぐ星の光は人々の中の夢と希望を照らし続ける。星は夜に限らず昼でも夜でも人々を見守り続けている。今、ひとたびそれを証明してみせよう。雲を吹き飛ばすひづつを持って――」


 私の手の動きと同時にみんなの手も動きます。


 5人はバトンを持つ腕をまだ見ぬ絶望ロストに向けます。


「スターライトブレイカぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ!!」


 版権とかそういうのは無視します。どうせ、閲覧数も少ないですし、リリカルなのは関係の人しかきっと文句を言ってきません。


「リリカルなのは関係の人ってどんな人なんでしょう?映画、絶賛放映中みたいですっ!よろしくねっ!」


 ちょっとリリカルなのは関係の人を装って宣伝してみました。


 私たちの放った魔砲は一つに合わさり、より大きな魔砲となって、まだ見ぬ絶望ロストに直撃します。


「わざと避けなかった――」


 まだ見ぬ絶望ロストは魔砲を受け止めようと片手を前に突き出していたのが見えました。


 魔砲はまだ見ぬ絶望ロストに当たり、まだ見ぬ絶望ロストに当たったところから少し幅が広がりました。ホースから噴き出した水が岩に当たって弾けるようなそんな感じです。つまりはまだ見ぬ絶望ロストはまだやられていないようです。


「まあ、そうでしょうけどっ!」


 今度はコトちゃんの番です。


「一々長い詠唱なんて面倒臭い!ゆゆゆだって省略してたんだから、死亡まほだって省略していいはずっ!」


 きっと、人気がなく閲覧数が少ないから許されているネタの数々です。


 まだ見ぬ絶望ロストの周りにいくつもの魔方陣が展開されます。魔方陣から空間を無視して岩の槍がまだ見ぬ絶望ロストに向かって突き刺さります。


「やった!?」


「訳はないのでしょうね」


 まだ見ぬ絶望ロストは岩の槍を器用に避けていました。岩はまだ見ぬ絶望ロストを絶対に逃さないように突き刺さっているので、まだ見ぬ絶望ロストはおかしな体形になりながら槍を避けています。その姿はまるでジョジョ立ち――


「是非ともこの小説が書籍化した際にはイラストを荒木飛呂彦先生に――」


「一体、なんの小説なんだ!?魔法少女ものが劇画タッチか?」


 すぐさまセラちゃんがまだ見ぬ絶望ロストに一太刀を加えました。


「というか、書籍化前提か!?いや、荒木先生と集英社がいいのであれば作者の下手な挿絵を荒木先生に書き直してもらっても――」


「いや、もっと言うべきセリフがあるでしょう!?」


 まだ見ぬ絶望ロストは器用に比較的自由だった右手の人差し指と中指でセラちゃんの薙刀を受け止めています。


「逆に考えるんだ。これでいいさと考えるんだ」


「何を言って――」


 と、まだ見ぬ絶望ロストの背後に白い影が現れます。


「ご苦労だった。魔法少女」


 幹はがっちりとまだ見ぬ絶望ロストの体を背中から抱きしめます。


「一体何を――」


 嫌な予感がよぎります。


 今から起こることが目に浮かぶように思い出されます。


 そう。私はこの光景を知っています。


 2年前、そそぎ灘タワーが崩壊した時に見た、あの光。


 エボルワームの繭を破壊した攻撃は、たった一人の少女の命を犠牲にして放たれた攻撃――


「廬山昇龍覇!」


「もう何でもありですかっ!」


 幹は12枚の翅を広げ、まだ見ぬ絶望ロストとともに空へと昇って行きます。


「ダメです!幹!そんな――そんな!」


 確かに先ほどまで争っていた仲ではあります。けれども、命を犠牲にして何かを成そうとするなんて――


 それだけは絶対に嫌だと、ソラさんの時に誓ったはずなのに――


「コトちゃん!止めて!」


 でも、コトちゃんは静かに首を横に振りました。


「まさか、コトちゃん……分かってて――」


 幹がどうするのかを分かっていてコトちゃんは幹を行かせた――


 バサリ。


 翅の音とともに幹とまだ見ぬ絶望ロストは空へと昇って行き、そして――大きな光の球が空いっぱいに広がって行きました。


 美しい色をした光でした。


 命が一つ、消え去る色。それは無色で、輝かしい光を放っていて――そして、だんだんと小さくなっていきます。


 だんだんと光はしぼんでいき、最後には一つの影を除いて、全てが消え去りました。


 残ったのは、たった一つの人影――


『これが自壊という奴なのですね。死んじゃうかと思いました。けれど、巨大なエネルギーに触れたおかげで私は更なる進化を果たしました』


 まだ見ぬ絶望は待ち遠しき夜明けとなって私たちのもとに降り立ちます。


『私の名前は待ち遠しき夜明けロスト

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る