20th contact らぶましーん

「しばらく変身できんやろから、ここでじっとしときや」


「でも……」


「アンタは戦う気ないんやろ?雷」


 ウチの言葉に雷は頷く。


「それと、ホンマにええんやな」


「ああ。きっとこれでパフィーも目を覚ますだろう」


「そうやとええんやけど」


 ウチはリナを置いて立ち上がる。


「ほな、リナのことを頼んだで」


「ちょっと」


 リナはウチの衣装のスカートの裾を握って言った。不安がっとるんはよう分かった。


「大丈夫や。ウチとこいつとはちょっとした共犯なんや。敵やない。ま、味方でもないかもしれへんけど」


 ただ、ちょうどウチにしかできへんことがあって、それを雷に頼まれただけやった。


「そう言うことじゃありませんわ!わたくし、あなたが死んでしまったものと――」


 目に涙を浮かべてそう言いよる。ほんま、敵わんな。


「ちょっとしたジョークや。死んだふり。誰か一人くらい気がつくとおもとったのに、気付かへんから、出てくるタイミング逃したで」


 逆ドッキリかと思たわ。


 まあ、ウチも本気であの時は死んだと思たし。


「この章のええとこ全部もっていったるさかい、ウチの雄姿をよう焼きつけときな」




 私はどうあればいいのか。


 一向に分からなくなった。


「ふぅむ。どうやら雷は逃亡者を逃がしてしまったようだね。初めから私が出ていればよかったんだが」


 魔法天使のその言葉を聞いた瞬間、私は立ち上がっていた。


 けれども、自分がどうしたいのか分からなくて、ただ漠然と魔法天使の後ろ姿を見つめていた。


「私は、どうすればいいんだ!」


 誰かの命を奪うことなどしたくはない。けれども、そうでなければ、世界は救われない。迷う。迷って迷ってどうすればいいのか分からなくて――


「迷っとるってことは、もう答えが決まっとるちゅうーことやないんか?」


 その声に私は驚き、振り向く。そこにはいるはずのない少女が立っていて――


「どいつもこいつもウチを殺さんでくれるかな?」


「マリ!?幽霊になって……」


「だから、殺すなって!」


 マリは私の頭を思いっきり叩く。大きな音が響き渡った。


「痛い!マリ!」


「夢やないことがわかったやろ?」


「幽霊拳法の可能性がある」


「ボケとんか!」


 またも叩かれた。痛い。


「ホンマ、腑抜けになってもたな、セラ。アンタはずっと、大事なものをもっとった。やから、自信があるように見えて、ウチは羨ましかったんや。でも、今のお前は犬でも食わへんで」


「ほう。嫉妬していたのか」


「なんでそこだけ切り取るねん」


 マリは大きくため息をついた。


「アンタは何のために頑張ってきたんや?守りたいものがあったんやろ?んなら、やりたいことをやりや。セラのやりたいことは結果的に世界を守ることになる。でも、それはおまけで、本当は世界を守ろうとかそんなたいそうなことは考えてへんかったやろ?それは、あのピンク髪も一緒やで。アンタとアイツはホンマにそっくりや」


 私は何故だか動揺してしまった。フキのことを思い出して、自分が間違っているのだと思ってしまって――


「自分の口からいいなや。セラは何がしたい」


 私のしたいこと。


 世界の平和とかそういうことを全部抜きにして、私が本当にやりたかったこと。それは――


「みんなの笑顔を守りたい!目の前の人々の笑顔を取り戻したい!」


「そやろ」


 自分で言った瞬間、心がとても軽くなった気がした。


「じゃ、周りを見てみ?」


 そう言われて私は辺りを見渡す。


 多くの魔法少女が負傷を負いながらも処刑場に向かっていた。それは魔法天使の命令だった。


「みんな嫌な顔しとる。苦しいんやろうな。体も痛いんやろうけど、なにより、誰も戦うことなんか望んでないんや。それも、同じ魔法少女と戦えときた。ついつい自分自身の姿と被ってしまうところも多かったりな。セラ。アンタはそんな顔をさせといてええんか?」


「でも、世界の危機が――」


 逃亡者からエボルワームの居場所を聞き出さなければ、そそぎ灘の悲劇を繰り返してしまう。お姉ちゃんと同じ犠牲を生み出してしまう。


「そこんとこは安心し。ウチが何とかするさかい」


「どういうことだ」


 私は顔をしかめる。


「ウチを信じて行こうやないか。今、アンタのしたいことをしにな。あのピンクは今何をしたいかしか考えとらんし。今、何をするべきやない。何をしたいかだけをな」


 私は前に進むことに決めた。


 不安はある。けれど、それはずっと私が持っていないといけないものだ。選択を間違えるかもしれないという不安。でも、それを否定してしまったら、選んだ未来は未来とは言えなくなるのではないだろうか。自分自身で選んだ責任を放棄した行動など、何の価値があるというのだろうか。


「本来、ウチはこういうキャラとちゃうけど、ここにおらんヤツの代わりかな」




 私たちはキワムさんのもとに向かっていました。少し遠回りになりましたが、もう少しで学校へとたどり着けます。


 でも、そう簡単なことではないようでした。


「魔法天使――」


 私とコトちゃんは突然現れた魔法天使に息を飲みます。


「どうしてここがわかったのかしら」


 コトちゃんの喉がひくついているのが分かりました。


「そりゃあ、ラスボスは円の達人と決まっているからね」


 鼻を鳴らす音が響きます。


「半径4メートルがせいぜいじゃない?」


「どうやら、ボ――私は王並みのラスボスらしいよ」


「こういうメタ発言って色々言われますよね」


 少し険悪ながらも、ちょっと手心を加えておかなければ、泥沼に陥りそうでした。


「リズムに合わせてボタンを押してね!」


「コトちゃん、一体何歳なんですか」


「い、いいじゃない。心はずっと12歳のままなんだから!」


 魔法天使は私たちの会話を静かに聞いていました。手の中のステッキをぱんぱんと鳴らしています。女帝のようなしぐさでした。


「私が何を言おうとしているのか分かっていると思うが――」


「みんな一人称が私で誰が話しているのか分かりづらいとか?」


「戯言はここまでにしておくか」


 それに、一人称が私で一番困るのが私です。読者の皆さんに誰が話しているのかを正確に伝えなければなりません。


「絶望がお前たちのゴールだ」


「妖精が言うセリフとは思えないけれどね」


 コトちゃんは構えます。私もまた、タイプ・ソーサラーに変身しようとして――


「ちょっと待った!」


 私たちの後ろから声がかかりました。


「ウチらにも見せ場を残しといてもらわんと」


 現れたのは戦姫の二人でした。


「またも、一人称が私のキャラが増えましたよ!?」


 4人もいたら、何がなんやらです。


「ウチはマリや。よろしくな」


「数が揃えば勝てると思っているのか?」


「日曜朝は8時30分から起きよう!プリキュアと死亡まほスピンオフ『花火に夜空を』が投稿されるぞ!カクヨムで。私のお姉ちゃんである月影夜空が主人公だ!セラです」


「色々詰め込まれ過ぎて頭に入ってきませんし、今まで名前を互いに明かしてこなかったというところが重要なあれになるはずじゃなかったんですか!?」


「いや、尺の都合で」


「何なんですか!この回。真面目な戦闘かと思ったら、急にメタ発言のオンパレードです!」


 マリちゃんは私の肩に手を載せます。


「なんや大変やけど、頑張ってな。ツッコミ。いつかウチらのトリオのライバルになることを祈っとるで」


「嫌ですよ!そんなの!」


「よーし、点呼をとるぞ!」


「なんですか?この薙刀姫は!仲間になった瞬間弱くなったり小さくなったり、ボケを連発するパターンですか!」


「素晴らしいわ。フキちゃん。ツッコミのキレが昔とは格段に上がっているわ。これはもう、私と夫婦漫才で新本のトップに君臨できるわね」


「もう、どっからツッコめばいいのか分からないよ。特にコトちゃんは!」


「一番の成長点はやっぱり、ツッコミね。これは次回作、学園もので漫才しかないわ。それも、女の子の二人で夫婦漫才。男装した女の子とそうとは気がつかない女の子とのゆりゆりな――」


『最高なのですわ!是非ともスタジオ五組でアニメ化を!なのですわ!』


「一番出てきてはいけない人のよく分からない幽霊みたいな残留思念が出てきてますよ!?」


 外伝以上の盛り上がりを見せています。


『いや、こっちだって負けてないぞ!なあ、ゆず!』


『わたしに振らないで。というか、作者の精神大丈夫かしら。プリチャンのしすぎ?』


「ええい!荒らすんじゃない!」


 魔法天使の言葉に私たちは正気に戻ります。


「私だけボッチとか、ひどくないか?外伝にさえ未だ出ていないんだぞ?」


「死亡フラグが立ってなくていいじゃないですか」


 となると、外伝出演歴のそこそこある私たちは今回分が悪そうです。


「ねえ、フキちゃん。この場は私たちに任せてくれないかしら」


 コトちゃんとセラちゃんが私の前に出ます。


「でも――」


「任せろ。それと、一つお願いがある」


 セラちゃんは私を真剣な眼差しで見つめます。


「一度、みんなの名前を呼んでくれないか?」


 私の頭の中には疑問符ばかりが浮かんでいますが、呼んでみることにします。


「コトちゃん」


「どうしたの?フキちゃん」


「セラちゃん」


「何か用か?」


「マリちゃん」


「鷺宮ってのはボケまくりなんかなぁ」


「それは私のセリフですよ!本当に!」


 自分たちが呼べと言ったんじゃないですか!


「フキ。これを」


 セラちゃんは私に何かを投げてきました。私はそれを受け取ります。


「これはコンパクト?」


 黒い線の入ったコンパクトはミワちゃんのもののはずです。


「新本の未来をうぉううぉううぉううぉう」


「何なんですか!この人!」


 ともあれ、私はミワちゃんのコンパクトを大事に手の中に包みます。


「やっとシリアスムードから解放されたから喜んどんやないか?」


 こんな中でも楽しそうなので許すことにします。


「頼んだぞ。フキ。デク人形のもとへ走れ!」


 私はキワムさんのもとへ走り出しました。




「どうした?幹。追わないのか?」


「キミらをさっさと倒して追いつくさ。時間はかからない」


「そうはさせないわよ?」


 睨みあう三人にウチは声をかける。


「悪いけど、ウチもちょいと用事があってな。抜けさせてもらうわ」


 ウチは魔女にとあるブツを投げ渡した。


「これは――」


 魔女は驚いて目を丸くする。


「おにいちゃんだいすきっこから伝言や。『今回は見せ場を譲ってあげる。でも、おにいちゃんは絶対に譲らないんだから』ってな」


 魔女は鼻で笑った。


「バカね、あの子は。もう、私たちには勝ち目がないのよ。私があの子を向かわせたのはそういうことなんだから」


 色恋ってのはようわからんなぁ。


 ともかく、ウチは役目を成し遂げんとあかん。


 ちょっと、戦線離脱やわ。

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