21st contact きゅうしゅつ
「なんだい?タイプ・ソーサラーへのチェンジャーを手にして。そんなもので強くなったつもりでいるのかい?」
何事にも余裕で、全てが計画通りに進むと思っているヤツは本当に嫌いだ。私たちは知っている。世界は思う通りに動いてくれないこと。願いに反して、苦しみや悲しみが蔓延していること。でも――
「それでも、私たちは戦うの。思い通りにならなくても!未来を信じて戦うの!」
「魔女であるキミが言うと滑稽だねェ」
歯を食いしばる。怒りを押し込める。
「世界に抗うことができなくて、それを途中で放棄した弱者が!ほざくんじゃない!」
「それはどうだろうか」
戦姫のセラと名乗った少女が声を出す。
「誰だって、世界から逃げ出したいと思う。誰だって、心が折れることもある。過ちだって犯してしまうだろう。でも、大切なのはそこからどう立ち直るかだ。未来をどう夢見るかだ」
「夢、か。心の底から滑稽だな!」
魔法天使は大声で笑いだす。
「夢など見たところで何も変わらない。むしろ、悲劇が増えるだけ。何よりもキミたちがそのことを理解していると思ったがね」
魔法天使は急に表情を真顔に戻す。
「くだらない。実に下らないから、絶版だ」
わたしは妖精を睨み続けている。でも、妖精は何も言わず、わたしと目も合わさず、それでいてどこかに去っていく気配もない。
「早く加勢しに行ったらいかがかしら?わたくしのことなど放っておいて」
「どちらに加勢するザウルス?」
妖精は黄色いたくあんの姿に戻る。
「そんなこと知らないわ。わたくしはあなたみたいな存在が近くにいるだけで吐き気がするの」
実際、お腹の調子はよくない。お腹のあたりに熱がこもっていてすごく不快だった。
「シグノマイヤー家は――」
妖精はこちらを向いて言う。
「かつてのサギノミヤの宿主ザウルス。500年ほどまえの出来事ザウルス。ライはそのくらいしか知っていないザウルス。そして、妖精たちはサギノミヤの宿主だった一族ということで、廃れかけていた一族に援助を始めたザウルス。何も考えずに、母親がお世話になった一族と言うだけで」
10年前、妖精が生まれた途端にその援助は始まったのだろう。
そして、リナリアの両親は人の心を忘れてしまった。望めば望むほど叶う欲望に目がくらみ、実の娘を道具としか見ようとしなかった。
「そして、何より、ライはリナとコロネのことを知っていたザウルス。あの孤児院を魔法少女剪定のために使うことを提案したのはライ、ザウルス」
「そう。それで?謝って済むと思っているの?」
「思ってはいないザウルス。けれど、ライにはなにもできないザウルス」
「そうやって逃げるのね。きっとあなたはそうなんだわ。そうやっていつも逃げている」
「そうザウルス。ライはそれほど強くないザウルス。迷って機を逃して、それを自分にせいにするのに、何も変わらないザウルス」
ひどく人間らしい妖精が気に障る。
「でも、ライも頑張るザウルス。すごくしょぼいことでも、頑張るザウルス」
学校の正門をくぐりました。くぐった先にはすぐにグラウンドがあります。テレビから見えたキワムさんの居場所はグラウンドでした。
そして、グラウンドにはここぞとばかりに多くの魔法少女が待ち構えていました。
魔法少女たちは私に向けてバトンを構えます。
「みなさん、そこを退いていただけないでしょうか」
私はタイプ・ソーサラーに変化します。もうすぐ、キワムさんのところにたどりつけるのです。力づくでも辿り着いてみせる、と言いたいところですが、私の強さはタイプ・ソーサラーになったところでそれほど変わらないそうです。タイプ・ノーマルが弱すぎただけだとか。タイプ・ソーサラーになってやっと平均的な魔法少女の強さだそうです。
「ちょっと強くなってみせて、そこを退けって言っているってことは、力づくでも通るということかな?」
戦闘の魔法少女が私に言いました。その言葉に私はたじろぎます。ぱっと見ただけでも100人はいそうな魔法少女を相手に私は無事でいられる自信はありません。
「例え、何人でも来ようと、私は必ずキワムさんを助けて見せます!」
虚栄であることは分かっていました。けれど、言ってしまった以上は頑張るほかにありません!
「リリカルマジカル頑張ります!」
「それは最後に言う言葉ではなかったのかい?」
先頭の魔法少女は言いました。
「さては、外伝のファンなんですね」
「ステマかね。前回もやっただろうに」
どうも結構なマニアのようでした。
「なあ、諸君よ」
先頭の魔法少女は私に背を向けて、多くの魔法少女に言います。
「きみたちは、これで納得しているのかね!こうやって小さな少女を大多数で攻撃することも。事件の関係者であれ、簡単に処刑してしまうことも!」
「あなたは――」
私は目の前で起こったことに整理がつきません。
「なに。私は5話ほどまえにきみに助けてもらったトラちゃんだよ。覚えているかな?」
「残念ながら、あまり覚えていないです」
確かに、行き倒れていたお姉さんを助けた記憶はありましたが……
「あたしは彼女に助けてもらった。彼女は戦いを望んでいない。それはきみたちもそうなのではないか?」
多くの魔法少女たちがざわざわとしています。みんな、トラちゃんの言葉に動揺しているようでした。
「あなた、裏切り者なんじゃない?」
どこかからそんな声が聞こえてきました。
「そ、そうよ。それにちょっと助けてもらったのだって、こうやって仲間にするためかもしれないわ!」
「んだと?親分の悪口を言ったのはどいつだ?」
「そうだ。ボスの悪口を言う奴は許さねえぞ」
「お前たち。静かにしろ」
トラちゃんは取り巻きの魔法少女たちの頭を抑えます。地面まで頭を押さえて、そして、魔法少女たちの頭がグラウンドの地面に食い込み、埋まりました。
「と、トラちゃん!?そんな――」
明らかに取り巻きの子たちは死んでいます。
「いててて。親分は加減を知らねえからな」
「そうっすよ、ボス。ウチらじゃなかったら死んでますって」
取り巻きの子たちは生きているようでした。
取り巻きの子の頑丈さもそうですが、トラちゃんのあの細腕でどうやってあれほどの威力を作り出すことができるのか――
「もし、魔法少女フバーハを倒そうって言うんなら、まず、あたしらを倒してから行きな!」
トラちゃんは拳をゴキゴキと鳴らしました。
『その必要はあらへんで』
突然どこかから声が響いてきます。それは遠くから聞こえるような聞こえ方でした。
『ウチは戦姫マリと言います。その子らとウチらが戦う意味はあらへん。なにせ、この子らはエボルワームの居場所を知らへんのやからな』
辺りから並みのようなどよめきが聞こえます。
『エボルワームを隠したんはその子らやない。別の魔女や。そして、魔法天使もそれはしっとったはずや。ちゃんとその証拠もある。やのに、全く見当違いのことをやっとるんや』
「どこから聞こえているの?魔法かしら?」
魔法少女たちの話す声は互いに交わり打ち消しあい、テレビの砂嵐のような音を立てていました。
『魔法天使はエボルワームを倒す気はあらへんかった。逆に利用して力にしようとおもとった』
「証拠はあるの?言葉だけでは信じられないよ」
その声の主に聞こえているのか聞こえていないのか分かりませんが、魔法少女は叫びました。
『証拠はちゃんとあるけど、今すぐには見せられへん。書類やしな。その他色々とアンタらにはショッキングな出来事が書かれとる。やから、自分らで決めぇ』
魔法少女たちは一斉に私の方を見ました。
『自分らが何を信じるのかは自分らで決めや』
私は一歩、魔法少女たちの前へと出ます。すると、ぞろぞろと魔法少女たちは道を開けました。
私はキワムさんのもとに向かって行きます。
校長先生が立って言葉を言う台にキワムさんは座らされていました。
「やっと、会えましたね。キワムさん」
私は少し涙ぐんでしまいました。
「泣くほどのことでもないだろう?」
「バカ。キワムさんは本当にバカです」
どれだけ私が心配したと思っているんですか。本当にどれだけ――
「泣いていては、見えているものでさえも見失うぞ」
キワムさんは私の顔に手を伸ばし、頬を流れる涙をそっと手で拭いました。そして、包帯がグルグルの顔で笑います。
「俺のために泣いているんだろう?お前はそんな奴だからな。本当にバカだな」
私はキワムさんが笑っているところを始めて見ました。研磨くんではなく、心を蝕まれた後のキワムさんが笑ったところを。
でも、私は突然不安になりました。だって、その笑顔が別れのあいさつのような気がして。
「フキ。これを」
キワムさんは私にコンパクトを握らせました。水色はソラさんの色です。
「コンパクトを渡すのが流行っているんですか?」
「何のことだ?」
キワムさんは不思議そうな顔をしました。
「さあ、キワムさん。一緒に帰りましょう!」
私はキワムさんに手を差し出します。けれど、キワムさんはその手を取ろうとしませんでした。
「残念ながら、俺はここに残ることになりそうだ」
「え?」
突然、頭痛が起こります。
これはワームが出る時のものです。でも、大きさは今までの比ではありません。つまり、これは――
「フハハハハハ。最高だよ。感動的な場面をぶち壊すのはいつでもどんな時でも最高の気分だ!」
私たちの前に現れたのは無数のワームたちと、それを率いるザウエルの姿でした。
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