The 3rd Show

1st contact すたんでぃんぐうぉーりやー


 私ははベッドの上の人物を一瞥する。


「呼ばれてるんでしょ?行けば?」


 監視対象に気を使われるのは癪だったが、監視対象は気を使ったのではないと口ぶりから分かる。


「逃げるなよ」


「この足でどうやって逃げるって言うの?コンパクトもアンタに渡したばかりだし」


 ベッドの上の少女の足には包帯が巻かれている。私は足に目を背けるようにして病室を出た。


 そして、病室の扉の前で待っていた少女を見据えた。


「先ほど、殲滅部隊は対象の監視任務から外れました。今後は情報をもとに逃亡中の魔女及び魔法少女を追ってください」


 そして、少女は病室に入っていく。


「わたしたちが監視任務に就きます。他の殲滅部隊のメンバーと合流してください」


 殲滅部隊とは大層な名だと思いつつ、私は残りのメンバーの待つ病室へと向かった。


 一つ目の病室の表札にはソラとだけ書かれてあった。


 魔法少女は魔法少女として契約した瞬間から名を奪われる。そして、魔法少女の運命に囚われ、自由を失う。


 病室の扉は開いていたが、私は病室の壁を叩いて合図をする。


「失礼する」


「別に開いとんやから、勝手に入ればええやん」


 髪の毛を橙色に染めた少女が私に目を向ける。


「あなたが、マリか」


「そうや。そういうアンタは何者や」


「私はセラ。殲滅部隊の隊長を務める」


 すると、マリは鼻で笑って言った。


「アンタみたいな真面目ちゃんが隊長やったら、すっごくやりづらいな。ま、どうせ形だけのお飾りやろ」


「もしもの時は私の命令に従って欲しいものだが」


「もしもの時、ねぇ」


 マリは心底おかしそうに笑い声をあげる。


「まあ、ええわ。それより、何か用があって来たんやろ?こいつのお見舞いか?」


 マリは関西弁の独自のイントネーションで言った。マリの傍のベッドには一人の少女がいる。


 だが、その様子は果たして生きているのかさえ判別できなかった。


「こんな姿になりよって、なにをしでかしたんかな」


 おかしそうに笑うマリを見て私は少しムッとする。


「逃亡中の魔法少女をかばって――」


「んなもん、知っとるわ。ただの世間話や」


 それよりも、とマリは私に続きを急かす。


「我が部隊は正式に逃亡者を追う任務に就いた。これより、逃亡中の魔女ピースメイカーと魔法少女フキを追う」


「まだ、捕まえられてへんかったんかいな。魔女はともかく、魔法少女くらいは何とかなりそうなものを」


「経過報告は受けているだろう?」


「やから、世間話やって。世間話くらいできへんとあれやで。ともだちできへんで」


 ともだちなどという不要なものをどうして作らなければならないと思いながら、私は口には出さない。一々無駄な会話をするのにも骨が折れる。


「もう一人の魔法少女を迎えに行く」


「魔法少女いうより魔法兵器やないの?ウチらは」


 私は面倒なので病室を後にしようとした。


「ホンマ、話がいのない奴やな。コイツをここに置いといてもええんかいな。ま、どうせ逃げられへんやろし、ええけど」


 だらだらとマリは私の後をついて来た。


「そんで?もう一人はどこや?」


「すぐだ」


 私は二個向こうの病室で立ち止まる。


 表札にはコロネとだけ書かれていた。


「邪魔すんで」


 マリはそうとだけ言うと病室の扉を開ける。


「あら。ノックもなしにレディの部屋に入るのはいかがかと思いますわよ?」


 柔和な笑顔を見せる少女がベッドの傍に座っていた。そして、もう一人、ベッドには一人の少女が居座っている。その瞳もまた虚ろで、症状は先ほどの少女に酷似していた。


 違いと言えば、体中に張られた電極と、譫言を呟いていることである。


「……始まっ……し~ずん……信用……死んで……」


「なんや、コイツは。変なことばっか言いよるで」


 マリの言葉に傍の少女、リナが答える。


「どうも空想の中のおともだちとお話しているようですわ。流石ギガロマニアクスといったところでしょう」


 ベッドの上の少女は特別な少女だった。これまでの魔法少女の中でもっとも強い能力を持っていたという。


 そして、先ほどの病室の少女も、私が監視していた少女も、そして、目の前の金髪の少女もみな、一つの要因のため、このような悲惨な状況に陥った。


「あなたがたがセラさんとマリさんですわね?どちらがどちらかしら」


「ウチがマリで、融通の利かん方がセラ。アンタはナニモンや?」


 誰が融通の利かない方かと私は心の中で毒づく。


「わたくしはリナ。シグノマイヤーのものですの」


「なんや、それ」


 特に興味もなくマリが尋ねる。


「妖精に守られる神秘の家系ですわ」


「あー、面倒やから、説明せんでいい。そんで、これで全員そろったんやな」


 私はリナにも説明をと思ったが、その必要はなかった。病室の中に一人の人物が顔を見せたからだ。


「やあ、殲滅部隊の諸君。調子はどうかな?」


 白い衣装に身を包んだ短い黒髪の少女が姿を見せた。


「魔法天使幹……」


 ある日突然魔法少女たちを束ね始めた謎の人物だった。自分を魔法天使と名乗ったその人物は私たち三人に魔法少女になる力を与えた。


「キミたちの手を煩わせて申し訳ないが、並みの魔法少女では手を焼く存在でね。まあ、ボク……いや、私が行ったらすぐなんだが、色々と忙しいのでね」


「エボルワームの件ですか」


 私は鷺宮邸跡地の結界での出来事を思い出す。二人の裏切り者を逃してしまった後、結界内でエボルワームを捜索したがどこにもいなかった。そして、エボルワームを育てていたと思われる魔女の存在もどこかに消えてしまっていた。


「今逃亡中の彼女らは関係はないかもしれないが、魔女の方は何かしらの情報を持っている可能性が高いので看過できない。私の予測では、もうエボルワームは移動できる状態ではないはずだが――まあ、キミらには関係のないことだ。さっさと倒してしまい給え」


「それは生死を問わないということですか?」


 リナが幹に尋ねる。


「まあ、命は保って欲しいかな。しゃべれる程度には。でも、無理だったら殺してしまってもいいよ。あれは存在しているだけで魔法少女の恥だ。だから、ね」


「分かりましたわ」


 リナは柔和な笑顔でそう答えた。


 私は二人の会話を聞いて嫌悪感しか湧いてこなかった。こいつらは人の命を何だと思っているのかという怒りだ。


「でも、なんで魔女と魔法少女をぶっ倒せんのや?数は山ほどおるやろ?」


「それは、逃亡している魔女と魔法少女は半分ほどキミたちの能力に由来するものを有しているからね。そこそこ面倒なんだ。ある程度のはざーどれべるがなければ対抗できない」


「はーん。そうか」


 マリはさして興味がなかったようだった。


「現在逃亡者の足取りを失っていてね。恐らくそそぎ灘に潜伏しているのは間違いない。だから、あぶり出して処分してくれ」


「分かりましたわ」


「ったく、面倒な仕事押し付けられたわ」


「……」


「どうした?隊長」


 私は幹に尋ねられ、答える。


「らじゃー」


 そして、殲滅部隊の初仕事が始まった。




 私たちはバスに乗り、そそぎ灘に向かう。


「しかしな、魔法少女がバスに乗るとか、変な話やな」


「仕方あるまい。魔法少女が逃亡中など、公にできる話ではないからな。それに――」


「でも、わたくしはバスに乗る機会がありませんから、嬉しいですよ?」


「どんだけお嬢様やねん!」


 私はリナの服装を見る。確かに、お嬢様といった風な上品な服装をしている。いざという時戦えるのか私は心配になる。


「そうや!折角ウチら初めて会ったんやさかい、自己紹介でもどうや?」


「いいですわね」


 自己紹介など、と私は思ったが、タイミングを逃してしまう。


「ウチはマリ。ついこの間まで西におった。西ゆうても隣町とかやないで?関西や。ま、よろしくな。そんで、コイツはセラ。見ての通りの仏頂面や」


「余計なことは言わなくていい」


 ふふふ、とリナは面白そうに笑っていた。


「お二人とももう仲良しですのね」


「仲などよくない!」


「うわっ。ひくわ。折角ともだちやと思とったのに」


 そう言われて私は少し申し訳ない気持ちになる。


「私は、セラ。そそぎ灘に住んでいた」


「好きなものはお好み焼き。ご飯と一緒に食べるんやで」


「余計な口を挟むな!」


 まったく、と私はバスの座席に深く腰を下ろす。


「わたくしはリナと申します。つい先日まで海外にいましたの」


「うひゃっ。マジかいな。キコクシジョってやつか?そんなら外国語ペラペラなんか?」


「まだ二年ほどしかあちらにいっておりませんから。それまでは新本にいましたの」


「なーんや。でも、お嬢様なんやろ?」


「家はお金持ちですわ。自分で言うのも恥ずかしいですけど」


 なるほどなー、とマリは相槌を打つ。


「まあ、このくらいにしておいた方がええんやろな。どうせ、ウチら特別な魔法少女は色々と特殊な事情なんやろうし」


 私は過去を知られることを少し恐れていたので安心する。


「そろそろ、そそぎ灘だ」


「この町が、あのそそぎ灘かいな」


 マリは見えてきたそそぎ灘を神妙な顔で見ていた。2年前の春、エボルワームによって破壊された町がそこにあった。


「ホンマ、どこらへんにおるんかとか教えてくれればいいのに。一つの町をまるまる探すんなんて骨ボキボキや」


 文句を言うマリを放っておいて私はバスを降りる。マリとリナもまた、バスを降りた。


「地元民のセラはん、観光スポット教えてや」


「そんなことをしている暇はないだろう?」


「冗談やて。でも、ホンマどこを探せばいいんか分からんな。どうする?バラバラで探すか?」


「いや、固まって行動するのがいいだろう。迷子になる可能性も否めないが、なにより、敵の能力は未だ未知数だ」


「でも、はざーどれべるは高くないと伺っていますわ」


「それは魔法少女の方。もし魔女と魔法少女に遭遇すれば、魔女の方を先に倒す。それでいいな」


「ウチらは単体でこそ能力を発揮するもんやけど――まあ、ええわ。たいちょーさんの言うことに従っておこか」


 私たちは三人で行動することにする。


 人々が歩き回る中、小さな子どもを中心に注意して回る。


「いっそ人相書きとかを書けばええのにな」


「だから、秘密裏な任務だと言っているだろう」


「でも、どうしてそこまで秘密にする必要があるのでしょう?」


 私はリナに電気屋のショーウィンドウを見せる。そこにはテレビがあり、テレビ番組が放送されていた。


「こういうように今や魔法少女はテレビに取り上げられるほどの人気者だ。そして、市民を脅威から守るヒーローとして印象付けられている。そんなヒーローが魔女とともに逃げ、世界を破壊しようと画策していると知れたらどうなるか――」


「なるほど。体面も大切ですのね」


 リナは興味もなさそうにショーウィンドウから目を離す。


「休みやからか人が多いなぁ。どっかに隠れとったら見つからへんで」


「そうですわね。なにか、おびき出す作戦でも考えなければ――」


 すると、マリは何かを見つけて走り出す。


「まさか、奴らが――」


 私は急いでマリの向かう先に向かった。


「なんだ?」


 私は目の前の光景に開いた口が塞がらない。


 マリはタイ焼き屋の前に立って涎を垂らしていたのだ。


「なあ、マリ。これは――」


「ええなぁ。やっぱ、タコ焼きもええけど、これはこれでそそるで。今川焼もええけど、やっぱたい焼きやな」


「おい!マリ!」


 私はマリをしかりつけようとする。


 だが、マリは何故か私に手を差し出してきた。犬にお手をさせるように。


「なんだ?この手は」


「お金貸して」


「なんでやねん!」


 私はマリの手を掃う。


「おお!ウチの専売特許を早速取りよった。これは、未来を感じるで」


 マリはうんうんと頷いている。


「まあ、わたくしもお二人ならいいコメディアンになれると信じていますわ」


「そういう話ではない!」


 どうも二人といると調子が狂う。


「今は任務中だぞ。買い食いなど……」


 その時、突然お腹が鳴った。


「なんや。腹減っとるんやったら食おうや。セラのおごりで」


「私ではない!それと、何故私のおごり確定なんだ!」


 私とマリは背後のリナを窺う。リナはお腹に手を当てていた。


「はしたないところを見せてしまいましたわね。でも、わたくしもタイヤキには興味がありますの」


 リナは優雅にたい焼きやの前に出て、たい焼きを三つ注文する。


「ウチは粒あん、な」


 店員は元気よく受け答え、たい焼きを作り始める。


「お支払いはカードでお願いしますわ」


 リナは小さなポシェットから黒いカードを取り出した。


 しかし――


「なんですって!?カードが使えませんの!?」


 リナは困った顔で私の方を見る。


「ごめんなさい。わたくし、外貨しか持ち合わせておりませんの」


 店員が困った顔をしているので、私は仕方なく、なけなしの小遣いを店員に渡した。


「おお。太っ腹やん」


「何故お前にもおごらねばならんのだ。というか、あとで返せ」


「そのうちな。出世払いっちゅーこって」


 マリは出来上がったたい焼きを私とリナにも渡す。


「くそっ。絶対に取り立ててやる。地獄の底までもな!」


 楽しみにしてるで、とマリはたい焼きを口にする。


「あつっ。はふ、はふぅ。ううん!やっぱたい焼きは焼き立てが一番や。どうや?キコクシジョ。美味いか?」


「美味しいですわ。ケーキのように甘いというわけではありませんけど、この控えめな甘さに餡子のつぶつぶな触感がたまりません」


「私はこしあん派なのだが」


 仕方なく私はつぶあんを口の中に入れる。


 口の中いっぱいに広がる餡子の風味は格別だった。これがしっかりと潰されていれば文句はないのだが。


「でも、つぶあんもいいものだな」


「やろ?こしあんなんて邪道や。関西なら一発で道頓堀に放り投げられとる」


「なんですの?それは」


 私たちは移動しながら話し、たい焼きを食べていた。


「呪いの川や。その川に鶏肉を売るおっさんを投げ入れてから、関西には不幸が訪れてな」


「まあ。そんな川が……関西は恐ろしいところなのですね」


「いい加減なことを教えるな」


 私は恐る恐るマリの頭をはたく。


「あまいで。たい焼きのつぶあんのように甘い。いつものツッコミのキレがない。さては、道頓堀の呪いを恐れとるな?」


「お前と出会ったのは今日が初めてだろう。ツッコミのキレとか言われたくはない」


「呪いの方はどうですの?」


「くっ。リナまで……」


 正直に言うとその手の話はあまり得意ではない。別に怖がっているわけではないのだが。


「それはそうと、こしあんだけは絶対に譲らない!今度、よい羊羹屋を教えてやる」


「つぶあんの羊羹に勝てるんか?」


「勝てるとも!」


「楽しみですわ」


 またも奢る役割を押し付けられるのではないかとひやひやしたが、今は任務中だと思い出し、たい焼きを口の中に押し込む。


「さあ、任務だ。行くぞ」


「お口のものはしっかりとなくなってから話さないと」


「そーや。はしたないで!」


「餡子を口にいっぱいつけているマリには言われたくない!」


 二人も任務であることは忘れておらす、のんびりとたい焼きを食べ終えて、辺りを巡回する。


「今度は観光地やな」


「だから、任務中だ」


 それに、この町に観光するような場所はない。唯一観光できたかもしれなかった町は2年前、エボルワームとの戦闘で壊れてしまっていた。


「任務が終わったら少しくらいはいいですわよね?」


 そうリナに問われて私は仕方なく首を縦に振る。


「だが、世界の危機が迫っていることを忘れずにな」


 その時、私たちの腕のウォッチが反応する。


「まさか、ライダーの力がわたくしたちに――」


「何の話だ」


 私は腕のウォッチを確認する。ウォッチにはワームの反応が出ていた。


「近くに魔法少女は――おらんようやな。どうする?ウチらが一番近そうやけど」


 私は悩む。今は逃亡者を追っている最中だ。もし、ワームの対応をしていた時に逃亡者が遠くに逃げ出してしまったら――


「どちらにせよ、近くに魔法少女がいてワームに人が襲われているのを見て見ぬふりをしたとなると、よろしくないと思いますわ」


「なら、決定やな」


 マリとリナはワーム反応のあった場所に急ぐ。私も、二人の後を追った。




「わざわざハザードワームを出してくるか」


「まあ、小手調にはええんやないか?」


 私はワームの近くに魔女の存在がないかを調べる。しかし、どうも魔女の反応はなさそうだった。


「これが陽動である可能性は?」


「知らへんで。それよりも、ハザードとなるとウチらでしか倒せんやろ。そんなこと気にしとる暇やあらへん」


 私は首のチョーカーに手を伸ばし――しかし、マリがそれを止める。


「体力は温存しとかんとあかんやろ。ウチはつぶあんパワーでいっつもの四倍増しやさかいな。それに、ウチの力、よう見とき」


 マリは首のチョーカーに手を伸ばす。そして、ボタンを押した。


 そのチョーカーからはとある薬品が体内に入っていくのだ。


 マリの首筋の血管が不自然に浮かび上がる。


「あんっ!あぁあぁんっ!」


 マリの顔は紅潮していた。目つきはトロンとし、恍惚に浸っているようだった。


 マリはウォッチを顔の近くまで上げ、言葉を放つ。


「時間やで!戦姫二式!」


 その掛け声とともにマリは一瞬で魔法少女の衣装を身に纏う。そして、辺りには機械的なパーツが浮かんでいた。


 マリは腕を大きく伸ばす。


「チェンジ!」


 マリの掛け声に呼応するように魔法少女衣装の上から機械的なパーツがエリを覆っていく。


 振るった腕から水鉄砲のようなものが現れ、変身は完了する。


「魔法少女マリ、タイプ・センキ。爆誕や!」


 マリは銃を構える。


「どうや?ウチの変身は。惚れ惚れしたやろ」


「いいから、早く倒せ。戦姫には時間制限があることを忘れるな」


「分かっとるがな」


 マリは腰にある水鉄砲のタンクのようなものを銃に取り付ける。


 そして、ハザードワームに放った。


「汚い色やからな。綺麗にお化粧しましょ」


 マリの放った攻撃はスプレー上になり、ワームの体に降りかかる。


「紅蓮の炎を身に纏い――うーん、続きが思いつかへん」


 すると、ハザードワームが赤く染まった場所から炎が噴き出す。ハザードワームは苦しそうに身を燻らせている。


「本場の裸踊りはもっとすごいねんで。まだまだ修行が足りへんわ」


 今度は青いタンクに切り替え、マリは青い色をワームに振りかけた。


「萎えたわー」


 今度はワームが氷漬けになる。ワームは完全に行動を停止した。


「しまいはコイツでどうや!」


 黒いタンクを装着したマリはワームに向けて銃を撃つ。霧状になった黒い液体はワームの体に触れ、その瞬間にこの世から消え去ってしまった。


「ふぅ。意外とつかれるなぁ。やっぱり」


 マリは普通の姿に戻る。そして、ぐるぐると肩を回した。


「宿が欲しいわぁ。どっかとってくれとんかいな」


「無理はするなよ」


「心配あらへん」


 私は心配になってマリに声をかけるがマリは平気なようだった。


「そう言えば、セラはこの辺りが出身と言っていましたわよね」


 私は嫌な予感がして、リナから目を逸らした。


 するとマリは面白そうな顔をする。


「じゃあ、泊めてもらいましょうか」


「賛成!ええやろ?」


「よくない!」


 しかし、宿をとる余裕もないし宿をとったという話も聞いていなかった。そもそもに子どもだけで止めてくれる宿などありはしないだろう。


「じゃあ、決定やな!」


「わたくし、楽しみでなりませんわ」


 なんだか、調子が狂う。


 私は仕方なく家に連絡することにした。






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