第20歌 番外編 きっと読者が望んだのはこんな物語だと思う そのいち
第20歌 番外編 きっと読者が望んだのはこんな物語だと思う そのいち
魔法。それはなんでもできる力。
「俺は初めから王になる運命だった気がする!」
今日から教師になる俺を衝撃が襲った。
クラックションのなる音。
週末の笛の音が響き渡ったと思ったが、俺の五体は満足だった。
「あなたは選ばれました」
俺の目の前には一人の少女が立っていた。伏し目がちな女の子。心奪われるほどの美少女だ。
「魔法少女に」
「えっと、すまん。もう一度話してくれるか?20代になると耳が遠くなるんでな」
「恥ずかしいことを二度も言わせないでください!」
自分で恥ずかしいとは思っていたようだ。
「あなたは魔法少女に選ばれたんです。キワムさん。ええっと……」
美少女はパラパラと手に持っていたハードカバーの本をめくる。
「これだ」
美少女は再び俺の顔を見つめる。
「わた……ぼくと契約して魔法少女になってください」
「すまんな。初日から遅刻するわけにもいかんので」
立ち去ろうとした俺に美少女は抱きつき止めようとする。
「待ってください!契約してくれないと私、路頭に迷うんです!」
「勝手に迷っていろ」
「あなたに人の心というものはないんですか!」
「タイムカプセルに埋めたのでな。いつの日か浦島太郎がそれを開く予定だ」
「何を言っているのか訳が分かりません!」
お前にだけは言われたくない。
美少女改め微少女(胸とか)は涙目で俺を見上げてくる。でも、そういう色仕掛けは俺に通用しない。
「こうなったら、おまわりさんを呼びますよ!一発で職を失います!」
「いや、襲われてるのは俺だろう?」
「いいんですね?」
俺は溜息を吐く。
「俺はな、今まで一度も遅刻をしたことがない。それが何故だか分かるか?」
微少女は首を横に振る。
「俺は100メートルを1秒で疾走できるんだ。だから、遅刻をすることはない」
「世界記録を軽く超えてます!ボルト選手の立場はどうなるんですか」
「センターバックじゃないか?」
「訳が分かりません!」
だから、お前ほどではない。
「お願いしますよ。これほどの美少女がお願いしてるんですよ?」
「まったくもって図々しい」
だが、遅刻をするわけにもいかない。
「分かった。契約してやろう」
「ホントですか!」
「ただし、条件がある」
「え、エッチなのはダメですよ?」
誰がお前にいたずらなどするか。
「条件はただ一つ。土下座して頼め」
「キワムさん。あなた、すごくエスですね」
「早くしないとどこかに行くぞ」
「是非是非!」
微少女は土下座をした。
俺はその内に100メートルを1秒で走り、その場を切り抜けた。
「もう。キワム。遅刻よ?」
「すまない。琴音」
俺は高校生になる幼馴染の琴音に謝る。
「どうも怪しいキャッチセールスに出くわしてな」
「どうせ可愛かったら相手をしてたんでしょ?」
図星なので、少し動揺する。
顔に出てしまったようで琴音の顔は笑顔になる。琴音は笑顔の時ほど心の中では怒っているのだ。
「うふふ。私という女がありながら、浮気をするとは。いい度胸じゃない」
別に俺と琴音はそういう関係ではない。
俺は仕方がない、と溜息を吐く。
「愛しているよ。琴音」
「やだ、キワム。こんなところで……」
琴音は顔を赤くして俯く。その隙に俺はその場を離れた。
「やっぱり、私も言い過ぎたと思うの。だから――」
顔をあげた琴音は事の顛末に気がついたようだった。
「キワム、アンタってやつは!」
俺は100メートルを1秒で走る。
「また乙女の心を踏みにじって!」
琴音は追いかけてくる。
朝から災難の一日だった。
「さて。今日から一年一緒に勉強するキワムだ。よろしく」
「オイオイオイ。女子校に汗臭い男かよ。朝っぱらから嫌なものを見たぜ。お前、今日遅刻したんだってな」
机の上に足を置き、不良ぶっている少女が言った。
普通にパンツが見えている。
「オイ。テメェ、どこ見てんだよ」
「見せてるんじゃなかったのか?」
「警察呼ぶぞ!セクハラだ!」
「俺も見たくないものを我慢して見てやってるんだ。済まない。トイレで吐いてきていいか?」
「テメェ、失礼な奴だな。表に出ろ」
まさか、初めて担当するクラスに不良が混じっているとは。
「お前が気に入った。放課後、体育館裏に来い」
そう言うとクラスが妙に色めき立つ。
「な、なんだよ、いきなり。こっちにも心の準備があるというか……」
「早く、授業の準備をしろ。俺は数学教師だからな。数学だけには厳しい」
本当は物理学なのだが、この学校にはすでに物理学の先生がいるので、数学教師として雇われることになった。
「ああ。そうか。その前に、少しだけ自己紹介をしろ。3分間だけ待ってやる」
「それだと一人6秒だけしか自己紹介できないことになりますが」
委員長っぽい少女が俺に意見する。
「6秒もあれば小細工には十分だろう。それと、お前は今日から委員長だ」
「なんでですか」
「それっぽい」
その後、その委員長に死ぬほど恨まれることになるのだが、それはまた別のお話。
「はい!じゃあ!ミワから!」
黒髪の少女が立ち上がる。
「ミワはおにいちゃんの妹なの!おにいちゃんはミワのものなんだから、絶対に渡さないもん」
「お前など知らない」
「ひどいよ!おにいちゃん!」
よりにもよって妹と同じクラスになるとは。つくづく、嫌な予感しかしない。
「タイムイズマネーだ。次」
「私は赤井南空です」
「分かった、委員長。よろしくな」
「だから、なんで委員長なんです?」
文句を言いつつも委員長は席に座る。
「はいはいはーい!いつも元気なみんなのアイドル、月影夜空だよ!ツキちゃんとか可愛いよ、とか呼んでね!」
「はい、次」
「先生ひどくない?もっとツキちゃんを可愛がってくれていいんじゃ――」
俺はツキの顔にチョークを叩き込んだ。
「次はコロネちゃんの番だな!やっとヒロインとなれたぞ!よろしくな!」
金髪ツインテだった。
「わたしはゆずです。コロネの幼馴染ですので、よろしくお願いします」
普通の子がいて俺も助かる。
「俺は光だ。それ以外の名前で呼んだら……ぶっ殺すからな」
何故か不良はもじもじとしている。さっきまでの威勢はどこにいったのか。
「私は蕗谷メブキと言います。みなさん、よろしくお願いいたします」
俺は見なかったことにした。
「ひどいです!今朝、あんな恥ずかしいことをさせたのに!」
クラスがまたも動揺する。
「いや、俺もお前があれほどの痴女だとは思わなかったからな。つい、警察に通報してしまったんだ」
「通りであの後おまわりさんが現れたんですね!」
お前が呼んだんだろう。
「それと、さっきのはなんですか!私が危ないことをしたみたいに!」
「しただろう?」
「してません!」
ともかく、全員が自己紹介をし終えたので俺は授業を始める。
「なんだか散々な日だった」
新任の教師である俺は部活の顧問とかいう面倒な仕事もないので早く帰ることができる。ちょうど部活帰りの生徒も一緒だった。
「しかし、魔法少女か」
「お呼びですか?」
「うわっ」
突如として現れた蕗谷メブキに俺は驚く。
「なんですか?魔法少女でも見たような顔をして」
「どんな顔だ」
歩き始めた俺に蕗谷メブキは話しかけながら後をつけてくる。
「どうですか?魔法少女。今ならお布団も一緒にお付けいたしますよ?」
「悪質な訪問販売か」
「いかがです?」
「あのな」
俺は叱り飛ばしてでも蕗谷メブキを遠ざけようとした。
「そもそもなんだ。魔法少女って。空想を語るのはいい加減にしろ」
「魔法少女は存在するんですよ」
蕗谷メブキは訳ありげに話す。
「キワムさん。あなたの夢は何ですか?」
「そんなもの……」
そんなもの、なかった。
ただ成り行きでこれまで生きてきて、成り行きで教師になっただけだ。そんな俺が夢を持って頑張っているとは言い難い。
「もしも世界に危機が迫っているとしたら、あなたは世界を救うヒーローになりたいと思いませんか?」
俺は――
「けれどもね、残念ながら、そうはさせないの」
俺のもとに光弾が飛んでくる。俺はとっさに蕗谷メブキをかばうように地面に伏す。どうやらギリギリで躱すことができたらしい。
「な、な、何をしてるんですか!キワムさん!」
「いや、変なものが当たりそうだったから避けただけだが」
「離れてください!」
俺は蕗谷メブキの望み通りに退いてやる。
「なんで簡単に退いてしまうんですか!」
「いや、退けって言ったのはお前だろう」
まったく、よく分からない娘だった。
「それで?琴音。どうしてそんな恥ずかしい恰好をしているんだ?」
琴音は露出の激しい黒い衣装を身に纏っていた。
「こういうバイトなの」
「それはまた、楽しそうなバイトだな」
先ほど攻撃を放ってきたのは琴音に間違いなさそうだった。
「キワム。あなたを魔法少女にするわけにはいかないの。じゃないとボーナスが貰えないから」
「結構現実的な理由だな」
「ともかく、フキちゃんを渡しなさい」
「はい。どうぞ」
俺は蕗谷メブキを差し出そうとする。
「あなた、それでも男なの?」
「そうですよ!」
「なんで俺は怒られるんだ」
琴音にまで怒られるのは納得いかない。
「私は魔女。人々を魔法で苦しめる存在よ。さあ、早くしないと人々が苦しみだすわ」
「どうやって苦しめるんだ?」
「深爪にするの」
「そうか。バイト、頑張れよ」
俺はもう関わるまいと思い、背中を向ける。
「仕方ない、か。シャドウ現れなさい!」
琴音は手を天にかざす。すると、地面から黒い影人間が現れた。
「さあ!キワムの足を全て深爪にしてしまいなさい!」
俺はやれやれ、と肩をすくめる。
何気なく拳を握ると、足を広げ左足を前に出しがら空きの影人間の胴に拳を叩き込む。
「ずばぴょーん!」
影人間は妙な声を出し、永遠に輝く星となった。
「な」
「なんで魔法少女でもないのにそんなに強いんですか!」
「俺は刃牙のモデルだからな」
「そんなの……無茶苦茶です」
ともあれ、一応平和は守られたようだった。
「なんで来ねえんだよ!キワム!」
一人、体育館裏でずっと待っていた少女がいた。
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