第14歌 潜む影
第14歌 潜む影
「はぁ、はぁ!なんでこんなことになってるの!?」
ワタシは長い長い螺旋階段を上っています。新たな部屋に来たというのに、ずっと階段続きです。
「って、そうか!」
私は箒を取り出しますが箒は現れた瞬間にいきなり爆発しました。
「ど、どうして!?」
確かに、謎の現象には驚きなのですが、なにより、どこまでも続く階段を上るという行為に絶望しました。
「体力を奪うのが目的、でしょうか。もしくは、時間稼ぎか」
そう考えると急いで登らないわけにはいきませんでした。螺旋階段のある部屋はグロックのいた部屋のように赤い月が見えません。階段以外は暗い闇で覆われています。終わりの見えない階段というのは精神的にもショックが大きいです。
「だからって、諦めるわけにはいかないから!」
私は少し休憩した後、突っ張る足を無理矢理奮い立たせて、怪談を上り始めます。
「ザウエル。状況はどうかしら」
ピースメイカーの言葉に白い魔女、ザウエルは答える。
「それはどちらについてかな?」
「どっちもよ」
王座についているピースメイカーをザウエルは一瞬睨んだが、悟られないほど早く、普通の顔に切り替える。
「入り込んだのは二匹。予定道理だね。一匹は新人と交戦中。もう一匹は決して終わらない廊下を歩いている」
「そう……」
ピースメイカーは軽く頭を横に振った。
「あっちの方はどうなの?」
「ああ、あっちか」
ピースメイカーはザウエルの声がひと段階暗くなったことに眉をしかめる。
「心配はない。
「あと二匹、なのね」
ザウエルは首を縦に振る。
「ロストには己の運命を呪ってもらわなければならないからね。ただ魔法少女を殺す存在であってはならない。そのための電池がもう少し必要だね」
彼女たちが必要としているのは、ロストが憎悪の対象として殲滅するであろう魔法少女の心の花だった。己の中に憎き魔法少女の片鱗があることを知ったロストは世界を滅ぼしつくす。そのために魔法少女の心が必要だった。
「なら、あとは待つのみね」
「仲間の心配はしないのかい?」
ザウエルは意地悪く言う。
「新人の相手ははざーどれべるが5以上はある。もう人間を辞めているレベルさ」
「魔女はすでに終わった存在でしょう?今さら、心配も何もないわ。咲いた花は散っていくだけ。いくら時を止めても、滅びは訪れるのだから」
ザウエルはピースメイカーの話を聞き流し、最後の部屋を後にしようとする。
「どこに行くの?」
「なに。配置につくだけだよ」
ザウエルは興味なさげに言うと、ピースメイカーの前から姿を消した。
「どうせ、この先一人ではフキは魔女たちには勝てない」
「オイオイ!お姉ちゃんたちの力を見くびるんじゃないぞ!」
「何度も言わせるな!ボクにとってお姉さまは一人しかいないんだ!」
扱いやすいやつだなあ、とワタシは思う。だが、それがアオらしくて、ワタシはためらってしまう。
グロックは琴を爪弾く。そのことにより風が発生し、ワタシを襲う。
「だがな!それは無意味だと知っているだろう!」
ワタシは鋼鉄の両腕でグロックの攻撃を防ぎきる。
「ふふふ。それはこっちのセリフだよ。コロネ。このまま防戦一方では、フキはどうなるか」
「それもそうか」
ワタシはグロックの攻撃を防ぎきると、すぐさま攻撃に映る。
この拳をグロックに届かせる。それは本気でやらないと叶わない。だから、今は心を鬼にして戦う他にない。
地面を思いっきり蹴って、グロックのもとに飛び出す。
「でも、届かないさ」
グロックは再び琴を爪弾く。ワタシはそれを防ぎつつ、グロックのもとに向かうが、空中に浮いているグロックとは違い、ワタシはグロックに拳を届けるために宙を舞わなければならない。それは、簡単に風の攻撃の影響を受けるということだった。
「ちぃ!」
宙を飛んでいたワタシは強風にあおられ、壁に激突する。左の頬が切れ、血が流れ出しているのが分かった。
「残酷描写なしが聞いてあきれる」
ワタシはすぐさま壁から離れる。離れた瞬間、暴風が今までいた場所を襲った。
「天才がその程度とは。警戒したボクがバカだったかな。所詮はのうのうと生きてきたバカだ」
「ほぉう」
少し、イラッとする。抑えてきた過去が溢れ出しそうで苦しかった。だが、そんなことに頭の機能を使っている余裕はない。ワタシは鋼鉄の両腕を消失させ、代わりにバトンを出現させた。
「なんのつもりだ。コロネ」
グロックの声色が戸惑いを含んだものになる。
「キミの新しいスタイルはより戦闘的な能力を引き出すものとばかり考えていたが、今さら汎用性を高め能力を落としたバトンを使うなど……ボクも舐められたものだ!」
再びグロックは琴を爪弾く。
ドからもう一つ高いドまでが暗い世界の中で美しく響き渡った。
グロックの攻撃の最大の強みは、不可視であることだった。軌道も変化系を用いているせいで深く読めない。風という性質上、前からしか攻撃が来ないというのがありがたいことだった。
ワタシはやたら滅たらにバトンを振るう。ただ、しっかりと数を数えている。
グロックと同じ風を操作して、刃を巻き起こした。
ワタシとグロックの攻撃はぶつかった瞬間に虹の粒をまき散らしながら小さな爆発を起こす。魔法の対消滅効果だ。同じ系統の魔法は相反する。故に、ぶつかった瞬間、消え去るのだ。
30発。
ワタシが放った攻撃の数だ。風はあらゆる方向において消滅しあい、そして、アオの髪は数本さらりと部屋に舞い散る。
「くそっ。ボクが負けるなど、あってはいけないことなんだ!」
グロックは再び琴を爪弾く。今度は三度もオクターブを奏でた。
ドから次のドまでは8つの音が存在する。ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド。そして、その数とグロックの攻撃の数とには関係性があると思っていた。
(24発、か)
ワタシの放った残りの6発の内、一つはグロックの髪を掠めた。他は部屋に傷をつけるほどだった。部屋は恐らく半径20メートルほどの円状だった。完全な円であるはずはないが、壁の角が見当たらない以上、四角くはないだろう。音の反響からもそれがうかがえる。
ワタシは70発以上の攻撃を避けながら、次の攻撃を模索する。
グロックが音を奏で終わるまでには1秒ほど要する。一秒で24発の攻撃を放てるのだから恐ろしい。これでは迂闊には近づけない。部屋の中心に位置するグロックまでの距離は20メートル。走っても2秒か3秒かかかる。仮に魔法で高速移動しようにも、目の前で攻撃を放たれてしまっては回避のしようがない。
「まったく、面倒な約束をしてしまったな!」
ワタシは生きてフキのもとに行く。フキのもとにアオを連れ戻どしてみせる。後の戦闘のことを考えるとあまり
「だが、本気でやらないとな!でなければ!」
でなければ、アオの目を覚ますことはできない。
ワタシはグロックの攻撃をよけきると、新たな
背面から胸のあたりにかけて装甲が伸びる。
「どんな手を使おうとも――!」
アオのは琴を爪弾く。
ワタシはアオから少し焦点をずらして、背後から伸びる砲身を向けた。
「そこから動くなよ?」
願いを込めた一撃だった。
背後の一門から放たれた魔砲はグロックの風を全てまき散らし、グロックの背後の壁を粉砕した。
壁は粉砕されたはずなのに、元の姿に戻る。
その興味深い事象については後で考えるほかにない。
「また……またまたまたまたまた!手加減した!」
「子どもかよ」
ワタシは激昂するグロックを呆れた目で見るが、アオもまた、ワタシと同じ子どもなのだ。
「天才であるボクを侮辱するのか!ボクの存在意義を揺るがすのか!」
「ほんと」
ほんと、コイツはワタシに似ている。
天才であることを捨てきれず、友だちが一人もいなかったワタシに。
「本当にお前はバカだ!」
ワタシは装備を
「お前はあの短い間、何を見てきたんだ!」
ワタシの声はまだ届かない。アオの心には届かないはずだ。でも、必ず届けて見せる。
「ワタシはな!何もできない奴をはじめは冷めた目で見ていたさ!本当に無力な存在だってな!でも、そいつは誰よりも本気で真剣に世界をよりよくしようと思ってた!みんなを守る気でいた!力があるワタシが何もしていないのに、アイツはどうしてそこまで頑張れるのかってな!」
人一倍泣き、人一倍笑う、そんな少女の姿をワタシは思い出す。それは何故か遠い昔のことのように思えた。
「うるさい!」
ワタシはすぐさま移動する。風は自由な軌道を取るので、その場にいてはいつ不意打ちを食らうかわかったものじゃない。
「お前はワタシと同じだ。才能に溺れ、大切なものを見失っていた!夢を見ることを忘れていたんだ!」
小さな夢さえ見れず、ワタシは生きることさえ惰性だった。でも、みんなと出会えて少しずつ変わっていった。こんな幸せがずっとずっと続けばいいと、本気でそう夢見たんだ。
「分かったような口をきくな!ボクはずっと一人だった!親に言われるがままに才能を開花させて、ちやほやされて!でも、そんなこと、ボクは望まなかった!ボクはたった一人でいいからボクのことを分かってくれる人が欲しかった!その人は心を食われてしまった!もう、ボクには!ボクには生きている理由なんてないんだ!」
「バカやろう!」
もう、ずっとバカとしか言っていない。
まだ、だ。まだ声は、想いは届いていない。
「くっ」
グロックは一瞬、自分の胸に手をやる。痛むのだろうか。胸にある傷が少し広がったように思う。
「早く決着をつけないとな!」
ワタシは魔法で足場を作る。グロックのもとに一直線に繋がる滑り台を。ワタシは滑り台の下りで、グロックが上り。だが、それでいい。
ワタシは最後の
変化系を駆使して一秒足らずでグロックのもとへと駆け付ける。
グロックは琴に手をやる。そして、爪弾いた。
だが、ワタシは
背中に灼けるような痛みが蔓延する。
大分傷は深いようだった。背中がどんどん生温かくなっていく。
「真っ向から防御もせずにやってくるなど狂気の沙汰じゃない」
グロックは鼻で笑う。物凄く悔しかった。
「でも、これでチェックメイトだ。さようなら。お姉ちゃん」
あと一歩、いや、あともうちょっと手を伸ばしてさえいれば、ワタシはアオにたどり着けた。なのに、なのに――
グロックは場違いな美しい旋律を奏でる。
それは一つの曲となっていた。ワタシの聞き覚えのない曲なのだから、グロックの、アオのオリジナルなのだろう。
その曲を聴いていると、なんとなく、苦しい気分になった。
直後。
ワタシは風の刃に襲われた。
「なんとももどかしいわね」
お兄様以外のことでこんなにももやもやするのは初めてだった。
フキたちのことを考えると、ミワはいてもたってもいられなくなった。ずっと寝ても覚めてもお兄様だったのに。
子どもの時から、といっても今も子どもだけど、小さな時からミワはお兄様に命を救われたと聞かされていた。ミワが2歳の時だったから覚えているはずもない。けれど、誰かに命を救われた、という実感はどこかにあった。
でも、お兄様はミワを守る時に心の花を蟲に食われて鷺宮からは遠ざけられていた。ミワはお兄様に会うことさえ許されなかった。お兄様はずっと虚ろな人形のように生気のない生活を送っていたという。そんなお兄様がある日突然魔法少女になると言い出して、妖精を捕まえたというのだ。鷺宮はサギノミヤとの契約により妖精を必要としない。だからなのか、鷺宮はずっと妖精を退けてきた。どうして妖精を退ける必要があったのかとか、は凄く疑問ではあったけれど、きっと鷺宮の一族は心の中でサギノミヤを憎んでいたからだと思う。
ただ、初めてサギノミヤらしきものとミワが接触した時、それほど悪い印象を抱かなかった。いい印象もなかった。光そのものといった感じで、印象が薄いというのもあるけれど、実際サギノミヤと一言二言言葉を交わして、この存在はこの世界ではないどこかから来たんだとそう確信しただけだった。
お兄様が不穏な動きを見せているということで、ミワはお兄様の監視役を仰せつかった。ミワは感激だった。お兄様はミワの中で永遠のヒーローだったからだ。
白馬の王子様。
命を救われたというそんなドラマチックなエピソードのせいでミワの中のお兄様は神の如く昇華されていた。
そして、実際に出会ってみて、より惚れた。
たくましい体にクールな態度。それでいて、誰も見捨てないようなやさしさと正義感を持ったお兄様だった。
ミワはお兄様と結ばれようと猛アタックを繰り返した。
けれど、お兄様はミワのことを見てはいなかった。
ずっとずっと、同居人の女の子ばかりを見ていた。
その遠い目から、無能なその女の子そのものを見ているのではないのは分かっていたけれど、ミワは気が気ではなかった。その瞳に誰を映しているのかを理解しているゆえに、より一層不安になった。
「やあ。心は穏やかかな?」
ノックもせずに誰かが入ってくる。
それは見覚えのない女の子だった。黒い髪が印象的な女の子。
「えっと、病室間違えてませんか?」
ミワはその子が間違えてミワの病室に入って来たのだと思った。けれど、その子はバカにするように鼻で笑った。
「まさか――アンタは――」
黒い髪。それだけがミワのなかで渦巻く。
「どうしてアンタがその姿になってるのよ!」
「まあ、落ち着かないか」
上から目線のその態度が本気で気に入らない。
「今からぼ……私たちは魔女の結界の中に飛び込む。君も一緒に来ないかい?」
「そんなこと、出来るはずがないわ」
できても時間がかかるだろうし、最悪迎撃が入る。あの女はそういう奴だ……と思う。
「第一、アンタには何もできないはず――」
「これを見てもそう思うかい?」
女の子はミワの目の前で変身した――
「どうしてアンタが!そして、その姿は一体――」
「説明しても意味はないと思わないかい?それよりも、早く急がないとキミの大切なお友達が死んでしまうよ。ぱ……私が結界の中に入る手助けをしてあげよう」
こんなやつと手を組むのは死んでも嫌だった。
でも、今のミワには死んでも守りたいものがあった。
いつしか、本当にいつの間にか、彼女たちの存在はミワにとってのお兄様より大きな存在へとなり替わっていたから――
「いいわ。反吐が出るような話だけど。どうせアンタらのことだから、裏でよくないことでも考えてるんでしょうけど。いいわ。手を組みましょう」
ミワは魔女との戦闘を考えて、あの女と殴り合うことを鑑みて、秘密兵器を持って行くことにした。
「光栄だね。サギノミヤの意思を継ぐ者。今回だけとは言わず、ずっと仲良くしたいものだが……」
「それなら、その偉そうな態度を改めることね」
ミワは魔法少女に変身し、動かない足に辟易しながらも箒に乗って、病室の窓からはじまりの場所に向かった。
「なんだ……」
「同じ天才なんだから、そんな化け物を見るような目で見ないでくれよ」
ワタシは立ち上がった。そこには五体満足の美少女の姿がある。
「さっきの集中砲火を浴びて、どうして無事でいられる!」
「そりゃあさ。あんな悲しい曲を聞かされれば、嫌でも本気を出したくなるっての」
眩暈は一層ひどくなっている。恐らく、ここで限界だろう。
「ワタシはお姉ちゃんだからな!そうだ!ワタシはお姉ちゃんなんだ!」
ワタシは否定した過去を受け入れる。例えワタシを捨てた家族でも、家族は家族なのだから。
「だから、ワタシはお前を救ってみせるぞ!アオ!」
舞い上がっていた煙が晴れる。その中から姿を現したのは最終形態
「つまりは全部乗せだな!」
てんこ盛りフォームともいう。
「どうしてまだ立ち上がる。心が砕けても仕方がないのに――」
ワタシは驚いているグロックの顔に想いを叩きつける。
「なにせ、
ワタシはもう一歩も引くことはできない。
「アオ!お前の心はワタシに届いた!だから、今度はワタシがお前に心を届ける番だ!」
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