第3歌 故郷へ
第3歌 故郷へ
私は電車で隣町へと向かっていました。
「どうして私は生まれ故郷に向かているのでしょう」
スピンオフとの兼ね合いです。
「そんな!?」
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2年前、このそそぎ灘では大きな事故が、いいえ、事件が起こりました。
「ひどい……」
町を幾つも区切るように大きな線が出来上がっています。
それは一つの場所を始点として幾つも伸びていました。
その始点となる場所はそそぎ灘タワーと呼ばれる場所。
そして、私はその事件が起こった時、そのタワーの近くにいました。
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「あれは、なんだろう」
私は朝早く家の近くにあるそそぎ灘タワーにおかしなものが引っ付いているのを見て首を傾げました。
「へ?」
お母さんはおかしな顔で私を見ます。
「あれだよ。あれ」
どうもお母さんには見えていないようでした。
赤黒く、とてもおぞましいものがタワーを覆うように引っ付いていました。
よく見ると時々もぞりと動いています。
「ねえ、なんだか危ないんじゃ……」
その頃、私たちは隣町へと引っ越すことが決まって、引っ越しの最中におかしなものを見つけたのでした。
そして――世界が終わったようなそんな光景を私は目の当たりにするのでした。
「え」
一瞬で目の前の地面が大きく削られました。
光がどこからか訪れて、目の前にあった隣の家や道路を根こそぎ消し去ってしまったのです。
「な、なんなんだ……」
慌てて家から出てきたお父さんが言います。
けれども、誰もが何が起きたのか全く理解できていなくて、どうすればいいのかも分からなくて、頭が真っ白になっていました。
「とにかく逃げよう。ここは危ない」
またも光が町を襲います。
私たちはどこに逃げればいいのかも分からず、とにかく逃げ惑うしかありませんでした。
(あれは……)
何かがそそぎ灘タワーへと飛んでいくのが見えました。
「人!?」
「早く逃げるわよ!」
箒に乗った可愛い衣装を身に纏った女の子がそそぎ灘タワーに向かっていました。
お母さんに手を引かれながら私は女の子が危ないと思いました。
そして、次の瞬間、そそぎ灘タワーを包み込むような大きな光が放たれました。
私は見ました。
光の中心にさっきの女の子がいるのを。
光は禍々しい何かを連れ去るように消えていきました。
残ったのは壊れきった街並みと、削り取られるようになりながらまだ立っているそそぎ灘タワーでした。
私たちは人々の波にもまれながら命からがら隣町へと避難しました。
ちょうど新築の家を買ったばかりで、来週には引っ越すつもりだったのです。
その後、政府から正式な発表がありました。
魔法少女に敵対する存在の攻撃であるというのです。
その時、私は魔法少女という存在を知りました。
その時からより一層魔法少女の存在は知られるようになったのです。
市民を守る正義のヒーローとして。
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私はまだ復興できていない町を歩きました。
今考えるとあの禍々しい何かはワームだったに違いありません。
そして、あの女の子は、きっと、命を懸けてみんなを守ったのです。
そして、私はあの女の子に救われた。
ソラさんも私を助けるためにあんな状態になってしまった。
「魔法は現実に影響を及ぼさないはずじゃなかったの?」
私には詳しいことはよく分かりません。
けれど、もしまたこんな恐ろしい存在が現れたとしたら、私は命を懸けて誰かを守れるのでしょうか。
壊れかけのそそぎ灘タワーを上っていきます。
なにか手がかりのようなものがないかと思ったのです。
けれど、あったのは被害の後と、その悲惨さが分かる町が一望できる景色だけでした。
「私は全てを知らなければならない」
そう思いました。
「それがとても辛いことだとしても、かい?」
「うん」
私はそう答えました。
「逃げることだってできるだろう?現実は決していいことばかりじゃない。ずっと子どものまま、夢を見ていたっていいじゃないか」
「それは違うよ。夢は現実から逃げるために見るものじゃない。現実をよりよくするためにあるものなんだって、私は気がついたから」
ソラさんも、あの女の子も、誰かを助けるために、命を懸けた。それはきっと現実をよりよくしたいと、そう願ったから。
散っていった魔法少女たちの願いを私は受け継ぎたい。
「君は思った以上に強いようだ。どっちみち、魔法少女には未来はないというのに」
「そうかな?魔女さん。夢はきっと現実を変えることだってできると思う」
「詭弁だね」
白い髪の少女はそう言いました。
「魔法なんて夢の中にしか存在しないというのに。あれほどまでにひどい目に遭っても君はそれが分かっていないとみた」
「魔法はあるよ。きっと、ある」
魔法はきっとある。
「誰だって現実は変えられる。奇跡だって起こせる。私はそう信じてるから」
「そうか」
白い魔女は陽炎のようにそのままどこかへと消えていきました。
「叶わない夢だってある。けれど、叶えたい夢もあるから」
絶望に沈むのは叶えたい夢を叶えてからだと私は思いました。
ひらり、と私の頭の上に季節外れの桜の花びらがそっと乗っかりました。
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カーテンを閉め切った部屋の中に一人の少女がうずくまっていた。
「やあ、元気、ではなさそうだ」
少女は突然聞こえてきた声に驚き身を縮める。
「だ、だれだ!」
声は震えていた。
体はそれ以上に震えていた。
「君の心が我には分かるよ。君は世界が怖い。そうだろう?でも、今のままでは世界に殺されてしまうよ?」
「お前に何が分かる!」
少女の声はしわがれていた。
ほとんど食事をとっていないせいだった。
声には覇気が少しもなく、蚊の泣くような声だった。
「分かるとも。君は目の前で最愛の人が、自分を認めてくれた初めての人間がいなくなってしまったのを見て、戦うのが怖くなった。だから、運命から逃げ出そうとしている。いや、君は逃げ切ったつもりなのかな?でも、コンパクトは君を追って戻ってくる」
少女は何度もコンパクトを捨てた。
だが、気がつけば傍にあった。
それは逃げられない運命そのものだった。
「いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ!」
何度も何度も最愛の人の散りゆく様を少女は思い出した。
忘れようとしても忘れられなかった。
その内、少女の記憶の中の最愛の人の笑顔も、だんだんと散りゆくときの恐ろしい顔に塗りつぶされていった。
「我がそんな君を助けよう」
「誰が魔女の言葉なんか――」
「楽になりたいだろう?でも怖くて自分から楽になれないんだ?さあ、君は今、何を憎んでいる。真実を知って、何を憎まずにはいられない?」
「それは――」
魔法少女という運命。
そして、その元凶である妖精。
「君は楽になれる。憎しみさえ持ち続けていれば、何も考えなくていいんだ。だから――」
白い魔女の衣服から小さな虫のようなものが落ちた。
「エボル。彼女の憎しみ以外の感情を全て食ってしまえ」
魔女の言葉に反応するように虫は巨大になっていった。
その姿は赤黒く、禍々しい。
ワームとなった虫は少女の胸に食いついた。
「うぅ……うあぁあぁあぁあぁあぁあぁ!」
「それがあの大罪人の感じた痛みだ。どうだい?感情を食われる気分は」
「あ、あぁ……あぁあぁあぁあぁあぁあぁ!」
少女から憎しみ以外の感情が消えていく。
かつての友との思い出も、最愛の人の記憶も。
「さあ、今日から君も魔女だ」
口が裂けんばかりに魔女は嗤う。
「君の名は――」
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