第二十三羽 明日も地球も投げ出せないから……
第二十三羽 明日も地球も投げ出せないから……
「私、決めました!」
「突如としてどうしたの?」
ソラさんが驚いて私を見上げます。
「コルトを仲間にします。コルトはいい子です。きっと悪い魔女仲間に誑かされているんです。だから、コルトと仲良くなって悪い友達付き合いを無くします」
「でも、それで毎回失敗してるじゃない」
ミワちゃんは爪にマニキュアを塗りながら言います。
「そうだよ、フキ。別にお姉さまをあの魔女が狙っているわけじゃないからどうでもいいことだけど、あの究極レベルのツンデレがそう簡単になびくとは思えないな」
「だったら、どうすれば……」
確かに少し考え無しではありました。
けれども、私はコルトを助けたいのです。
「コルトがつるんでるやつを調べるほかないのではないか?」
コロネちゃんは胸を叩いて答えます。
「どうだ!いいところどりだ!」
「なるほど!」
それはいい考えだと思いました。
**********
「ソラ。アンタはそれでいいの?」
「ミワちんがわたしの心配してくれるなんて、珍しい!」
「ふざけないで。下手をすれば冗談じゃ済まないことになる。アンタだからよく分かってるんでしょう?」
「そうね。確かにわたしは分かってしまっている。自分の弱さも、情けなさも」
***********
「コルト!」
「うわぁ!?」
コルトは驚いたようでした。
「どうしたの?こんなところで」
コルトは商店街にいました。
「いやさ、ただ芋羊羹を買いに行かされるだけでこれほど悪役としてのカリスマ性が落ちてしまうとは俺も思わなくてな」
どうもコルトにはコルトなりの悩みがあるようです。
「コルトは私のことをもっとよく知りたいって言ってくれたよね!」
「いや、あれはいろいろと誤解だってお前も知ってるだろうが」
「私もコルトのことが知りたいの!」
「くそっ。話聞きやがらねえ。お前らの中でお前が一番話を聞かねえんじゃねえか?」
「お前じゃなくてフキ、だよ?」
「おま――」
「フキだよ?」
「だからずうずう――」
「フキって呼んで?」
コルトは諦めたように溜息を吐きます。
「そうだな。フキ。俺はパシリでとんでもなく忙しいからさっさと消え失せろ」
「もっとコルトには私のことを知って欲しいの」
「俺は別に知りたくもねえんだよ」
「どうすれば私のことを知ってもらえるかな?」
「それはもう、拳と拳を交えるしかないだろ」
風に吹かれてコロネちゃんが姿を現します。
「また混沌とした話になる予感だぞ……お前ら、話を延ばしすぎだろ。次でもう二クール目終わるんだぞ?一唱はいつになったら終わるんだ?」
「でも、戦うのはダメだよ」
「だから、勝負だ――」
「俺抜きで話しを勝手に進めるんじゃねえ!」
************
コルトはマウンドに立っていた。
「なあ、本当にこれ、外伝でやるやつだろって」
バッターはフキ。
「コルトの全てを見抜いてあげる!そして、消える魔球を攻略する」
「そういえば、昔かいけつゾロリでとんでもない、食える魔球ってのがあったのをみんな覚えてるかしら」
「ゾロリはちょっと古いです」
「そうだぞー、年増。山寺さんが声をやってたことをほとんど人が知らないと思うぞ」
コルトは面倒くさそうに欠伸をする。
「ま、テメェごときに俺の魔球を受け止められるわけがねえ」
コルトは大地を蹴り、腕を大きく振りかぶって、剛速球を投げます。
きっと、バットとか折れます。
「あれがライジングにゃっとボール!」
「作者が一度野球の描写をした時には碌な終わり方をしなかったから嫌な予感がぷんぷんしやがるが、フキの泣きっ面が見られるなら、それでいいよなぁ」
「くっ」
あんな球、どうやって打てばいいのか分かりません。
そもそもに目が追いつかなくて、バットも重たくてどうしようもない――
「フキ!諦めるな!」
外野からコロネちゃんが声をかけてくれます。
「安心して打ってこい!ワタシがちゃんと受け止めてやるからな!」
「いや、お前外野だから、捕ったらフキがアウトだろうが!」
「頑張ってコロネちゃんに球を繋げるから!」
「野球のルールまで無視し始めた!?」
コルトは唾を飛ばします。
「まあ、どっちにしろ三振だろうがなぁ。所詮、テメェには受け止められなかったということだ」
コルトの必殺の一撃がその細い指の先から放たれます。
私は集中します。
絶対にこの一球を打たなければならない。
そうしないと決してコルトと分かりあうことはできない――
そんな時、どこからか声が聞こえます。
『あなたは――』
『そう。四天王最強にして最悪、橙――』
『別作品なので名前出しは厳禁です』
少し彼女はしょげました。
『攻略のキーワードは蜜柑汁をアイツにぶっかけるんだ。それだけでいい』
『もう、キーワードどころじゃないですよね』
私は隠し持っていたオレンジをボールとすり替えます。
**********
「いや、無理だからー!」
野球勝負ではコルトに勝てませんでした。
***********
「俺の勝ちだろう?そろそろ芋羊羹を買って帰らねえといろいろまずいんだが」
「次は歌合戦だ!」
***********
コロネちゃん、ミワちゃん、アオちゃんの三人と、私、コルト、ソラさんの三人にそれぞれ分かれて歌合戦をします。
「私とコルトが一緒のチームって、意味がないと思うんですけど」
「ま、気にすんな」
「というか、ミワがなんでこんなのたちと一緒に歌わないといけないの?」
「あっちはある意味個性が強過ぎるな」
コルトは闇鍋を覗き込むように言いました。
「まずはワタシたちからだ!」
一時はどのようになるかと思われましたが、それぞれの個性を突出させつつ、誰かが歌うと他の二人がそのフォローに入るといったような、即興で作ったとは思えないほど熟練された動きでした。
「何気に向こうはハイスペックチームね」
「俺たちは努力チームだ!」
「才能なんかには負けません」
私たちはコロネちゃんチームみたいにソロで歌えたり、ダンスが上手かったりなどはありません。
けれど、それぞれがそれぞれを認めてともにハーモニーを築くことはできます。
「コロネちゃんチームじゃなくて、ミワチーム、いいえ、おにいちゃんマジぞっこんラヴちーむの間違いでしょう?」
主張の激しさでは勝てる気がしませんでした。
(コルト、歌が上手い)
芯の通った歌声をコルトは持っていました。
私とソラさんは目配せをして、コルトの邪魔をしないように歌います。
だんだんとサビに近づいて行くにつれ心が一つになっていきます。
「まあ、課題曲がかえるのうたなんだけど」
そんな時です。
近くの林からそびえたってくる黒いものがありました。
「ハザードワーム!」
コルトは驚いて歌うのをやめてしまいます。
「どうしてハザードワームがここにいるんだ?誰かがいるのか?」
私たちは変身し、箒に乗ってハザードワームに向かっていきます。
「待てよ」
コルトが呼び止めます。
「なに?また邪魔しようって言うの?」
「もし近くに魔女がいたらどうする。普通の魔女は俺なんかよりはるかに強いんだぞ」
「敵の心配をするなんてアンタ、バカなの?」
ミワちゃんは肩をすくめます。
「ありがとう、コルト。でも、行かなくちゃ。私にとっての宝物はみんなの笑顔だもん。そのなかにはちゃんとコルトの笑顔も入っているから」
だから、そんな泣きそうな顔をしないで。
私たちはコルトの涙がこぼれないうちにハザードワームを倒そうと決意しました。
**************
「先週みたいに適当にどうにかならないの?」
「先週はネタ回だったからな!」
「今回は違うの?」
「最終回直前スペシャルに適当な理由で終わらせられると思うか?」
一同それぞれ考えます。
「別に終わらせられるんじゃ……」
「というか、最終回ってどういうこと?」
「作者のモチベーションの低下だな。諸々のことはきっと外伝で補足されるぞ」
「大丈夫ですよ。次回で第一唱終了なだけですから!」
しかし、ハザードワームはだんだんと強くなっている気がします。
「今までのワームと違い、学んでいるようだ」
そうなのです。
超極大魔砲を放つまいと暴れながら、私たちを散開させるように攻撃してきています。
「パワーも増加しててこれじゃあ、ますます足止めが難しい……」
特に私をターゲットにしているようで、私とみんなとを近づけないようにしています。
「一瞬だけでも動きが止まれば――」
そんな時でした。
どこからか禍々しい魔砲がハザードワームに向かって放たれます。
「これはまさか――」
「コルト!?」
「ったく、情けねえなあ、がきんちょども。ほら、今のうちになんとかしろ」
私たちは一か所に集まり、魔砲の準備をします。
「でも、コルト。どうして……」
「俺に何も言わず勝手に作戦を進めようとしているからだよ。それが気に食わねえだけだ」
コルトはそう言った途端、頭を抱えます。
「大丈夫?コルト?」
「持病みたいなもんだ。さっさとやっちまえ!」
私はバトンの先をハザードワームに向け、魔砲を放ちました――
**************
ハザードワームが消えた後、コルトはいなくなってしまいました。
「コルト……」
昼間の月は赤く輝いて見えました。
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