ある四月の放課後

カイ

第1話

卯月先生は、私のクラスの担任の先生。

でも、彼女は知らないのだろう。私が思いを馳せていることを。

さらさらの黒髪にシャンプーのいい香りがすること。

二人になると名前で呼んでくれること。

ノートにこっそり書いたメッセージも、ちゃんと読んで、顔文字付きで返事をくれること。

その全てが、私の心を掴んで離さなかった。

でも、彼女にとって私はただの一人の生徒。

ましてや同性じゃワンチャンスすらない。

本当に好きな人の性別なんて私にとってはどうでもいいことなのだが。まあそういうわけにもいかない。

×××


放課後の教室には二人しか残っていなかった。

 先生は学級日誌にコメントを書きこんでいた。いつもの丸まった字で。

「ゆりちゃん、どうしたの。放課後はいつもすぐ帰っちゃうのに。」

「別になんでもないです。」

 先生と少しでもいたかっただけ、というのは言えなかった。

ペンの音が響く。さらさらと。

「先生、」

「私の気持ち知らないでしょ。」

「気持ち...かあ。」

「誰かに恋をしてるのはわかるんだけど。」

うーん、と考えている。

「卯月先生だよ。私が好きなの。」

少し驚いたような顔をして、その後に微笑んだ。

「ありがとう。嬉しい。」

そういって頭を撫でてくれた。

「でも、あなたには私よりいい人がいるはずだよ。」

 先生はずるい。だって私よりはるかに大人だから。

 

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ある四月の放課後 カイ @kai_000

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