第43話

詩織「それだけ大事なの!このバット!」


雅紀「…まぁ、別に気にしないけど……、」


詩織「もう打ち終えた??」


雅紀「うん…とりあえず打ち終えたわ……、」


長谷川は常備されていたバットを元の場所に戻しながら答える。


詩織「あの…さ…凄い言いづらいんだけどさ……、」


雅紀「え、どした?」


詩織「さっきトイレ行ってる時にさ…ママから電話あって…今何してるの!ってお怒りの電話来ちゃって……、」


雅紀「え…マジで?……ほんと詩織の母親厳しいよな……、」


長谷川は物凄く悲しい表情で上村を見つめる。


雅紀「まだ19時なったばかりじゃん……、」


詩織「ほんとに…ごめんね……早く雅紀くんのこと…ママに紹介しなきゃ…だよね……、」


雅紀「まぁ…それもそうだけどさ……無理に引き止めたら…詩織の母親に誤解されちまうからな………今日は…この辺でお開きにするか……、」


長谷川は腑に落ちない表情で近くの柱時計に目を向けながら答えた。


詩織「ほんとにほんとにごめんね!この埋め合わせは今度するから!」


上村は両手を合わせながら長谷川にひたすら謝る。


雅紀「いや、謝んなって…なんで詩織が謝るの(笑)…………あとでLINEしろよ?」


詩織「うん…当たり前じゃん……、」


長谷川の優しさに安心したのか、上村は安堵の表情で答える。





潮彩高校周辺__

PM19:30_____


詩織「あ、もしもし詩織です、」


カレン『…そっちはどう?“角倉”と落ち合えた?』


詩織「すみません…まだ落ち会えてません…バッティングセンターから潮彩までかなり距離がありまして……もうすぐ到着します……、」


上村は冷や汗をかきながら潮彩高校までの坂道を登っていた。


カレン「……まぁ、多少のズレは問題ないわ…気にしないで…アタシもあと20分程でそっちに向かうから……、」


水嶋はかなり余裕のある声で上村に伝えた。


詩織「わ、分かりました……、」





潮彩高校裏門___


角倉「……ん?…オイオイ、遅かったじゃねぇか…裏門で先に待ってるって話だったろ……、」


詩織「ごめんなさい…ちょっと距離があったから……、」


上村は真剣な眼差しで辺りを注意深く観察しながら、例の八木を運んできた男:角倉と合流した。


詩織「誰にも…見られてない…?」


角倉「こっちは心配ねぇ……とりあえず手はず通りに体育館倉庫に行くぞ……、」


詩織「…うん…、」


上村は“全く微動だにしない”八木が入っている黒いビニール袋を見下ろしながら頷く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る