幽霊少女と屋敷

 僕はエリートだ。誰にも、誰にも負けない最高の男だ。僕のパパは大企業の社長で、今最も波に乗ってると言われている。

 僕もそんなパパの期待を背負い、国内随一の高校に入学。超一流大学に向けて猛勉強中だ。

 僕なら出来る。僕ならやれる。パパの期待は裏切らない。はずだった。


「なんだこの点数は?」

「それはその、たかが学校の小テストです。あの教師は抜き打ちで小テストを出す事が多く、それで……。」

「抜き打ちで小テストを出すとわかっているのにお前は気を抜いたという事だな?」

「それは……。」


 やってしまった。全くその通りだ。小テストを出す教師だとわかっていたにも関わらず、僕は勉強をせずに怠けてしまっていたのだ。

 パパは厳しい。それはもちろん、僕が出来る人間だと信じてくれているからだ。だからこの慢心を、僕は重く受け止めなければならない。


「申し訳ありませんでした。以後、同じ過ちを繰り返さぬよう気を付けます。」

「当然だ、二度とこんな点数を見せるな。」

「はい……。」


 パパは期待してくれている。僕はパパの跡継ぎとして、こんな小テストごときで躓くわけにはいかない。

 大学受験も近い、ここが正念場だ。

 僕は自分の部屋に戻り、机に向かった。


「しまった、デザートを食べ忘れた。」


 勉強前に甘いものを食べ、集中力をあげる。僕なりの気持ちの切り換えに必要なものだ。執事に声をかけ、デザートを持ってくるように指示をした。

 しかし、しかしだ。いつもなら素早く持ってくる執事が遅い。何をもたついているのだろうか。


「ぼっちゃま、申し訳ありません。先日購入したはずのデザートが見当たらず……。」

「は?何を言ってるんだ?」

「どうやら、誰かに食べられてしまったようです。」

「なんだと?僕のデザートに手を出すだと?見つけ出してクビにしろ!」

「は、はい!」


 ふざけた奴がいたものだ。この僕のデザートを盗み食いだと?不敬にも程がある。だが、だがしかし。ないものは仕方がない。諦めて勉強を始めよう。


「うわぁ、絶対私が食べたアレじゃん……。」


 ぼそりと女の子の声が聴こえた。僕が思わず振り向くと、僕よりも幼そうな少女が部屋に入っていた。


「誰だお前は!?」


 僕は驚いて立ち上がった。一体どこから侵入したと言うのだろうか。

 しかも、しかもだ。この屋敷に似つかわしくない貧乏人のような白いワンピースに、手入れもしていなさそうな長く黒い髪。誰かに見つかれば1発で追い出されそうな女の子が、僕の部屋まで入ってきている。


「え?あれ?私が見えるんですか?」

「な、何を意味不明な事を……!出ていけ!誰の許可があって僕の部屋に入ったんだ!?」

「そっか、見えちゃったんだ。それなら仕方ないですね!」

「何の話をしてるんだ!」


 僕の話を聞いているのかいないのか、勝手に納得をしている。

 ここまで堂々とした不審者は見た事がない。


「初めまして、幽霊です!さっそくですが、この世でやり残した事はありますか?」

「……は?」


 コイツは頭がイカれているのか?人の屋敷に侵入しただけでなく、自分が幽霊だと?


「おい、誰かいないか!不審者がいるぞ!」


 こんな、こんなに頭のおかしい奴と話している時間はない。さっさと追い出してやろう。

 すぐに執事が部屋に入ってきた。


「どうされましたか!?」

「コイツ!勝手に僕の部屋に入ってきたんだ!さっさとつまみ出せ!」


 僕は自称幽霊を指差し、執事に指示をした。

 しかし、しかしだ。執事は部屋の中をきょろきょろと見渡し、不思議そうにしている。


「あの……ぼっちゃま、どちらの方の事でしょうか?」

「は?他にいないだろ!コイツだよコイツ!」

「え、えーと……。」


 執事は何故か困っている。どう見ても他にはコイツしかいないのに、ふざけているのだろうか。


「あ、私の姿は多分あなたにしか見えませんよ!」

「ふざけるな!そんなわけがあってたまるか!おい、他の奴を呼べ!」


 その後、何人も使用人を呼んだが、誰一人コイツの存在に気付かなかった。

 それどころか、僕がデザートが食べられなくてふざけているようにすら見られた。

 悔しいが、コイツが幽霊なのは間違いないようだ。

 使用人たちを全員追い出し、部屋には僕だけになった。正確には、僕とこの幽霊女だ。


「お前は何なんだ。」

「幽霊です!」

「じゃなくて、なんでここにいる?」

「甘いものを食べたくてデザート食べちゃいました!」

「食べるのか!?幽霊が!?」

「ごちそうさまでした!」

「いらねぇよ事後だよ!それより、なんで僕にだけ見えるんだ!」

「私は、"死期が近い人"にだけ見えるんですよ!」


 コイツの説明によれば、コイツが見えるようになってしまったら、短ければすぐ、長くても1年で死んでしまうらしい。

 まさに死神のような存在だが、僕は妙に納得してしまった。


「え?お父さんに殺されるんですか!?」

「そうだ。僕のパパはあの大学に入れないような息子は求めていない。"落ちたら死ね"、そう言われてきたんだ。つまり僕は、落ちるって事だ。その証明がお前なんだろ?」


 この努力も全て無駄だった。僕は信じてくれているパパを裏切り、大学に入れない。

 まさか受験より先に結果がわかってしまうとは思わなかった。

 諦めていた僕に渇を入れたのは、僕を諦めさせた張本人だ。


「でもでも、たしか"私が見えていたのに見えなくなった人"もいたんです!」

「……つまりそれは、死期を遅らせる事が出来るという事か?」

「大学に受かれば、お父さんに殺されませんよ!」


 そうか、そうなのか。これも試練か。最近怠けていた僕に課せられた試練だ。受からなければいけない事実が変わったわけでもない。

 それなら、それならば、自分の実力が足りないなら、もっともっと勉強すればいい。

 僕が落ちるわけがない。パパの期待を裏切るわけがない。

 僕はその日からより勉強に力を入れた。幽霊女が隣でうるさかったが、デザートを与えたら大人しくなる事もわかった。本当はかき氷が好きらしいが、"かき氷は夏に食べるもの"と言って聞かないから、日毎にデザートを与えている。


「そういえばお前、いつでも僕の傍にいるわけじゃないよな。学校の時とか、寝てる時とか、どこに行ってるんだ?」

「ふっふっふー!私にも野暮用というものがあるのです!」

「幽霊の野暮用ってのもおかしな話だ。他の"死期が近い人"の様子も見てるのか?」

「それはどうでしょう!」


 別にコイツの事が気になるわけじゃない。ただ、コイツが見えるかどうかが僕にとっては大事だからだ。

 コイツが見えなくなれば、僕は死ななくて済む。だから、だからこそ、本当ならいつでも近くにいてほしい。

 いつでも近くにというのは、僕が僕のためにという意味であって、そこに深い意味などない!


「ふん、僕にはどうでもいい事だけどな。……だが女。」

「女って呼び方やめてくださいー!」

「し、仕方ないだろ!お前は名前も覚えてないんだ!他に呼び方がないだろ!」

「あるじゃないですかー!例えば、レディとか!」

「はぁぁ!?なんでお前みたいな野蛮女をレディと呼ばなきゃいけなんだ!」

「野蛮女!?ひどいですぅ……。」

「あ、いや……すまない、今のは言いすぎた……。って、そもそも自分でレディっておかしいだろ!」

「誰かが呼んでくれた私の呼び方です!忘れちゃいましたけど。"幽霊になってからの記憶"も曖昧なもので!」


 コイツがいると勉強に集中出来ない。だが追い払いたいわけではない。

 そもそもがおかしいのだ。僕はエリートで、超優秀な男だ。それなのに、こんな女がいるだけで集中力を欠く。

 しかも、しかもだ。生身ではなく幽霊だ。気付いたら部屋にいるし、気付いたら部屋の中を浮遊している。

 高い位置で浮遊されると、僕の目の前にコイツの足がくる。実に、実に不愉快だ。まるで見下されているかのようだ。

 僕はその時、顔を上げることが出来ない。決して、決して変な意味ではない!


「レディと呼ばれたいのなら、せめてもう少し淑女としてだな……。」

「しゅくじょ?それって食べれますか?」

「お前は食べる事しか脳にないのか!」

「えへへ、でも美味しいもの食べると幸せですよ!」


 無知も程々にしてほしい。そもそも真面目な会話が成り立たない。だが、だかしかし、悪い気はしない。受験間近で追い詰められているはずなのに、どこか心が楽だ。


「私もお手伝いします!すたでぃー!」

「こら、ノートを持っていくな!返せ!」

「きゃーっ!」


 ノートを少し乱暴に奪い返すと、同時にひらひらと写真が落ちてきた。

 僕はそれを拾った。


「"満開の桜"の写真?」

「あ、私のです!」

「こんなもの持ってたのか。幽霊も写真なんか撮れるんだな。」

「これは……私が撮ったものじゃないんです。」


 幽霊女は写真を奪い返し、大事そうに握った。

 誰かとの思い出なのかもしれないが、僕が容易に触れていい事でもないのかもしれない。

 僕はこれ以上その写真に触れる事はしなかった。


「デザートを用意させるから、少し集中させてくれ。」

「本当ですか!?やったーっ!」


 ともかく、こういう息抜きも悪くないのかもしれないな。

 合格した暁にはコイツに、もう食べられないと言わせるほど食べさせてやる。その時、僕にはコイツは見えないだろうけどな。


 時は過ぎ、受験が終わった。やるべき事は全てやった。正直怪しい部分もあったが、力は出せたと思っている。

 合否はまだだし、コイツの姿も見えている。結果が出れば全てが終わる。いや、いや、僕の新しい人生が始まる。


「大丈夫です!絶対合格出来ますって!」

「当然だ。僕を誰だと思ってるんだ?女、お前との関係もこれで終わりだな。」

「女はやめてください!でも、私も……それを願っています。」


 何故だろう。心がチクリと痛むのは。コイツと会えなくなるのは、僕にとっては願ってもない事のはず。

 こんな貧乏で野蛮な幽霊女に毎日デザートを提供する役目は終わりなんだ。

 だから、だから、これでいいはずなのだ。


 発表の日が訪れた。ウェブで自分の受験番号等を入力し、確認する事が出来る。

 僕の手は震えている。合格出来なければ、僕は死ぬ。大丈夫、大丈夫、と心の中で何度も自分に言い聞かせる。

 しんとする部屋の中、僕と幽霊女二人きりの静まり返った空間。


「おい女、いいか?確認するぞ。」

「だから女はやめてくださいー!」


 このノリが出来るのもこれが最後だ。これを確認すれば、生きるにせよ死ぬにせよ、コイツと話をする事はなくなる。別れの挨拶が出来る時間もないかもしれないが、それもそれでしんみりしなくていい。

 僕は間違えないように一桁ずつ入力し、全ての番号を入力してから再度間違いがないか確認した。


「いくぞ。」

「はい!」


 画面に表示された言葉。僕は思わず口に出して読み上げた。


「合格……おめでとうございます……!やった、やったぞ!僕は、僕は合格したんだ!」

「はい!やりましたね!」

「これで、僕はパパに認めてもらえる!死ななくて済むんだ!待ってろ!今すぐ報告に行ってくる!」


 僕は部屋を飛び出し、パパの元へ向かった。

 自然と笑みがこぼれ、全速力で駆け抜けた。

 この時間ならまだ部屋にいる、僕はパパの部屋のドアを思いっきり開いた。


「パパ!」

「ノックくらいして入れ。それにパパと呼ぶのはやめろと何度も注意したはずだ。」

「す、すみません父上……ですが聞いてください!大学に合格しました!僕は合格出来たのです!」

「……そうか、よくやったな。」


 よくやった。パパが僕を褒めてくれるのはいつ以来だろうか?

 この言葉を聞くために、僕は頑張ってきた。そしてついに、ついに僕はパパに認められたのだ。

 これほど喜んだ日はない。僕は栄光を手にした。しかし、しかしだ。少し胸に穴が空いたような気分だ。

 そうだ、僕はもうアイツと話す事は出来ない。いや、いや、それでも早く部屋に戻ろう。

 まだ間に合う。まだ消えないでくれ……。

 僕は急いで部屋に戻り、またドアを勢いよく開いた。


「女!」

「おかえりなさい!って、女はやめてくださいって!」


 まだ、見えている……。僕の目に、まだコイツは見えている。

 まだ死の危険性があるという事も忘れ、僕はコイツがまだ見えている事に安心した。もう少しだけ、コイツと過ごせる。

 僕は息を整え、服装も整え、表情もキメた。


「おい女、合格祝いだ。僕をずっと応援した礼として、今日はその腹を嫌というほど満たしてやる。」

「だから女って……えっ、本当ですか!」

「当然だ。僕を誰だと思っている?今日の夕飯は部屋で食べるとシェフに伝えてくる。ありったけの食材をお前にくれてやろう!」

「わーい、合格祝いばんざーい!」


 子供のようにはしゃいでいる姿を見ていると、心が落ち着く。例えこの姿が見えなくなったとしても、僕にとっては唯一無二の存在だ。

 シェフと話す間に見えなくなるかもしれない。僕はその姿を目に焼き付けた。


「もし僕がお前を見えなくなったとしても、夕飯は食べていけ。もし、もしもだ。お前がいいなら……今後も夕飯は一緒に食べてもいい。見えなくても、一緒に食べるくらい出来るだろう。」


 例え見えなくなったとしても、僕はコイツにいてほしい。ひねくれものの僕なりの精一杯の伝え方だった。

 僕の声は震えていたかもしれないが、情けない姿もとっくに見られていた。僕の全てはもう知られているんだ。今更怖くもない。


「はい。あなたが食べていいと言うなら、喜んで!」


 僕は心の中でガッツポーズをした。にやけそうな顔を手で隠し、幽霊女に背を向けた。


「い、今からシェフと話をしてくる。お前はここで待ってろ!夕飯のメニューがわかっちゃ面白くないだろう!」


 今一緒にいたら顔のにやけが抑えられない。離れる理由はなんでもよかった。

 僕はそのまま部屋を出てドアを閉めた。

 隠しきれないにやけ顔のまま、歩き始めた。

 アイツの喜ぶ顔が目に浮かぶ。見えなくなるかもしれないが、今後も約束してくれた。僕とアイツはこれからも……。


「ええ、ええ。そちらの件はもちろんでございます。」


 途中、執事の声が聞こえてきた。どうやら電話をしているようだ。

 僕はにやけ顔を抑えるために立ち止まり、一息ついた。

 その間にも、執事は電話を続けている。


「お約束の金額、ご確認頂きありがとうございます。これからぼっちゃまをよろしくお願い致します。はい、ええ、それでは失礼致します。」


 約束の金額?僕をよろしく?何の話をしているんだ?

 その時、僕の脳裏に最悪の方程式が出来上がった。


「おいお前、今の電話、誰としていた?」

「ぼ、ぼっちゃま!?」

「答えろ。」

「……申し訳ありません。旦那様より口止めされております。」


 いや、いや。それがもう答えだ。つまりは、そういう事なんだ。

 僕はパパの元へ向かった。解は導き出されている。その答え合わせだ。


「父上、お話があります。」

「またか。もう出るんだ、手短に話せ。」

「……大学に、寄付金を支払いましたよね?」

「……なんの事だ。」

「執事が電話をしていました。約束の金額を確認してもらった、と。」


 パパは口を開かず、黙々と外出の準備を進めている。

 否定しない、これが答えだ。

 つまり僕は、"寄付金を支払った親のコネ"で合格したのだ。

 僕は、僕は、合格すると信用されていなかったのだ。


「何故です?僕の実力なら、そんな事をされなくても合格出来ました!何故、息子を信じてくれないのですか!」


 その言葉に反応し、パパはため息をついた。


「自惚れるな、馬鹿息子が。僕の実力なら合格出来ました、だと?笑わせるな!……特別に、受験の結果を見せて頂いた。」


 パパは机の引き出しから1枚のプリントを取り出し、僕の前に差し出した。

 僕はそれを手に取り、確認して絶望した。


「それは今回受験を受けた全員から割り出したお前の順位だ。どの教科も平均以下。大学に確認をして恥をかいたよ。ここまでお前がダメ息子だったとはな。」

「そんな……僕は、僕は合格して……。」

「本当に実力で合格したとでも思ったのか?女の子を部屋に連れ込むほど怠けていたお前が、合格したと?笑わせるな!私にこれ以上恥をかかせるな。」


 僕は走り出した。もうパパの声を聞きたくなかった。

 何がエリートだ。何が信用だ。何が実力だ。

 僕は何もなかった。僕には何もなかった。

 僕は……。


「危ない!」


 どこからか少女の声が聴こえた。だが、もう遅かった。

 鈍い音と共に、僕は宙を舞った。

 ここはどこだ?何故僕は飛んでいる?

 理解した時には、地面を転がっていた。


「おい、轢かれたぞ!」

「あのトラックだ!」

「いや違う、飛び出したのはそっちの……。」


 周囲の声が聴こえる。そうか、僕は気付かぬまま道路に飛び出し、トラックに跳ねられたのか。

 体が動かない。息が苦しい。僕はどうなっている?広がる青い空だけが見えている。

 いや、いや、理解している。こんな時にだけ僕の失われたはずのエリートな部分が働く。

 ずっと幽霊女が見えていた。合格発表を見ても幽霊女が見えていた。それが答えだった。

 そうか、僕はどう足掻いても生きれなかったのか。

 徐々に空の色もわからなくなる。目を閉じた。このまま二度と目を開く事はないのだろう。

 僕はパパの期待を裏切った。思えばずっと僕の人生はパパのためにあった。趣味はあったが、それは苦痛から逃げるためにしていただけ。勉強から逃げるための言い訳で、僕は本当に趣味と呼べるものはなかった。

 そんな中で、僕が求めた唯一のもの。僕が何よりも欲したもの。パパの期待よりも、ずっと大事にしたかったもの。


「死なないで!」


 脳裏に響く声、馴染んだ声。僕は必死に目を開けた。


「死なないで……まだ一緒に、ご飯食べてない!だから、だから……!」


 目に映るのは、青い空ではない。白いワンピースに、黒く長い髪の貧乏人のような少女。屋敷から飛び出した僕を追いかけてきていたのか。

 ただでさえ貧乏人のようなのに、泣いたら余計に幸が薄そうに見える。

 やめてくれよ。お前の顔に涙は似合わない。僕の前で泣かないでくれ。


「あ……あ……。」


 お前を泣かせたままにはしない。僕は力を振り絞って声を出した。僕はエリートでもない、実力もない。それでも、それでもだ、この言葉だけは……。


「わらっ、て、く……れ……レディ……。」


 レディは驚いた顔をした後に、また泣きそうになりながらも涙を堪えた。


「ばかぁ……。」


 そう呟くと、レディは笑ってくれた。これだ、これなんだ。僕が欲したもの。

 やっと見つけた、どんなものよりも、誰よりも、パパの期待を、全てを捨ててでも、僕が人生で唯一求めたもの。

 最期に……僕のものに……。

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