第18話 失望と確保
「本当の俺を知れば、どうせまた勝手に離れていく。だったら初めから嫌われて、最初から離れられるのと何も変わらないじゃない。これでいいじゃないっすか」
「ちょっと待ってくださ――」
「ちょっと待ってよ!!!」
身勝手な愛や期待を厭って一人であろうとする、そんなレイの語りを遮ったのは、アカギツネの叫び声だった。突然の登場に不意打ちを食らったような気分で、二人して言葉を止めて彼女の方を向く。ふぅと一呼吸してから、レイは尋ねる。
「いつから聞いてたんだ……?」
「友達とかがレイの上辺に勝手に期待して勝手に離れてったって話あたりから」
割と序盤からだった。レイの表情は曇っている。
「レイもヨウ先生も二人ともなかなか戻ってこないから探しに来たけど、真剣に話してるから様子を見てたのよ。でも、もう黙って聞いていられない」
そう言って、アカギツネはずんずんとこちらへ近づいてくる。
「勝手なことばかり言って! どうして私が離れていくことが前提なの? 勝手に期待して勝手に離れることと、勝手に絶望して勝手に離れようとすることの何が違うのよ! 私の気持ちも知らないで!」
彼女の表情は、怒っているようにも見えるけれど、それ以上に悲しそうで。今にも涙のこぼれそうな目は、真っ直ぐにレイを見つめていた。
(そしてこのあたりから、アカギツネとレイの邪魔にならないようにゆっくりと後ろの方へ移動した)
もう手を伸ばせば触れるほどに近い。視線と同様に真っ直ぐな言葉が紡がれていく。この距離では、キツネを躱すことなどできない。
「もちろん、無愛想だけど優しくて、仕事でもなんでもスマートにこなして、見た目もかっこよくて、私だってそんなレイの表のカオが好きだけど!」
「ほら、やっぱり」
「だけど、だけど! そんな上っ面を保つために努力してるのも知ってる! 器用なフリしてるだけで、裏ではコツコツ頑張ってるの、私は知ってるから! それが本当のレイじゃないの?」
「……本当の俺は、優しくもない、身勝手で……、独りよがりで……」
「ああもう、それ含めてまるっと全部好きだって言ってるの!」
ほとんど叫び声。アカギツネの本気の本心が、離れようと距離をおいたレイの本心に迫っていく。
「……だから、避けないでよ。逃げないでよ」
そうつぶやくと、両腕を彼の背中に回し、顔を彼の胸にうずめる。
とうとうレイは、アカギツネに捕まったのだ。
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