第14話 虚実、当日
「職場で少し気になることがあって。今回関わってるプロジェクトで一緒になった人のことなんだけど……」
詳しいことは明かさず、ぼやかしておく。リカオンが事件に飢えた探偵のような顔をして話の続きを催促してくる。
「それでその人に対して好意を持っている子がいるんだけど、その子への態度がなんというか」
「ふむふむ」
話し終わった頃には、シュークリーム用の保冷剤がその硬さを失ってそろそろ役に立たなくなるところだった。というか話し過ぎた。名前こそ出さなかったものの、あるフレンズが飼育員に対して好意を抱き、飼育員側はつれない態度で躱し続けていることも、彼が前に担当していたフレンズとは友好的だったと聞いたことも、全部話してしまった。
おかしい。以前は彼女を前にすると言葉が出てこなかったというのに、今日はすらすらと流れるように洗いざらいぶちまけてしまった感じだ。とりあえず社会人としてはアウトだ。かなしい。
「ふふっ、話術ですよ話術。安心してください、誰にも言わないって約束します。私、
そうでなくちゃ困る。言いふらされたら大変だ。
「とりあえずヨウさんの悩みは分かったし、その二人、というか飼育員さんに何があったのかも大方は見当がつきました。でも全然関係ない私にはどうすることもできませんね」
「それはそうですね……」
彼女はもう既に事の顛末を察したらしい。イヌ科の嗅覚で何でもお見通し、というわけではないだろうけれど。
「だからヨウさんに一つ良いことを教えてあげます」
「良いこと?」
「要は情報です」
その情報が何かの鍵になるのだろうか。
「なんですか?」
「アフリカゾウの嗅覚は、ヒトの十倍って言われてます。私たちイヌ科のけものの大体二倍ですね。フレンズ化した彼女も鼻が良くて、匂いのキツいものは苦手でしたよ」
訂正。
彼女には全てお見通しだ。
そんなこんなで月日は流れ、散歩会当日である。
暇を潰しに来た年配の方々(おそらくパーク職員の家族だろう)、オープンキャンパス代わりに見学に来た高校生とその保護者たち、巡回がてら立ち寄った飼育員、暇を潰しに来たフレンズ多数。時々グラウンドで走っているコヨーテも混じっている。
「はじめて来たですー」
「大学って何するとこなんや?」
「ベンキョーでしょベンキョー」
と賑やかだ。
レイとはあれからほとんど会話を交わしていない。今日は散歩会のスタッフとして、人混みの脇の方に立っている。スタッフ側の中にはアカギツネもいる。
別に、彼らがこれからどうなったって、正直知ったことではないと言える。でも、仮にも教え子である一人のフレンズと、その保護者でもある飼育員の靄ついた関係を黙って見ているのも気分のいいものではない。
だから、一言くらいお節介を言わせてもらうよ、レイさん。嘘をつくな、と。
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