第10話 着想と迷走
「それでは、これから『キャンパス見学さんぽ会』の第三回企画会議を行います」
企画責任者の人が仕切り始めて、そのまま前回までの会議の概要を説明する。そして今回の議題は「キャンパス外のヒトやフレンズに向けた企画の周知」がメインらしい。
「えー、それではまず、フレンズ側への宣伝に関して、パークガイドと飼育員の立場から伺いたいんですけども、まずはパークガイドのミライさんから、ご意見とかありますか」
迷彩柄の探検服を着た、眼鏡の女性に目を向ける。
そもそも、ただの一介の新米大学講師が何故この企画運営に関わることになったのか、というのを説明するには、ミライさんと呼ばれたこの人についても言及しなければならないだろう。
三月、初めてジャパリパークに上陸したあの日。
キャンパスという場所が特別視されることをあまり良く思っていなかったカコさんに、
『母校にも犬の散歩をしている人とかいましたし』
と言ったところ、
『散歩……。散歩か、良いですね、それ。キャンパス散歩会。そのアイデア貰っても……?』
と返され、よく分からないまま認めてしまったわけなのだが、その日あった会議でカコさんが散歩会のアイデアを立案してしまったらしい。行動力の化身と言える。
なお、その時の会議というのが研究施設のメンバーとパークガイド及び飼育員で行われていたもので、元々カコさんと親交の深いミライさんもパークガイドの立場から参加していて、そのアイデアに飛びついた、ということらしい。
研究所や大学では当然フレンズに関する研究も行われているわけで、フレンズ達と友好な関係を築いておかないとまずいわけだ。ペットが動物病院に対して嫌な印象を持つ、みたいな事態は避けたい訳なのだろう。日頃から親しみやすい場所にしておけば、いざ呼ばれても抵抗感が少なくなる。
そこまでは良い。
問題なのは、カコさんが「このアイデアは元はと言えばジャパリ学園大の新任教員・
いいや、何もしてない。ただ「散歩」という言葉を口にしただけなんだが。あとは勝手にカコさんが頭の中で組み立てただけ。
ミライさんから直々に連絡が来た時にそう言ったのだがなぜか納得してもらえず、結局、散歩会の企画に関わることになってしまったのである(実際カコさんは多忙なので散歩会に携わっている暇は無く、他の誰かに頼ったのは適切な判断ではある)。
「——ということで、都市部に住んでいるフレンズさんや、日頃から図書館を利用しているフレンズさんへの伝達を中心に行なっていくつもりです。私からは以上です」
ミライさんの話が終わったようだ。進行役の企画責任者が念のため確認をとる。
「今のを受けて、フレンズ側からの意見は何かありますか、アカギツネさん」
「そうね、都市部のフレンズに向けた宣伝は大事だと思います。物理的な距離があれば来ないでしょうし、近場のフレンズをターゲットにするのは大事だと思います。フレンズに限らずヒトも然り。私からも、近場に住んでいる知り合いに声を掛けてみたりしますね」
アカギツネもさっきは壁に額を強打するなどしていたが、いざ会議が始まればしっかりしている。
「では次に、飼育員のレイさん、お願いします」
「はい」
飼育員用の緑の上着を羽織った目つきの鋭い男性が返事をする。それを受けて、隣の女子大生がこっそりと「レイ〜〜」と甘い声を出しているのを聞いて、彼もいろいろ大変そうだな、と思った。
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