第7話 菓子と無私
ビル街を抜けて駅に向かう途中、この時間に営業しているのはコンビニくらいしかなかったので、そのまま何も買わず電車に乗ってしまった。昼間だったら弁当を売っている場所もあるようだが、今日が日曜日なせいもあってかどこも開いていなかったのである。電車を降りた後スーパーにでも行けばいい。
結局、駅からアパートに向かう途中のコンビニに入った。スーパーの立地が、アパートと駅を考慮すると遠回りになって、地味に嫌な位置にあるせいである。出来合いの唐揚げ弁当を手にとって財布を取り出しながら、この弁当だけじゃあ足りないと思ってレジ横のケースを見るけれど、今日は別に肉まんを食べたい気分ではないしピザまんやマンゴーまんも……、マンゴーまんって何だ。
購入した晩飯と共にコンビニを出てアパートに向かうが、マンゴーのせいで急に甘いものが食べたくなってきた。しかしわざわざコンビニに一回戻ってスイーツを買うのも面倒であるから我慢しておくべきなのだろう、と思っていた矢先に、ケーキ屋が見えてきた。都合が良すぎる。もう折角なので、就職祝いと新居祝いと新天地新生活祝いを全部兼ねてケーキを買うことにした。それくらいの贅沢をしたって別に構うまい。
「じゃぱりケーキ」と動物の柄をモチーフにしたカラフルな看板のかかった建物の前に立って、ドア脇のメニューを眺めてみる。このジャパリケーキオリジナルとはどんな感じなのか気になったが、実物を見たほうが早いのでとりあえず中に入ってみることにする。
「いらっしゃいませ」
金髪ショートの眼鏡のフレンズの声にとりあえず会釈。春仕様になっている室内の装飾を弄っているようである。ここからだと角度的な問題で名札が見えないのでよくわからないが、上陸前にパンフレットやインターネットの記事で予習してきた甲斐もあり、おそらくネコ科のフレンズだろうと推測できる。
何か考え事をしているようなので彼女のことは放っておくことにし、ケーキを眺める。苺ショート、チョコケーキ、ミルクレープ、チーズケーキ、モンブラン……。動物をかたどったケーキも沢山あってとても可愛らしい。一番安いのはシュークリームだが、生憎本日はケーキの気分である。
ジャパリケーキオリジナルは、どうやら苺ショートの中の部分にフルーツが入っているタイプのケーキらしい。他の定番ケーキに比べると少しお高いが、まあ一切れくらいお祝いとして豪勢なのを頼んだってよいではないか、ということでこれを注文することにした。
「あの、すみませーん」
「ん、はい。……ちょっとこれ手放せないな、リカオーン!レジ打ちを頼む!」
「はいはーい」
後ろで作業しているネコ科はやはり忙しいらしく、代わりに別の店員が奥からぱたぱたと駆けてきて、
僕は、
「可愛い」って、こういうひとに対して使う言葉なんだっけ……
「リカオン」と書かれた名札を胸につけたフレンズを前にして、それだけ浮かんで、残りの思考回路が停止してしまった。
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