第6話 日暮の帰路

 コヨーテの爆走している運動場を離れて、正門から見て丁度ビルの裏手にあたる部分を歩くと、無機質な建物が並んでいて、ところどころ連絡通路によって結ばれている。

「ここが、理学部、工学部、農学部、の研究棟です。全部では、ありませんが」

「薬学部とかが見当たらないですね、それに全部ではない、ということは別の場所にあるということですか」

「道路を渡って、向かいにある、ジャパリパーク動物研究所の敷地内にあります」

「なるほど」

 そういえばこのキャンパスの隣には大きな研究施設がある、と地図に書いてあったことを思い出した。確かに、フレンズやサンドスターの研究が絡んだ医学薬学であるなら、研究所側にあった方が何かと便利かもしれない。

 そしてそのまま少し行くと図書館がある。大学が始まる前から既に開放されていて、夕暮れ時のこの時間でも、まだ閉館時間にはなっていないようだ。カコさんの説明を聞きながら、中にフレンズはいないかと覗いてみたけれど、どうやらいないらしい。キョウシュウやゴコクなど各地にある図書館と連携はしているものの、ここの図書館にある蔵書は基本的に学術書が中心であるため、フレンズが興味本位で訪れることは少ないとのことらしい。しかし未だ数少ないサンドスター関連の資料を漁れるというのはなかなか嬉しい場所だな、と思ってしまったのは研究者の端くれとしてのサガなのだろうか。

 図書館のちょうど前にある角を曲がって、ビルを挟んで運動場の反対側を進むと、道路の向かいの研究所地帯とキャンパスを結ぶ陸橋がある。ビルや道路向かいの研究施設とも直結していて屋根もついているため、行き来するのに便利そうである。

 解説が止まったな、と思ってカコさんを見れば、端末で時間を確認しているようであるが、自分が見られていることに気づいてハッとしてからこちらに身体を向けた。

「申し訳ありませんが、今日は、ここまで、ということでお願いします。……この後、ちょっと会議があるので、ここで失礼します」

「そうですか、本日は本当にありがとうございました。これからまた色々お世話になると思いますので、何卒よろしくお願いいたします」

「いえいえ、こちらこそ……」

「いえいえいえ、こちらこそ……」

「いえいえいえいえ……」

 埒があかないのである程度の所でいえいえ合戦はやめた。


 陸橋からちょっと歩けばもう最初のビルの正面である。ちょうどビル周りをぐるりと一周してキャンパス内をざっくり見て回ったと言う感じである。本当に見て回っただけなので大した事はないが、フェリーでこの島にやってきて仕事の話をして、フレンズの知り合いができたという比較的濃厚な一日であったわけで地味に疲れている。ふう、と一息ついて、まだ時期が早いが、もう新緑と言っても差し支えない並木道の下をくぐって正門に向かう。

 帰り道で、適当に晩御飯を調達しなければならないが、果たしてちょうどいいお店があるだろうか、と少し心配になりながら、キャンパスを出て夕焼けの街に一歩踏み出した。

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