第3話 街並と出逢
人脈というのは不思議なものである。ふとした縁がキッカケで、気づいたらこの春に新設されるちょっと特殊な私大の非常勤講師になってしまっていた。
面接はオンラインで行われたので、島に降り立つのは今日が初めてである。フェリーでビル街を見つけるより前は、これから本島から離れた田舎で暮らすのかと身構えていたが、完全に杞憂であった。
港のすぐそばには観光客向けの売店が軒を連ね、帰る前にグッズや土産などを買おうとする客でごった返していて、その奥にはレストランやカフェといった飲食店街が構えている。いかにもテーマパークの玄関といった感じだ。
交通インフラも充実しているようで、店が立ち並ぶその脇には駅がありバスや電車が運行されている。確かにそれなりに広大なパークを回るには必要不可欠であろう。ICカードで改札をくぐった後、大部分の観光客は動物園として機能する他のエリアや宿泊施設が多い地域を目指すが、そんな客達とは逆のホームから電車に乗った。
さて、一駅で降りた先は所謂ビジネス街というべきか。ジャパリパーク運営企業の本社ビル、国や市の行政施設に加え、銀行、この島に支店を置くスポンサーの大手企業のビル、コンビニ、ファストフード店、全国チェーンのカフェ。流石に東京や大阪のビル街には勝らないが、下手したら田舎の県庁所在地よりも栄えている。振興地域の勢いというのは恐ろしい。
……このように街並みばかりを描写してきたが、流石にいつまでも目を背けてはいられまい。この島の不可思議な所といえば何と言ってもやはりケモ耳の生えた若い女性がそこら中にいるという点であろう。
港では観光客をお出迎えして一緒に記念写真を撮っていたし、売店の店員をしている者もいたし、電車にも数名ほど乗っていたし、ビル街を歩いていても時々すれ違う。
前から存在自体はテレビか何かで聞いていたし、島に来るまでにきちんと下調べはしておいたので知識としては理解しているのだが、やはり実物を目の前で見ると驚きを隠せない。「アニマルガール」が自分達ヒトと同じ社会に混じって生活しているということを、揺れる尻尾や耳をまじまじと見てしまう今の自分が受け入れるには少し時間が必要そうである。
こんな調子なのにこれから仕事をこなせるのだろうか、と思いながら歩いていたら目的の場所に辿り着いた。時計を見ると約束の時刻の二十分前、早過ぎず遅過ぎずと言った所だろうか。
「学校法人私立ジャパリ学園大学 本町キャンパス」
門の向こう側には、いくつかのビルや研究所が立ち並ぶお馴染みの区画が見える。大学を出てきても結局また大学か、と微笑みつつ溜息をつき、そして門をくぐる。
その先には待ち合わせの相手が立っていた。
「……この度は遠路はるばるジャパリパークまで来てくれて……ありがとう。今日からここがあなたの職場……。私は理事会役員兼理学部生物学科准教授のカコ、……よろしく」
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