第2話 飯店と起点

 一年程前の話になる。



「キミは、"けもの"が好きだったっけ?」


 久し振りに教授が晩飯を奢ってくれるというので、貧乏な身分にとってはこれ幸いと一緒に定食屋に入り唐揚げ定食を注文した、その矢先の一言である。


「……はい?」

「いや、動物は好きかどうかって話さ」

「勿論好きですよ」


 なんだそっちの方のけものか、と妙な勘繰りを入れてしまったことを反省する。流石に還暦の近づいたこの白髪混じりの男が、半分以下の齢の教え子の特殊性癖について知りたがっている訳があるまい。


「いや、キミ、ポスドクの任期終わったあとの進路まだ決まってなかったよね?」

「……」

「いや、別に責めてる訳じゃないよ。ウチみたいなロクに成果も上げられてなくて、あんまり研究費をかっさらえない半端な研究室の出身じゃあ、企業の方だって進んで採用したいとはならないよねえ」

「……そんな自虐的な言い方やめましょうよ、自分はやりたい研究ができましたから」

「ならいいんだけどね」


 機械工学を専攻して最終的に今の研究室に流れ着いたが、二足歩行ロボットの設計に関してかなり没頭して研究することはできた。もっとも、予算はないので主にコンピュータ上のシミュレーションがメインであって、実物を作り検証したのはほんの数例しかない。

 そのためか、自分の研究成果に対する風向きは決して良い物ではなかった。ましてや、更なる流れが来ている人工知能や量子コンピュータ、フルダイブ型仮想現実研究といった花形と比べたら見劣りするのは仕方がない。


「……それでね、人を探してるって話があってね」

 しまった、物思いに耽って教授の言葉を聞いていなかった。

「えっ、あっハイなんですか?」

「いや、ちゃんと聞いてよ〜。だからね、そこに新しくできる大学で機械工学を教えられる人を探してるんだよ。僕の同期がそこでお偉いさんやっててね、声をかけられた訳なんだ。キミなら実際に機械いじる方も教えられるでしょ?しかも企業が主体ではあるけど国も絡んでるはずだからそれなりに安定してるはずだし、美味しい話じゃないかな?」

「すみません、どこの大学って言いました?」



「世界初の動物園をメインとした複合娯楽施設中心型都市、東京都新西之島市。そこに来年度設立予定の特殊私立大学、ジャパリ学園大学、ってとこだね」

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