第9話

 電撃を受けたようなそんな衝撃を感じた気がした。

 今まで魂が入っていなかった、ある意味人形に近かったそれは、がちゃがちゃと音を立てるかの如く、ゆっくりと動き出した。

 彼女はぽつりと呟く。


「……危険だ」


 彼女はジャンパーを羽織って外に出る。寒いはずがない夏の夜。しかし彼女にとってみればそれは寒々しい日にも似ていた。



  ◇◇◇



「おやおや、何か近づいてくる気配がするよ。まるで神にも似た何かだ。暗黙の了解と考えていたのでは無かったのかな?」


 東新宿。みどりの星ビル。

 少女と一定の距離を保つ夏乃たちは、どう出るべきかどうか悩んでいた。

 そのタイミングで、その発言をしてきた。

 それを聞いて夏乃がピンと気付く。


「まさか……こっちにやってきているのか……? おい、少年、『あれ』の容態はどうだった?」

「どうだったも何も特に変わらなかったですけれど……。何で急にそんなことを聞き出すんですか?」

「分からんのか! あいつがああ言ったのは、同じような『神下ろし』をした存在を待ち構えているということだ。そしてその存在に気付いているということは、」

「そう。あなたたちはただの前菜に過ぎない」


 一瞬だった。

 僅か目を離しただけだったのに、少女の影から何か触手のようなものが生えて、二人を掴んだ。


「ぐ、ぐぐ……!」

「まさかこんなあっさりと捕まっちゃうなんてね。でも良かった、今日の『生け贄』をどうしようか少し考えていたところだったの」


 彼女が眼を瞑る。

 すると眩い光に包まれ、その後には彼女たちはビルの屋上に立っていた。


「移動魔術まで魔術式無しに使えるとは……!」

「そう。それが神の力。それが神下ろしの力」


 少女は素直に神下ろしと言い放つ。


「神下ろしとは簡単に言うけれど、難しい話なのよ? それなりに術式に手間がかかるし」

「それぐらい……把握しているよ」

「どうして?」


 少女は微笑む。


「そりゃあ、もう知り合いに『神を下ろした』奴がいるからな。まあそいつは、失敗しちまったわけだが」

「神に心を、持って行かれたというわけね」


 少女は微笑む。


「その心を持って行かれた人は、精神が弱かったのでしょうねえ。だからこそ、力を従えることが出来なかったのでしょうけれど」

「おいおい。私が言っているその言葉の意味、理解できていないのか?」

「?」


 少女は首を傾げ、さらに笑みを浮かべる。


「分からないのだろうな。分からないのだろうが、直ぐにそいつはやってくるぞ」


 刹那。

 大きく床が割れ、そこから誰かがやってきた。

 そして、夏乃たちはそれが誰であるかを理解していた。


「遅すぎるぞ、杏!」


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