第8話
ビルの中は小綺麗な形になっていた。このビル自体は『みどりの星』が所有しているらしいが、一階はテナントとして貸し出しているらしい。らしいらしいだらけだが、これは所長から見聞で得た情報なので、あくまでも確証が持てないという意味で語っているだけに過ぎない。
「……それにしても、きな臭いな」
「え?」
「あまりにも警戒が手薄過ぎやしないか? これじゃあまるで……」
「罠にかかった鼠のよう!」
背後から声が聞こえた。
まさか。僕は振り返った。
そこに居たのは、白のワンピースを着た少女だった。
「なんで……こんなところに小さい子供が?」
「あらあら。小さい子供だって、舐めてかかっちゃあ困るよ。私はね、これでもこの『みどりの星』で一番なんだから!」
「一番ってことは、あんたが教祖サマかい。……ちょうど良かった。あんたには色々と聞きたいことがあって、」
「死んでしまった人たちのこと?」
所長が言葉を投げ終える前に、彼女は言葉を言い放った。
そして、くるくると回り始める。それはまるでダンスを披露しているバレリーナのような、そんな感覚。巫山戯ているのか、という話に繋がるかもしれないけれど、全くもって巫山戯ていない。それは紛れもない事実なのだから。
「死んでしまった人たちのことは、ほんとうに悲しいと思っているわ。私だってやりたくてやったわけじゃあ、無いんですもの」
「それじゃあ、どうして人を殺した! いや、そもそもどうやって! まさか、魔術を使って……」
「違うよー。だって、そんなの、『勿体無い』でしょう? 私はただ背中を押してあげただけ。彼女たちは、彼らは、悩んでいた! それについて効果的な解決方法を提案してあげて、それを実行する手伝いをしただけに過ぎないの」
「巫山戯るな。人の命を何だと思っている!」
「だって、カミサマが殺せって言うんだもん」
「なっ……」
「カミサマが、私に下りてきたカミサマが、そう言うの。もうこの世界は、たくさんの人間を抱えられる程の余裕はない、って。だったらどうすればいいのか? 答えは単純で明快だった。多いなら、減らせば良いんだって」
「……、」
絶句。
その言葉が当てはまるぐらいに、僕と所長は唖然としていた。
無言を肯定と捉えた彼女はさらに話を続ける。
「心が弱くなると、人間は漬け込みやすくなる。カミサマが教えてくれたわ。そして、それを成し遂げるための方法も」
「方法……?」
「心理を読む、って言って分かるかなあ? 結局は『人の心を読み解く』魔術を教わったの。そして、それを使って」
「成程。質問もする前からペラペラと喋ってくれて助かるよ。……それじゃあ、後は警察でもう一度話してもらおうか?」
「嫌だね! だってまだ、終わってないもん! もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと、たくさんの人を減らさなくちゃ!」
そして。
一つの衝突が起きた。
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