第一章54 『後悔と反撃と○○と』
「こんな事って……」
私たちの前で、
「………………」
「ドンさん……」
頭を抱えて俯くドンさんからは何の反応もない。
「何ダ? もう泣くのは止めたのカ?」
「あんたは少し黙ってろ!」
ドンさんを見下ろしながら、ふざけた事を言う
「ははハ! その顔本当に最高ダ。何も出来ない下等な生物ガ、私に怒りをぶつけるカ」
「私はあんたを許さない!」
「好きにすればいイ。そうダ! 良いことを思い付いたゾ! お前たちの足の氷は放っておけば勝手に解ける」
「それがどうしたってのよ!」
「直ぐに殺すつもりだったガ、お前たちはここにいロ。そして自由に動けるようになったラ、私が壊した町を見て絶望するがいイ」
「…………」
ギルドへの攻撃だけじゃなく、そんな事まで――こいつはどれだけ悪趣味なんだ!
「ははハ! その顔また怒ってるようだナ? じゃあ私ハ、今から残った町や人を全て壊して来てやるヨ。粉々になったギルドも見たいしナ!」
「待ちなさい!!」
「お前たちはそこデ、町や人が破壊されるのを黙って待っていロ」
言いたいことは全て言い終えたとばかりに、満足そうな表情の
「………………」
「ドンさん!」
「………………」
「ドンさん!」
「………………俺が」
俯いたままドンさんが呟く。
「……俺が悪かったんだ。嬢ちゃんにあいつの目的を聞いた時に全てを止めるべきだった…………それなのに俺は……俺のせいでリンは!」
「まだ諦めちゃ駄目です!」
「もう終わりだよ……リンも死んだ! 町ももうすぐ無茶苦茶にされる!」
「………………」
「全部…………全部俺が……」
「前を向きなさい!!」
「なっ!?」
凍り付いた両足を、地面から無理矢理引き剥がす。凄まじい痛みに叫び出したくなるが、奥歯を噛み締め耐える。
相変わらず凍った足が動いてくれないが、上半身は動く。体を引き摺りながら、ドンさんを真っ直ぐ見て、伝えたいことを伝える。
「私はまだ諦めない! ドンさんも! リンちゃんも! 町の皆も! 全部助けるって言いました! その気持ちは変わりません!」
「嬢ちゃん……」
「それに、私の仲間が前に言ってました……」
皆で食事をしたあの時、ガイさんはハッキリとこう言っていた。
「あの町で、ギルド以上に
「それはどういう?」
「私にも分かりません。でも、根拠もなくそんな事を言う人じゃない。私は仲間のその言葉を信じます!」
「………………」
「まだ何も終わってない! だから、ドンさんも諦めないで!!」
例えどんなに絶望的な状況でも、諦めなければ道は見つけ出せる筈だ。
「…………そう……だな。俺はリンの為に、最後までやり遂げると決めた。こんな所で止まってる訳にはいかない!」
「ドンさん!」
真っ直ぐに私を見てそう答えるドンさんに嬉しくなる。そうだ! まだ何にも終わってない! ここからが勝負だ!
「本当にこれで大丈夫なのか? 嬢ちゃんの足が……」
森を燃やす際に使われた、遠隔操作の魔法石を手に持ちながらドンさんが聞いてくる。
「今は他に手段がないから仕方ないです」
凍らされた足で、自由に動けるようになる為に私が提案したのは、腰のポケットに入れっぱなしだった火炎の魔法石を、ドンさんが持つ遠隔操作の魔法石でもう一度燃やして、氷を溶かすという方法だった。
下手すれば、満足に動けない状態で私が火だるまになる可能性があるが、今はそんな事を言ってられない。
「ドンさん、お願いします!」
「分かった……行くぞ!」
そう言った瞬間、腰の辺りが温かくなってくる。徐々に熱が上がっていき、痛みも感じるようになって来た。
「今なら!」
私の言葉に合わせて、ドンさんが魔法石に魔力を送るのを止める。腰のポケットを触ると、氷が完全に溶けていた。これなら、私たちの凍り付いた足を何とか出来る。
まさか、ドンさんを信じて残していた物が、こういった形で役に立つとは思わなかった。だけど……
「これじゃ時間が掛かりすぎる」
遠隔操作の魔法石にどれくらい魔力を送ったかで、火炎の魔法石で出る火の量が変わるらしい。私たちが火傷をしない火力で氷を溶かしてからじゃ、町へ先に向かった
「いっその事火だるま覚悟で最大火力で……」
「それじゃ、氷が溶けても俺たちが動けない可能性が出てくるぞ」
「どうすれば……」
――そう呟いた瞬間。
ガサガサと私たちの近くにある茂みから音が聞こえ、
小柄なそれは仰向けに寝転がっている私の胸元に飛び込んでくる。
「なっ!?」
「……遅くなって……ごめんね」
「我が女神!」
「嬢ちゃん何を言ってるんだ?」
私の発言に若干戸惑うドンさんだったが、そこには栗色の髪を持つ、つぶらな瞳を持つ少女――フェイちゃんがいた!
「はぁ……はぁ……! フェイちゃん、これ何のご褒美?」
「……ただ……転んだだけ! ……放して……変態さん……」
「とうとう直球が来た!? おねーさん泣くよ?」
「嬢ちゃん、本当に何やってんだ……?」
確かに、胸元に飛び込んで来たフェイちゃんを咄嗟に抱き締めたが、まさかここまでストレートに言われるとは…………あと、ドンさんの私を見る目も心なしか痛い。
「ま、まぁ、それは置いておいて!」
「……自分で言う事じゃない……」
フェイちゃんの淡々とした突っ込みを受けながら、これからの計画を建てる。これなら何とか間に合う筈だ!
「見えてきた!!」
まだ遠いがフォレストの西入り口が見えて来た。
私たちはフェイちゃんが操るテディに乗ったまま、自らの氷を溶かしていた。
今、テディの上にはフェイちゃんと、足の氷を溶かして自由に動けるようになった私とドンさん、気絶したままのエン君、半分程氷が溶けたライが乗っていた。
「この速さなら間に合う!」
フェイちゃんのお陰で、凄まじい速度でここまで来る事が出来た。
遠くからでも、大樹マザーがそびえ立っているのが確認出来た。少なくともギルドはまだ無事な筈だ。
スピードを落とさずに西入り口をくぐる。もうすぐギルドが見えてくる…………
「なっ……何あれ?」
驚く私たちの前に、大樹マザーの目前で、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます