第一章47 『過去と願いと○○と』
あの日、妻が亡くなってから、リンは俺の手伝いを積極的にするようになった。
何かをしていないと、母親の事を思い出してしまうからだろう。
俺にはそれが直ぐに分かった。だって、そんな事を考えている俺も同じ気持ちだったからだ。
俺もリンも、体を動かす事で、自分の気持ちを紛らわしていた。
妻が育てた畑の世話や、俺の代わりに店番をしたり、二人で商品の仕入れをしに行った事もある。
皮肉な事に、妻が病気だった頃より、リンとは一緒にいる機会が増えていた。
だからこそ、リンの
今までそんな事はなかったのに、夜中に何度も咳き込んで起きるようになったリンを見て、不安な気持ちになる。
それが一月も続いた頃には、俺の不安はある確信へと近付いていた。
そして、リンを連れて訪れた王都の病院で、不安は確信に変わり、現実の物となる。
――魔力中毒症……
俺が二度と聞きたくなかった言葉。一人で医者に病名を聞いた俺は、それをリンに伝える事が出来なかった。
だって、そうだろう?
お前はお母さんの命を奪った病気にかかって、そうなった理由も全く分からないから、直に同じようになるんだ――――なんて、そんな事言えるわけがない!
ただでさえ母親が亡くなっただけでも、辛くて辛くて仕方ないだろうに、それを毎日顔に出さずに明るく振る舞っているリンが、何でこんな目に遭うんだ。
あの日、リンだけは絶対に何があっても守ると誓ったはずなのに……
どうして俺はこんなに無力なんだ! 自分の無力さが憎くて憎くて仕方なかった。
それから数ヵ月ほど経って、リンは一日の内、ベットで過ごす時間が増えていた。
それは同時に、リンのタイムリミットが迫ってる事を物語っている。
そんなある日の事……
珍しくリンの調子が良かったので、気分転換も兼ねて遠くまで商品の仕入れにいった日。
向こうの手違いで商品が届くのが何時間も遅れてしまい、真っ暗の道を馬車を走らせながら帰る事になってしまった。
久しぶりの外で疲れたのか、リンは既に隣で寝ている。
それなのに馬が足を急に止めてしまい、様子を見ていた俺の前に
奴はまだ眠っていたリンを見て一言。
「これを治す方法があル」
妻の時と同様に、薬を探し続けていた俺は、最初は半信半疑だったが、近くの町にいる魔法学者からそれが実在した事を聞き、そいつを信じる事にした。
既に追い詰められているんだ! 化け物だろうが何だろうが縋ってやる……
その日から、俺はリンを助ける――その一心で動き続けた。
そいつの
自ら、魔王を捕まえやすいように人気のない所に誘導する偽のパンフレットも作り、その日の為だけに準備を続けてきた。
環境を変えられる程の力を持ち、計画に必要な魔物も軽々と捕まえてきたそいつと、保険の為に契約も結んだ。
最初こそ魔人の力に戸惑ったが、魔法を使う度に無力な自分から脱却し、計画の成功に近付いていると実感出来た。
初めて、魔物の中に捕まった魔王を見た時、自分のやってしまった事に大きな罪を感じ、辛くて、苦しくて仕方がなかった。
それでも、心を折らずに頑張れたのは、もっと辛い思いをしているリンがいたから……
だから、俺はリンの為なら何だってしてやる!
そう思っていたのに……
この町で出会った嬢ちゃん。
偶然だった筈が、どうしてこんな所にいる?
何でそんなに悲しそうな顔をしている?
俺以上に辛そうなのは何でなんだ?
最初に会った時から何となく分かっていた。
この子は、本当にいい娘なんだろう……
でも、もうどうしようもないんだよ。
俺はリンの為に最後までやり遂げる。
魔法石を取りだし、手に持つ。
リンが元気になったらいつか遊んでやってくれ。
その時に俺はどうなってるか分からない……
自分のやった事の責任は、これが終わったらしっかりと取るつもりだ。だから……
――だから……なぁ、嬢ちゃん?
「
手に持つ魔法石に魔力を込めた……
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