第一章46 『裏切りと始動と○○と』
「なん……で?」
先ほど問いかけた言葉が、口を衝いて出る。それくらい私には信じられない事だった。
目の前に立つドンさんは私を静かに見つめている。
「だって! だって、今日この町を出る筈じゃ!」
「あぁ……これが全部終わったらな」
「じゃあ! じゃあ、リンちゃんは?」
「今はギルドの上の宿屋でぐっすり寝てるよ……」
「何で? どうして? ねぇ! ライもこんなことあり得ないって思うよね?」
「……………………」
「ライ?」
ライは無言のまま、ただ目を逸らす。それじゃ、まるで……
「知ってたの?」
「ごめんにゃ。さっき馬車にいた時に……」
「そんな…………」
荷台の中でライに聞いても直ぐに返事がなかったのは、既にその時に気付いていたから――なら、答えは一つになってしまう。
「ごめんな、嬢ちゃん……」
何で謝るの? 何で
「俺たちの邪魔をしないでくれ」
本当に申し訳なさそうな、悲しそうな顔をしながらおじさんは続ける。
「もう少しで全て終わる。俺の願いが叶うんだ!」
「おじさんは言ってくれましたよね? 今日は町の外に出ない方がいいって!」
ジードさんにお詫びのハニーアップルを買いに行った時、間違いなくそう言っていた。
「あれは、私たちをこんな事に巻き込みたくなかったから、そう言ったんですよね?」
「………………」
「何でそんな優しい人が! こんな事をやってるんです!」
「………………」
どうして、そんなに辛そうなんだ!
私は何処かで、この事件には見るからに悪そうな、他人の事なんて何とも思わないような酷い人間が、裏で糸を引いているのだと思っていた。
だが、会ってみたらこれだ。そんな人間がこんなに悲しそうな顔をするはずがない!
「ドンさんもあれを見たんですよね?」
洞窟を指差しながら続ける。
「あんな事が許されるはずがない!」
何本もの
「………………」
「黙ってないで、答えて下さい! ドンさんはあれをどう思ってるんですか!」
「…………悪いと」
俯いたまま、言葉を絞り出すように続ける。
「……悪いと……思ってるよ!」
「それなら何で!」
「……………………」
どうしてそんな事をする必要がある。何人もの人間や魔ノ者を犠牲にして、それでも叶えたい願いなんて私には理解出来ない。
そこまでして、
答えは単純だ。ドンさんがこんな事をしてまで助けたい何か――いや、誰か……
「…………リンちゃん……ですね?」
「なっ!?」
「リンちゃんの為に
例え許されない事だとしても、自分にとって大事な物を守る為なら人は――どんな事だって出来る。
ドンさんはこんな苦しそうに、辛そうにしながら、歯を食いしばって、たった一人の為にここまでの事をしたのだ。
「直ぐに治るなんてのは嘘だ……」
おじさんの目から一筋の涙が落ちる。
「リンはな、亡くなった妻と同じ病気なんだ。このままだと、直にあの子も同じようになる……だから!」
「それでもこんな事は!」
「もう、遅いんだ。ここまでやってしまった以上、俺はリンの為に最後までやり遂げる……」
「そんな!」
「本来ならこれは、外から邪魔されない為に使う予定だったんだがなぁ……」
ドンさんの手には見たこともない魔法石が握られている。
「お前たちに町まで応援を呼ばれたら不味い事になる。だから、ここにいてくれ」
「何を!」
「ごめんな、嬢ちゃん……」
最後にまた謝りながら魔法石をゆっくりと握りしめる。
――瞬間。
私たちがいる森が、
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