第一章42  『通信と不意打ちと○○と』



「……助けたぞ!」


 皆に聞こえるように、魔法石に向かってもう一度繰り返す。各々の返事が返ってきたって事は、向こうもとりあえず無事だろう……


「で、お前はどうする?」


 気絶した長身の男に寄り添う魔ノ者に質問する。場合によっては、こいつと今から戦う事になるだろう。


「………………」


 無言で首を横に振っているのを見るに、もう戦う気はないらしい。

 ギルドで借りた別の通信用の魔法石に魔力を込める。


「……はい」


「ウィンか?」


「ガイ、状況はどう?」


「この町で起きてる誘拐事件の最重要容疑者を捕まえた」


「分かった! そっちに応援を送るよ。場所は何処?」


「フォレストの町南西、じゃ分かりにくいか?」


「いや、大丈夫。もう何処にいるか捉えたよ。地図を……」


 相変わらずこいつの魔力探知能力は凄い。

 俺も詳しい訳ではないが、魔力の性質は魔ノ者や、魔ノ者が契約した人間によっても少しずつ違うらしい……

 ウィンはそれを見分ける能力と、広範囲を探索出来る魔法が使える。

 その人間の魔力を知っている必要があるらしいが、町一つ分くらいの範囲なら余裕で目的の人物を探し当てられるだろう。

 行方の分からない人間を探す為にここまで来たと聞いたが、これ程適任な奴はそういない。


「ガイはこれからどうするの?」


「お前にも話したが、もし今起きてることが俺たちの予想通りなら、王都からの応援を待ってる余裕はない」


 嬢ちゃんの話が本当なら間違いなく今日、事が起こる。

 王都からここまで二、三時間とはいえ、手練れの魔王を倒した大狼王キングウルフと戦える人間を集めるとなると、それこそ何時間掛かるか分からない。

 ウィンが要請した時間から考えると、応援が来るのは早くて今日の夜中か、明日の朝になってもおかしくないだろう。


「何の為に月の涙ムーンティアの類似品を造るのか? それに協力する人間の事も気になる」


「ガイがいいなら捕まえた奴に直接聞いてくれても……」


「すまん。気絶させた!」


「はぁ…………! ガイはフェイちゃんの事になるといつもそうだね」


 深いため息の後にそう続けてくる。


「仕方ないだろ! そいつがフェイを傷付けようとしたんだからよぉ」


「僕は責めてる訳じゃないよ。ただガイらしいと思っただけ」


 魔法石越しに笑ってるのが分かる。あの野郎!


「とりあえずこいつの尋問はお前に任せる。俺は…………うん?」


――何かが震えている。


 ウィンとは今喋っているから、もう一つの魔法石――嬢ちゃんからの連絡だろう。


「すまん。一度切る。とりあえず俺は嬢ちゃん達の所に向かうつもりだ」


「了解! 僕は、大狼王キングウルフ討伐で重傷を負った魔王が目覚めたらしいから、その時の詳しい話が聞けそうなら聞いてみるよ」


「あぁ、頼んだ」


 ウィンとの通信を切り、そのまま魔法石を持ち換え魔力を込める。


「嬢ちゃん、どうした?」


「………………た」


 雑音が激しくてハッキリ聞こえない。


「もう一度頼む」


「例の洞窟で……………………」


「何だと!? 大丈夫か? 状況は?」


「私は……多分…………大丈夫です」


 途切れ途切れにそう言うが、とてもそうは聞こえない。


「猫は? 少年は?」


「二人は……………………」


――プツリと通信が切れる。


 魔力を込めて、もう一度連絡を取ろうとするが反応がない。


(込める魔力がないか、それ所じゃなくなったか? どちらにしても……)


 一刻を争う事態なのは確かだ。


「フェイ!」


 俺の後ろで、汚れてしまったテディをハンカチで丁寧に拭いて待っていたフェイに声を掛ける。


「……どうしたの?」


「嬢ちゃん達に何かあった……王都からの応援は直ぐには来れない。だから、俺たちで何とかするしかない」


「……うん」


「本来ならお前を連れていきたくはないが、ダメだと言ってもついてくるよな?」


「……そのつもり」


 その小さな瞳には、譲る気はないというハッキリとした意志が感じられる。


「そうだよな…………あーー、もう! 俺も腹を括った! 一緒に行くぞフェイ!」


「……うん!!」


 フェイは満面の笑顔で返事をしてくる。本人の意志とはいえ、こんな子をわざわざ危ない目に遭わせに行くなんて、本当に俺は馬鹿だと思う。


「とりあえずは、嬢ちゃん達がいるあの洞窟に向かうぞ」


「ガイ!!」


「うん?」


 先程の笑顔とは打って変わって、鬼気迫る表情のフェイ。


「ぐっ!」


――瞬間。


 腹部に激痛が走る。確認すると、そこには見覚えがある物が刺さっていた。


「てめぇ……」


「まだ終わってねぇよぉ」


 振り返ると、傷だらけの体でニヤニヤと下卑た笑いを浮かべる長身の男が立っていた。

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