第一章41 『魔力と凍結と○○と』
「ついたみたいにゃ」
「そうみたいね!」
私たちを乗せた馬車が止まる。正確な時間までは分からないが、結構な移動距離だったと思う。
「あのドロシーさん……いい加減離れてくれません?」
「まだ、やってたにゃ!? これだから変態は……」
「誰が変態よ! 私はただの
「
「最早字数しか合ってない!? せめて何文字か合わせなさいよ!」
「ドロシーが悪いにゃ」
「僕もそう思います」
「エン君まで!? 私が悪かったから許して!」
「こいつ絶対またやるにゃ……」
「僕もそう思います」
「全く信用されてない!?」
淡々とそう言ってくるエン君に恐怖を覚えつつ、外の状況を伺う。何やら私たちの事で話し合っている様だ。
「ライ、何て言ってるか分かる?」
「………………」
「ライ!」
「…………あっ、ごめんにゃ! なんにゃ?」
ライは少し何かを考えているような間だったが、気になる事でもあったのだろうか?
「外の奴らが何を話してるか分かる?」
「勿論にゃ! 御者が一度泉を見てくるから私たちを中に運んで置けって言ってるにゃ」
「泉……やっぱり私たちの予想は当たってるみたいね」
出来れば外れていて欲しい予想だったが、こうなった以上腹を括るしかない。
「ドロシー、魔力はどうにゃ?」
「うん! ライといたお陰で少しは戻ってきた」
「後はガイさんからの連絡待ちですね」
「いつ来るか分からない。皆準備しておいて」
「はい!」
「分かったにゃ」
荷台側で動きがあり、一気に冷たい空気が入ってきた。
「さ、寒いにゃーー!」
まるで、冬の寒さのような風が素肌に当たる。ガイさんの話だと、
「どんな化け物なのよ……」
私もまだ姿を直接見た訳ではないが、こんな事を簡単に出来る相手と戦うかもしれないと、想像するだけで身がすくむ。
「運ぶぞ!」
「あぁ!」
二人の男の声が聞こえ、私は持ち上げられ何処かに連れていかれる。程なく、荷台で最初に感じた冷たい空気を遥かに越える、身も凍るような寒さが襲ってきた。
「ざ、ざぶいにゃーー!」
ライが鼻水を垂らしながら叫んでいる。袋で視界を奪われているので多分だが……
声の反響具合からして、ガイさんの言っていた洞窟の中に私たちは運ばれているらしい。
「ここは何度来ても寒いな」
男の一人がそう言い出す。それには私も同感だ。
「さっさと仕事終わらせて、俺らは飯でも食いに行こうぜ」
「そうだな……っと、ここらでいいか」
「ひっ!」
いきなり床に放り出され、つい声が出る。服の上とはいえ、凍り付いた地面にいきなり触れれば小さい悲鳴が出ても仕方ない。
頭に被せた袋が外される。横には獣人の姿のライと、エン君もいた。袋で今まで確認出来なかったが、二人とも無事なようで本当に良かった!
「これは……」
足元も、壁も、天井も全てが凍り付いている。まるで、元々洞窟内はこうだったかのように、何もかもが氷で覆われおり、元の姿がどんな物だったかも想像出来ない。
今は夜の筈だが、魔法で作られた氷が仄かに光っており、洞窟の中は町にいるぐらいの明るさがあった。
局地的に少しの間だけ環境を変えるなら、私の電気の魔法でも出来なくはないと思う。でも、これ程の環境を長く維持し続けるのは並の魔力じゃない。
「ドロシーさん! 後ろを!」
「うん? ――――なっ!?」
エン君に肩を叩かれ、振り返る。顔を上げた私からは丁度死角になる場所にそれはあった……
「これは、酷いにゃ」
ライがそう呟くのも納得だった――動かないように凍り付いた何本もの大きな
「何なのよ……これ?」
想像はしていたが、実際に見るのとは大きく違った。中に浮いている人間は虚ろな目をしており、ここからでは生きているのか、死んでいるのかも分からない。
「あんたら、こんな事して何とも思わないの?」
怒りが沸々と湧いてくる。何の為にこんな事に協力しているのか? それがどんな理由であっても、私は納得出来るとは思えない!
「思わないな」
「なっ!?」
男は何の迷いもなく、そう返してくる。
「俺らだって仕事だからな。自分たちが生きる為なら、他の奴なんてどうでもいいね!」
「あんた……」
「ドロシー抑えるにゃ!」
思わず飛び出しそうになる私をライが止めてくる。
「そこの獣人の言う通りだぜ姉ちゃん。こっちには人質がいるんだからよ」
ニヤニヤと笑いながらそんな事を言ってくる男。許されるなら今すぐ殴ってやりたい……
「ほら、さっさと来い!」
「ドロシーさん、今は我慢しましょう」
足の縄を外され、先に自由に歩けるようになったエン君が私の耳元で囁く。その目を見て、内心は怒りに燃えている事がハッキリと分かった。
縛られた両手に持っている物を強く握る。きっと、大丈夫な筈だ。
「大体ここでギャーギャー言おうが、すぐにお前らもあいつらと同じようになるんだよ!」
足の縄を外され、連れてこられたのは洞窟の奥。今まで見てきた物と違い、逃げないように根元だけが凍らされた
「ほら!」
背中をドンと押され、目の前に連れてこられた私やライ、エン君に自在に動く枝が近付いてくる。
まだ、液体には満たされていないガラスの筒のような体が、私たちを呑み込もうと横から左右に大きく開く。
「ドロシーまだかにゃ?」
「ドロシーさん!」
「分かってる! でも……」
「お前ら何の話をしてる?」
私たちの話を聞いて、不思議そうな顔をする男二人。まぁ、分からなくて当然だ。
枝が体にまとわりついてくる。数分もすれば私たちも今まで見てきた人たちと同じようになるだろう。
「ドロシー!」
「ドロシーさん!」
――その時だった。
私の縛られた両手が激しく振動する。熱を持ったそれに魔力を込める。
「…………ぞ!」
「何だこの音?」
「お前ら何をした?」
「……
私の両手にある
「了解!」「分かったにゃ!」「了解です!」
三人が一斉に動く!
「「
ライと同時に枝を焼き払う。横ではエン君が身を捩り、器用に枝から抜け出している。
「お、お前ら! 人じちぇ……」
何かを叫ぼうとした男に拳を叩き込む。地面に倒れ込んだ男はピクリともしない。
「このガキ!」
倒せると思ったのか、真っ先にエン君に殴りかかったもう一人の男は、軽く後ろに跳んで避けられ、体勢を崩した所に下から掌底をくらい気絶した。
「私たちが
男二人を下敷きに一息をつく。
「早くこの人たちを助けましょう!」
「そうね! 急ぎま…………」
――瞬間。
「何の騒ぎダ?」
心臓を鷲掴みにされたような凄まじい圧迫感が襲ってくる!
私たちに向けて、
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