第一章40  『真相と作戦と○○と』

 


大狼王キングウルフ?」


「そうだ。そいつがここにいる」


 時間はフェイちゃん救出から少し遡る。

 テディが私を見つけ、ギルドにいるライやガイさんたちに通信用の魔法石を渡してくれたお陰で、捕まっているにも関わらず、こうして連絡を取り合うことが出来ていた。


「いや、それより嬢ちゃんが言ってた月の涙ムーンティアだっけか? もしそれが本当ならこれは……」


 私たちはそれぞれの安否を確かめた後、お互いの情報を共有していた。私とフェイちゃんは誘拐されてる以上それ所ではないのだが、事態は急を要する。


「はい! ガイさんの話で全てが繋がりました」


「お腹空いたにゃ……」


「今、その話!? 私とフェイちゃんが誘拐されてる事分かってる?」


 魔法石越しにそんな事を言うライ。


「お腹が空いたんだから仕方ないにゃ」


「どんだけ食欲あるのよ!」


「猫はお前が誘拐されたと聞いて一番動揺してたからな。安心したらお腹空いてきたんだろ?」


「へぇーー! そうだったんだライ?」


 そういう状況ではないが、つい笑みがこぼれる。


「ガイ! 余計な事は言わなくていいにゃ! そういうガイこそフェイが捕まってキレてたにゃ」


「うるせぇな! そんなの当たり前だろうが」


「……それ、ほんと?」


「お二人とも止めて下さい!」


 何やら、ばたばたと取っ組み合うような音と止めようとするエン君の声が聞こえる。


「……はぁ……はぁ、で、どうするにゃ?」


「……はぁ……はぁ、俺としては直ぐにでもフェイを助けに行きたいが」


 呼吸を整えながら二人が聞いてくる。本当に取っ組み合ってたの!?


「まずは一旦、今起きている事を整理しましょう」


 状況を理解する為にも、その方がいい。ガイさんが言うには、ウィンさんが王都に応援を頼んでいるらしいが、それを待ってる暇はないかも知れない。


「始まりは王都で実験に使われていた大狼王キングウルフが逃げた事だ」


大狼王キングウルフはその実験の影響で更に強くなったにゃ」


「あぁ。そして奴はこの町にやって来た」


「そこで何に使うつもりか分からないですが、月の涙ムーンティアを作る事にしたんですね?」


「うん。そうだと思う」


 エン君の質問に軽く返す。


「ジードさんに聞いて分かった事だけど、月の涙ムーンティア作成の為に、似たような状況を用意して、疑似的に月の涙を造り出す事は可能らしいの」


 本来なら、特別な満月の日に月が映った泉の水を掬い、そこに大量の魔力を注入する必要がある。


「そこで、魔力を取り込む泉の出番にゃ?」


「えぇ。あそこは一応、月が映る泉みたいなの。それに今日は特別ではないけど、満月の日ではある。後は……」


「……大量の……魔力……」


「そう! その為に黒ずくめ達を使ってフォレストや、余所から来た魔王を誘拐して……」


「俺らが戦った蓄える植物ストックプラントの中に、捕らえた魔王を放り込んで魔力を吸収する……っと、随分エグい事するじゃねぇか」


「でも、まだ疑問はあります」


「そうだな……これは人間側に何のメリットもねぇ」


「どういう事ですか?」


「わざわざ危険を冒して、魔王を誘拐する見返りは何だ? 月の涙ムーンティアを造りたいだけかも知れないが、関わってるのは大狼王キングウルフだ。王都の事もある……きっと奴は人間を恨んでるだろう」


「少なくとも、黒ずくめのリーダーっぽい男は快く協力してるみたいでした」


 長身の男はまるで、喜んで手伝ってますとばかりに、常に楽しそうだった。


大狼王キングウルフ月の涙ムーンティアを作る目的と、人間が協力する理由、まだ何か裏がありそうだな……」


 まだ謎は残るが、これで一通り情報を整理出来た。ここからは捕まってる私たちがどうするか?


「私はこのまま捕まっている人たちの所まで行こうと思う」


「俺たちが大狼王キングウルフを見た場所に捕まった人がいる可能性が高いと思うが、大丈夫か?」


「はい。私もそう思いますけど、もし違った時の事を考えると、改めて探してる時間は今はないですし、このまま連れていかれる方が都合が良いと思います」


「……じゃあ……私もここにいる」


「なっ! フェイお前!」


「……ドロシーちゃんが……捕まったままなら……私も動かず……ここにいた方がいい」


「ドロシーちゃん……」


「今は感動してる場合じゃないにゃ!」


「……多分……私はただの……子どもだと思われてる」


 確かに、テディが私やガイさんの所に向かえたのはフェイちゃんが全く警戒されていなかったからだろう。まさか、こんな小さな子が魔王だとは普通思わないから、当然の対応ではあるが……


「……いざとなったら……テディもいるよ」


 テディに案内して貰えば、ガイさん達でフェイちゃんを救出する事は出来る。

 だが、私にとっての人質であるフェイちゃんが逃げ出してしまえば、私やライやエン君が相手の言うことを聞く理由がなくなってしまう……

 それにフェイちゃんがいなくなれば、私を運んでいる余裕もなくなるだろう。


「フェイちゃん、危ない目に遭わせてごめんね!」


「……ううん……それに……」


「フェイ! お前、そんな」


「……ガイが……助けに来てくれるでしょ?」


 ガイさんが何かを言おうとするのを遮り、フェイちゃんが続ける。


「それは…………あー、もう! 当たり前だろ! そこで待ってろ!」


「……うん!」


「やっぱりガイさん、ロリコンじゃ?」


「誰がロリコンだ! 聞こえるようにはっきり言うな!」


 魔法石越しに突っ込みを入れてくるガイさん。


「まぁ、それは置いといて……」


「勝手に話を終わらせてんじゃねぇ!」


「ライ、エン君、二人とも危険な目に遭わせるかも知れない……でも、協力してくれる?」


「そんなの今更にゃ」


「その通りです!」


「二人ともありがとう。ガイさんもフェイちゃんも私の案に乗ってくれてありがとう!」


「……うん!」


「お前も捕まってはいるんだ……気を付けろよ?」


「はい!」


 ガイさんはフェイちゃん救出のタイミングを待ち、私とライ、エン君は捕まった人たちの所まで大人しく連れていかれる事になる。




 そして時間は今に戻り……


 捕まえた私たちを乗せた馬車が

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