第一章36  『監禁と空と○○と』

 


「………………う……ん?」


 瞳を開ける。視界がぼんやりして、手足も何だか自由に動かない。

 何が起きた? 自分の記憶を辿ろうとするがハッキリしない。


「…………確か、ジードさんに話を聞きに行って、それから…………あっ!」


 急いで周りを確認する――暗い部屋だが、窓はある。体は縛られている為か、上手く動かせないが、窓がある場所ぐらいまでなら何とか移動出来る。確認したい事は一つ……


「良かった! まだ間に合う」


 空を見る。日は傾いているが、ここに来てから余り時間は経っていない事が分かる。あのならまだ大丈夫だ……


「後は……」


 自分の状態を確かめる。頭はさっきまでボーッとしていたが今は問題なさそうだ。

 体は暗くてよく見えないが、両手足の感じから何かで縛られているのは分かる。

 魔法は――手から威力を抑えた火花スパークを出してみる。使えはするが、そこまで激しい事は出来そうにない。


(どちらにしても脱出は無理ね)


 魔法で縄を切って、この場を逃げる事は出来る。だが、そんな事より重要な事がある……フェイちゃんだ。

 私が意識を失う直前に、目の前から突然消えた。理屈は分からないが、フェイちゃんも私と同じように連れていかれた可能性は高い。

 もう一度中を確認する。暗くてハッキリ見えないが、簡素な部屋なのは分かる。やっぱりフェイちゃんはここにはいないようだ。

 他には立ち上がっても届かない、見上げる高さにある窓が一つ。

 その反対側に扉があるが、間違いなく鍵が掛かってるだろう。


(他には……?)


 後は部屋の中央に木の箱らしき物があるだけだ。ここまで何もないという事は、普段から人が立ち寄らない、使われていない部屋だと分かる。


(確認するだけしてみるか)


 後ろ手で縛られてる状態じゃ自由に動けないが、木の箱に何が入っているかくらいは見る事が出来るだろう……

 転がりながら中央まで行き、箱の中身を覗く。


「これ……」


 箱の中に大量にあったそれを見て、頭の中にあった疑問がまた一つ解決する。


――その時だった。


 ガチャリ……と扉の鍵が開く。暗い部屋に光が差して、中に誰かが入ってきた。フェイちゃんの居場所が分からない以上、下手な事は出来ないが魔法を使う準備はしておく。


「おぉ、目が覚めたかぁ?」


 ねっとりした話し方の男が近付いてくる。


「あんた誰?」


「忘れちまったのかぁ。会った事あるだろぉ?」


「…………そういう事ね」


 エン君と初めて会った時に行った食堂。入り口にいたのは、店内に唯一いた長身の男だった……


「フェイちゃんは何処よ!」


「フェイぃ? あぁ、あのガキかぁ……別の場所で丁寧に監禁してるぜぇ」


 やっぱりフェイちゃんも捕まっていた。すぐにでもこの男を叩きのめしてやりたいが、今は我慢するしかない。


「私たちをどうする気?」


「お前らにはまだ借りがあるからなぁ」


「借り?」


「本来ならあの時にぃ、お前ら三人捕まえてたはずだからなぁ」


「あの時? …………まさか黒ずくめの!」


「ご名答ぅ!」


 あの時の黒ずくめの集団と、木箱の中身、これで話は繋がった!


「全部あんたがやってる事なの?」


「あぁ? 何の話だぁ?」


「これよ!」


 木箱を体で倒す――中にあった大量のが床に散らばった。


「これ偽物よね?」


「おぉ、それに気付く奴がいるとはなぁ」


「ここに書いてある店に行った時に、おかしいとは思ったのよ」


 私が使っていたパンフレットに書かれていたオススメの店は、人通りがない場所にあって、昼時にも関わらず客は全くいなかった。

 そして店を出て直ぐの、黒ずくめの集団による待ち伏せ……まるで最初からこの場所で襲うと決めていたような、その動きにも疑問はあった。

 最後はギルドで見たパンフレットに感じた違和感。締めの一文に微妙な違いがあった。

 本物には「自然と共存する町フォレストへようこそ!」と書かれていたが、私が持っていた物には「自然と共に生きる町フォレストへようこそ!」と記載されていた。

 二つが今手元にある訳じゃないが、並べて確認すれば、他にも違う所は沢山あるだろう……


「偽物のパンフレットで、この町に来たばかりの魔王を人気のない場所に誘いだし、連れ去る…………あんたが、今この町で起きている人さらいの犯人ね!」


「元々この町にいた奴よりはぁ、簡単に捕まえられたぜぇ?」


「捕まえた人たちを何処にやったの!」


「さぁねぇ? 今ここで言わなくてもぉ、お前らは直ぐに行く事になるぜぇ」


 捕まった人たちがどうなってるかは予想が付く。問題は何処に連れていかれたか?


「もうすぐ迎えが来るからぁ、大人しく待ってろぉ」


「待ちなさい!」


 そう言って長身の男は部屋を出ていく。鍵の閉まる音を聞きながら、どうするべきかを考える……

 このままここにいれば捕まった人の所には行ける。けど、それじゃ奴らがやろうとしてる事は止められない可能性がある。フェイちゃんが何処にいるかも分からない……


「私はどうしたら?」


――コン


「ん?」


――コンコン


 音が聞こえた方を確認する。


「あれは!」


 そこには、窓の向こうでこちらをノックするがいた……


「何あれ、可愛すぎでしょ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る