第一章27  『食事とお風呂と○○と』

 


「おじさん部屋を三つお願い」


「昨日と全く同じ光景にゃ!」


 私たちはガイさんとフェイちゃんを連れ、マザー内の宿屋に来ていた。


「お、おぅ……お嬢ちゃんか、は、はいよ~」


「私、距離置かれてる!?」


 宿屋の主人がしぶしぶといった様子で部屋を確認している。私、何かした?


「何で、また勝手に三部屋にしてるにゃ!」


「えっ?」


「だから、その特におかしな所はないですが? みたいな顔をまずやめるにゃ!」


「もうライ!! ……よく聞いて?」


「何にゃ?」


「おかしな所は一つもない!」


「大有りにゃ!! それだけ言い切るなら部屋割りを言ってみるにゃ」


 こんなに真剣な顔をしているのに全く聞き入れてくれないのは何故なんだ?


「私、エン君、フェイちゃんが一緒の部屋で、ライとガイさんは別」


「おかしな所しかないにゃ! さっきの真剣な顔はいったい何だったにゃ!」


「皆で一つの部屋に泊まる方が楽しいかなって……」


「その皆から、私とガイがハブられてるのに楽しいもクソもないにゃ!」


「ちっ! バレたか」


「舌打ち!? 逆に、何でそれで通せると思ったにゃ……」


 やはりライは手強い。


「もう! 本当にライは」


「自然に私が悪いみたいな雰囲気出すのはやめるにゃ! というかその前に口の涎を拭うにゃ……」


「あっ、やばっ!」


 涎でベタベタになっている口元を綺麗にする。


「分かった分かった! ライがそこまで言うなら私とエン君とフェイちゃんが一緒で、ガイさんとライが同じ部屋で」


「そういう事じゃないにゃ! 何にゃ? さっきのやり取りを私が寂しいからと取ったにゃ?」


「えっ? そうじゃないの?」


「全く違うにゃ! 寂しいから部屋割りに文句をいってる訳じゃないにゃ!」


「じゃあ、私とエン君とフェイちゃんとガイさんが一緒で、ライは別部屋で」


「それはただの虐めにゃ! 皆で泊まるのにそんな部屋割りにされたら一生もののトラウマになるレベルにゃ!」


「本当にライは我が儘だなぁ」


「だから、サラッと私が悪い感じにするのはやめるにゃ!」


「あっ! なら私とガイさんが同じ部屋で、ライとエン君、フェイちゃんが一緒。夜中にライが部屋の鍵を開けてくれたら……」


「あっ、良いこと思い付いた! みたいな顔で犯罪の片棒をまた担がせようとするのはやめるにゃ!」


「え~、じゃあどうしろってのよ」


「誰のせいでこうなってるにゃ……」


「もう分かったわよ! 私とエン君、フェイちゃんが別部屋で、ライとガイさんは外で」


「何で俺まで!? というかただの部屋割りにどんだけ掛かってんだよ」


「これは大事な事なんです!」


 呆れ顔なガイさんにしっかり宣言しておく。


「じゃあ、私、エン君、ライ、フェイちゃん、ガイさん皆が別部屋で!」


「そんな無茶な要求は通らな……普通の事言ってるにゃ!?」


「少しいいですか」


「何、エン君?」


 恐る恐る手を挙げるエン君。


「僕はライさんの友達さんと同じ部屋はイヤです」


「名前すら呼んで貰えない!?」


「自業自得にゃ……」


 そんな馬鹿な! 私が何をしたというのか。


「なら、私とフェイちゃんが同じ部屋、他は別部屋でどう?」


「とうとう他呼ばわりになったにゃ……」


「……わたしも……ライちゃんの……隣の人とは……イヤ」


「最早他人扱い!?」


 フェイちゃんの中では私はたまたま同じ宿に、同じタイミングで泊まりに来た、ただの隣の人なの!?


「……どうせなら……ガイと一緒が……いい」


 そう少し頬を赤くしながら言うフェイちゃん。何その表情可愛すぎる!


「お前ぇぇーーーーー!」


「何でだよ! 俺は何もしてないだろ!」


 思わずガイさんに嫉妬で掴み掛かる私をライが後ろから止めている。


「ガイは何も悪くないから気にしなくていいにゃ」


「お前苦労してんだな……」


 ライに哀れみの目を向けるガイさん。


「すみません、つい取り乱しました」


「ついのレベルじゃなかったぞ……」


 そう言うガイさんを、心の中ではロリコン野郎と呼ぶ事を固く決める。


「あのー」


 騒いでいた私たちに店主のおじさんが手を挙げながら声を掛ける。


「はい?」


「皆一部屋ずつで、お嬢ちゃんだけ外でいいんじゃないか?」


「私、宿泊拒否されてる!?」


 結局、軽く追い出されそうになりながらも、店主のおじさんを何とか説得して五部屋を借りる事になった。









「やっぱり美味しいにゃ~!」


「本当に! 何度食べても美味しいです」


「こいつら本当にこの量食べるのか?」


「……すごく……いっぱい」


 昨日と同じ酒場。相も変わらずエン君とライの前には山盛りの料理が並んでいる。


「それが食べるんですよ……」


「マジかよ。こいつらの胃はどうなってんだ?」


「……びっくり……」


 比べて、私たちの前には一人前の料理が並んでいる。良かった! エン君とライの影響で自分がおかしいんじゃ? と少し思い始めていたが、ガイさんとフェイちゃんのお陰で自分が普通だと気付けた。


「あれ? でも何かフェイちゃんの料理?」


 ハニーアップルのパイに、甘い爆弾スイートボムのケーキ、焼き菓子の葉クッキーリーフのチョコサンド、砂糖の花シュガーフラワーのジュース……


「甘いのしかない!?」


「こらフェイ! 野菜もちゃんと食べろって言ってるだろ」


「……にがて……」


 そうお父さんのような事を言うガイさんの前には、野菜しか並んでいない。


「ガイさんは虫なのかな?」


 ガイさんは一面ほぼ緑色の料理、というかただの生野菜を美味しそうに食べている。


「……ガイだって……偏ってる」


「何言ってんだ! 野菜は体に良いんだぞ? 野菜こそ至高! この世で一番上手い料理だ!」


「ガイさん、それただ千切って盛り付けただけの生野菜ですよ……」


 明らかに偏ってるはずなんだが、何なんだこの自信は?


「やっぱりこれが美味しいにゃ! ドロシーも食べるにゃ! ほれ、ほれ!」


「勧め方の押しが強い!」


 横からライが無理矢理口に料理を押し込んでくる。いや、美味しいけどね!美味しいけど口の周りが料理でベタベタなんだけど……


「そういえば、ガイさんたちは昨日ここに泊まらなかったんですか?」


「あぁ、そうだな。探索の為に、違う場所に泊まってた」


「すみません。もしかして泊まるのここじゃなかった方が良かったですか?」


「いや、大丈夫だ。今日の一件でこっちに宿を変えるつもりだったからな」


「あっ、それなら良かったです」


「この町でここ以上にもないからな」


「そうなんですか?」


 無理矢理連れてきてしまったかと少し心配したが、そうじゃないのならと、ほっとする。


「やっぱり空腹こそが最高のスパイスにゃ……」


「ライさん病院に行く前に、暴れ猪のステーキ沢山食べてましたよね!?」


 ジードさんの家を出てから、病院に行くまでにライがお腹が減ったというので、ステーキ食べさせたはずなんだけどな? あれ、記憶違いかな?


「あれは既に私の血肉になったにゃ」


「どんな体のサイクルしてるのよ!」


 そう言いながらも猫の姿のままで、翔び鶏のからあげにかじりつき、眠り牛のステーキ丼を掻き込み、甘い爆弾スイートボムのケーキを口に運ぶ豪快さは、見てて圧巻だった。


「……それ……どうやって……食べてるの?」


「えっ? 何の事ですか?」


「あっ、やっぱり俺が疲れてるからそう見えてた訳じゃないんだな」


 いつも通り、エン君の前にある料理は手を動かしていないのに、どんどん消えていっている。それやっぱり魔法じゃない?


「手を使って口に料理を運ぶ所までは見えるんだが、その先が……」


「ガイさんそれ見えてるの!?」


 ガイさんの凄まじい動体視力に驚いてる私を余所に、エン君はきょとんとした顔をしながら目の前の料理をどんどん消滅させていた。


「ま、まぁ、実は私にも見えてたにゃ……」


「ライ……目が泳いでるよ……」


 美味しいご飯と楽しい時間を満喫し、私たちは酒場を後にした。











 そして待ちに待ったこの時間がやって来た……


「お風呂タイーーーム!!」


「初っぱなからテンションがおかしいにゃ!」


 大樹マザーの宿屋には、町を見下ろす形の露天風呂があった。昨日はささっと済ませたが、今回はじっくり入るしかない!


「これは神が与えてくれた私への褒美……神よ感謝します……」


「女神はフェイじゃなかったかにゃ?」


「それとは別の神よ!」


「どんな変態な神にゃ!?」


「御託はいいからさっさと行くよ!」


「どれだけ必死にゃ……というかフェイならもう先に入ったにゃ」


「何だってぇぇぇーー! 待っててフェイちゃん!」


「こいつヤバすぎるにゃ……」


 脱衣場で服を脱ぎ、お風呂場に飛び込む。町全体を見下ろせるこの露天風呂は、他では中々見れない綺麗な景色が見えた。建物から見える灯りがぽつぽつと町を照らし、まるで穏やかな炎が集まったような幻想的な光景を生み出している。


「うん?」


「ドロシーどうしたにゃ?」


 町全体の灯り、その外側が昨日より何だか気がする。まぁ、昨日はじっくり景色を見てた訳じゃないから、あやふやな記憶だけど……


「何でもないよ。それより……」


 お風呂に直行する。ここにはフェイちゃんがいるはず。


「可愛いよぉぉぉぉ!」


「公共の場所でいきなり叫ぶのはやめるにゃ!」


 普段ツインテールなフェイちゃんは髪をおろしており、頭の上にタオルを乗せて気持ち良さそうにお風呂に入っている。お風呂の影響か、頬がいつもより赤いのもグッと来る。


「落ち着け私! ……心に……心に焼き付けるんだ!」


「ここに変態がいるにゃ!」


 この夢のような状況を忘れない為に、目を見開き今を見る!


「ごくごくごくごく!」


「何飲んでるにゃ!?」


「えっ? 聖水だけど?」


「それはただのお湯にゃ! 飲む物じゃなく浸かるもんにゃ!」


「分かってるわよ! ごくごくごくごく!」


「話聞いてたかにゃ!?」


 勢いよくフェイちゃんの入ったお湯を飲む私に、ライの突っ込みが入る。


「……ライちゃんの……隣の人……」


「まだ他人扱い!?」


「いや、今の姿見てたら誰でも他人の振りをしたくなるにゃ……」


「……お風呂は……静かに……入りましょう」


「はい! 分かりました!」


「チョロ過ぎにゃ!?」


 借りてきた猫のように静かになる私にライが驚いているが、女神がそう言うなら仕方ない。




 ドロシーたちがいる露天風呂とは反対側にある男湯。


「何だか向こうが騒がしいな……」


「きっと、ドロシーさんでしょう」


「あぁ、そうだろうな。フェイは大丈夫だろうか?」


「ライさんもいるんで大丈夫だと思いますよ」


 そんなこんなで、ゆったりとお風呂の時間も過ぎていく。







 そして夜も更けた頃、私はまたエン君の

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