第一章26 『滴と涙と○○と』
「アレって何の事ですか?」
「アレって何にゃ?」
「教えてください! ジードさん」
「な、なんじゃなんじゃ? お主らも随分グイグイ来るのぅ」
お主らも? 前にもこの話を聞いた誰かがいたんだろうか?
「私たちはその願いを叶える滴を探してここまで来たんです!」
「分かった分かった! 少し待っておれ」
そう言って立ち上がり、部屋の奥に行こうとした瞬間、机に足を引っ掛け体ごと壁にぶつかった。
「わざとやってない!?」
「ワシ、ドジじゃから」
「だからドジの範疇を軽く越えてるにゃ!」
体をさすりながら部屋の奥に消えていく。本当に大丈夫なんだろうか? 主に体的な意味で……
「これじゃこれじゃ!」
そう言って戻ってきたジードさんの手には何やら古い本が握られていた。
「念のため先に言っておくが、ワシが言っているのは願いを叶える滴なんて万能な物なんかじゃないぞ?」
「やっぱりそうですか……」
調べている内に薄々感じていた。出所も噂自体もあやふやで、願いとは何を指すのか、滴をどうしたら叶うかだってハッキリとしていなかったのだ。
「多分お主らが探してるのはこれじゃろ」
そう言いながら古い本を開く。
「……
「この地域だけじゃなく、世界でも過去に何度か見られたものじゃよ」
「これが願いを叶える滴の噂の元になったと?」
「これの効能は、一滴でどんな傷や病も治せるというものじゃからの」
「それは凄いにゃ!」
確かにそんな便利な物があるなら願いを叶える滴と呼ばれても不思議じゃない。だが知ってる人が少ないという事は……
「簡単には手に入らない物だから……ですか?」
「そうじゃの。まず必要な物は月が映る天然の泉。月の光にも魔力が宿っているのは知っておるじゃろ?」
「はい!聞いたことがあります」
「一年の内、その月の光にもっとも魔力が含まれる満月の日に、満月が映る泉の水を掬い上げる」
「それだけだと、そこまで大変そうには感じないにゃ」
「問題はここからじゃ。その掬った泉の水に莫大な魔力を注入する必要がある」
「莫大な魔力ですか?」
「あぁ、それこそ魔物の一匹や、魔人や魔王が何人いようが足りない程の大きな魔力じゃ」
そう言いながらジードさんは古い本のページをめくり指で差す。
「ここに書かれている
「確かにそれだけ聞くと、本当かも分かりませんね」
「もし、本当じゃったとしてもじゃ。そんな魔力がすぐに集まるとは到底思えんがの」
「でも、何でわざわざ願いを叶える滴なんて噂の広め方をしたんですかね?」
エン君が手を挙げながら、そう質問する。確かにその通りだ。正直ここに書かれている
「うーん……それはワシにも分からん! だが、実際お主らのように、その噂でこの町に来た者もおるしな」
これはどういう事なんだろう? 噂は広めたいが、
「ジードさんありがとうございました。今日はこれぐらいで失礼しますね」
「また聞きたい事があればいつでも来るといい」
「次はもっとハニーアップルを用意しておくにゃ」
「何で勝手に人の家の物食べてるのよ!!」
いつの間にか机に置いてあったハニーアップルが全てなくなっていた。
「本当にすみません! 代金をお支払するか、次来るときに代わりのものを買ってきます」
「いやいや、別に構わんよ! ワシ甘いもの嫌いじゃし、あれも貰い物じゃったからな」
「ちゃんと謝りなさい」
「ごめんにゃ! てへぺろ」
「ちゃんと! ……謝り……なさい!」
「いだだだだだだ! 頭掴むのはやめるにゃ! いや、ほんと洒落になってない力にゃ! わ、悪かったにゃ! いや悪かったです! ジードさん本当にすみませんでした」
頭を鷲掴みにしてライにしっかり謝らせる。とりあえず依頼の内容と巨大な魔物に関係性があるのは分かった。この話をガイさんに報告する為、私たちはジードさんの家を出た。
「なるほどな」
病院で、ガイさんに依頼内容やあの魔物の関係性について話し終える。
「どちらにしても明日あの周辺をもう一度確認する必要はありそうだな」
「そうですね。繋がっている事は分かりましたけど、原因については結局分かってないですし」
「お前らはどうするんだ? 何か目的があってこの町に来てたんだろう?」
「今はまだどうするか決めてません。明日には結論を出そうかと」
「協力して貰いたい所だが、目的があるなら無理も言えんしな。また決めたら教えてくれ」
「はい! 分かりました」
私たちの目的だった願いを叶える滴は存在していなかった。もしかしたら噂は本当で、という可能性もまだなくはないが、ここに昔からいる人間が知らないというのだから絶望的だろう。
私も、エン君も
「俺も今日はもう無理はしない程度に動いていいと言われたんで、ここを出るつもりだが……」
「……なっ!? てことは宿を取るんですよね?」
「あぁ、そうだが?」
「私に任せて下さい」
「嫌な予感しかしないにゃ!」
グヘヘと笑みを溢しながらこれからについて考える。明日町を出るにしてもまずは今日だ。
そう! まだまだ今日も
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