第一章24  『目覚めとお見舞いと○○と』

 


「…………う……ん?」


「エン君、無事に目が覚めて良かったぁぁぁー!」


「……はい。というかドロシーさん」


「はい?」


「何してるんですか?」


「あっ、違う違う! 決して寝顔を間近で見てたとかそういう訳じゃなくて」


「寝てた人の様子を窺う距離じゃなかったですよ!それに涎……」


「あっ、やばっ!」


 顔の横で容態を見てたのが裏目に出たか。決して、決してやましい気持ちはない!


「ここは?」


「ギルドの上にある病院よ」


「えっ? ここもマザーの中なんですか?」


「私も最初びっくりしたんだけどそうみたいよ」


「どれだけ便利な施設なんですか」


「エン君が倒れた後にウィンさん達が来てくれて、私と一緒に皆をここまで運んでくれたの」


 エン君が寝かされているのはベッドと窓があるくらいのシンプルな部屋だ。


「皆さんは?」


「ライとフェイちゃんは爆発の衝撃で意識を失ってたみたいだけど殆ど無傷。ガイさんはフェイちゃんを庇って火傷を負ったみたいだけど、咄嗟に魔法を使ったみたいで軽傷で済んだみたい」


「それなら、良かった」


 安心した様子のエン君に聞きたかった事を尋ねる。


「エン君が使ったあの力は?」


「実は僕にもよく分かってないんです。親友から貰った力なのは確実なんですが……」


「その親友ってもしかして……?」


「はい。ドロシーさんに話した」


 悲しそうな顔になるエン君。気になる事は沢山あるが、この話は今は深く聞く必要はないだろう。


「ところでドロシーさん……」


「なに?」


 思わず身構えてしまうほど、神妙な面持ちでこちらを見ている。


「お腹が減りました!」


「今の雰囲気何だったの!?」


「違います、違います! あの力を使った事は数回しかないんですが、その後は毎回こうで……」


「じゃあ、倒れたのってもしかして?」


「空腹で……」


「どんな力よ!」


「だから僕にもよく分かってないんですよ。力を発動すると一気にお腹が減って、五分もすると倒れるんです」


「凄い力なのに代償がご飯って……」


「だから、普段なるべく沢山食べて何かあっても大丈夫なようにしてるんです」


「エン君の食欲はそこから来てたのね」


 納得したような、してないような不思議な気持ちになる。あの時のエン君は、間違いなく自ら魔力を生み出していた。しかし力を使う為に必要なのがご飯とは。


「まぁ、とりあえずこれ置いとくね」


 市場で前に買ったハニーアップルを五個置いておく。ギルドで調べものの際にライにあげる予定だったものだ。お姉さんにたらふく餌付けされて本人は忘れていたみたいだし、問題ないだろう。


「じゃあ、私は他の皆を見てくるからエン君はゆっくりしておいて」


「はい!」


 そう言いながら病室を出ていく。ハニーアップルが早くも残り一個になっていたように見えたが、多分気のせいだろう……









「もう食べられないにゃ……」


「どんなベタな夢見てるのよ!」


 枕にかじりつきながら、何かを食べてるらしいライ。


「……にゃ!? ドロシー? 私を襲ったステーキ巨人は何処にゃ?」


「全然ベタじゃない!? アンタ夢の中で何と戦ってるのよ…」


「あれ? ここ何処にゃ?」


「病院よ、病院」


 それから起こった事や、皆の状況を軽く伝える。


「なるほどにゃ~」


「一応ここに来るまでの間、桃色の髪を見られないようにしたんだけど」


 私が着ていたローブを深く被せて人目に付かないよう配慮したが、どれくらい意味があったか。


「じゃあ念のため猫に戻るにゃ」


 獣人の元々の特性もあるのか、ライは呪文を唱えなくても猫の姿に戻れるようだ。魔力を使ってはいるので魔法ではあるのだが、エン君の力のように私が知らない事も世界にはまだまだ沢山ある。


「それじゃ、ガイとフェイの所に行くにゃ」


 猫の姿に戻ったライが肩に乗りそう言ってくる。








「こんにちは~!」


「おっ、お前らか!」


「ガイ、元気そうで何よりにゃ」


「今、さっき起きたばっかだがな。嬢ちゃんに猫も無事だったみたいで良かった!」


 ベッドから起き上がったガイさんの横では、先に来ていたらしいフェイちゃんがいた。あれフェイちゃん手握ってね?


「……ロリコンがっ!」


「誰がロリコンだ、誰が! 病人に向かっていきなり何なんだよ……」


「きっとフェイと手を握ってるのに嫉妬したにゃ」


「何でだよ!? その反応自体おかしいだろ!」


「……あの」


 フェイちゃんが私たちに声を掛けてくる。うん! やっぱり可愛い!


「我が女神……どうしました?」


「呼称も、口調も変わりすぎにゃ!」


「……ごめん……なさい……」


「何の話?」


「……わたしが……ワガママ言ったせいで……かえって皆が……危ない目に」


「謝る必要はないよ! 誰もあんな事になるなんて予想は出来なかったんだし。それに……」


「フェイの話を聴いて、どうするかを決めたのは私たち自身にゃ」


「そういうこと!」


「……ありがとう! ……ドロシー……お姉ちゃん……ライちゃん」


「うぉぉぉぉーーーー! お姉ちゃん!」


「いきなり叫ぶのは止めるにゃ! そのせいでまたフェイが怖がってるにゃ」


「なっ!?」


 嬉しくてついついやってしまった。叫ぶ声に驚いたのかフェイちゃんはガイさんの後ろに隠れている。


「ごめんフェイちゃん!」


「……いいよ……ライちゃんの……友達さん」


「名前すら呼んで貰えない!?」


「自業自得にゃ……」


 友達の友達みたいな微妙な距離感をフェイちゃんにとられてしまった。


「……ガイも……言うこと聞かなくて……ごめんなさい!」


 大事な人だと言っていた相手を、結果的に怪我をさせる状況に追い込んでしまったからか、フェイちゃんはとても悲しそうな顔をして謝っている。


「……そうだな! お前がした事は本当に危ない事だ」


「……うん」


「だけど、俺はお前のお陰で助かったし、何よりあの時俺は嬉しかった」


「……ガイ」


「だから気にすんな! 来てくれてありがとうな」


 そう言いながら、フェイちゃんの頭をゆっくりと撫でるガイさん。羨ましい……


「クソがっ!」


「だからお前何なの!?」


「私の友達さんがごめんにゃ!」


「ライまでその呼び方!?」


 色々とあったが、皆が無事で本当に良かった。


「そういや気になってたんだが、嬢ちゃんは何であそこにいたんだ?」


「こういう依頼をやってたんです」


 持っていた依頼書を渡すとガイさんはそれを隅々まで見る。


「なるほど……」


「ガイさんたちも何であそこに?」


「俺らは王都からの依頼であるものを探しててな。フォレストの西を確認してたんだ」


「あるものですか?」


「まぁ、嬢ちゃんたちには関係ないものだ」


「そうですか……」


 その通りだが、そうキッパリ言われると何だか気になる。


「ところでこの依頼、依頼主に話を聞いた方がいいかもな」


「えっ?何でですか?」


「こいつが調べようとしてたものは、俺らが戦ったあれと関係あるかもしれない」


「あの巨大な魔物ですか?」


「そうだ。もし他にもああいうのがいるなら大変な事になるからな」


「分かりました。依頼の報告ついでに依頼主について聞いてみます」


「俺は今日一日は安静にしておけって言われてるから、頼んだぞ」


「……わたしは……ガイに……ついてる」


「じゃあ、今から行ってきます」


「行ってくるにゃ!」


「気を付けてな!」


「……気を……つけて」


 そう二人で手を振るガイさんとフェイちゃんに見送られ私たちは病室を出ていく。時刻は昼を過ぎた辺り、どちらにしても今日は魔力も体力もほぼ尽きかけているので、話を聴くぐらいしか出来ないだろう。








 騒がしい二人を見送った後でフェイが声を掛けてくる。


「……いわなくて……よかったの?」


「知らない方が余計な事に巻き込まなくて済むだろう」


「……でも……あれ」


「俺らの依頼とも関係あるかもしれないな」


 あの時、蓄える植物ストックプラントを倒した魔力で造られたドラゴンを思い出す。


「もし、探し物がここになら、あいつらに協力して貰う事も……」

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