第一章21 『過去と夢と○○と』
「ここは……?」
一目で分かる。これは夢の中だ。これまで何度も何度も、嫌というほどこの光景を見てきた。
第七魔導研究所。魔法を研究するここがいつも始まりの場所だった。
「ガイは今日も変わらずツンツン頭だなー!」
まるでその場にいるように二人の声も姿も見えている。
「ガイ、疲れたでしょう? これ食べなさい」
――ろ!
「ガイ元気ないぞ? 何かあったのか?」
――やめろ!
「私たちには娘がいてね……本当に可愛いの!」
――やめてくれ!
「お前に居場所がないなら、うちの研究所に来るといい」
――頼むからもう
「私たちはもう……ダメだ」
目の前が真っ赤に染まる。それは血でもあり、炎でもあった。そして最後は決まってあの光景が止まる事なく繰り返される。
――待ってくれ……待って! 頼むから、頼むからいかないでくれ!
「おいおいガイ、何て悲しそうな顔してるんだ?」
――そんなの当たり前だろう! あんた達がいなかったら俺は……
「ねぇ、ガイ?」
――何だよ!
「私たちはあなたが大好きよ」
――そんなこと……俺だって…………
「そう……とても嬉しいわ……」
「なぁ、ガイ? お前だからこそ頼みたい事がある」
――そんなもん、ここを出たらいつだって聞いてやるから! だからお願いだ……
「……娘を…………頼む」
そして、全てが赤く塗り潰される……
「タウ!」
溢れる涙に、自分がまた夢を見ていた事に気付く。いつもそうだ――最初は夢だと理解してるのに、いつの間にか本当の事のように入り込んでしまっている。
討伐依頼が終わった後、疲れていたのか路上でそのまま寝てしまったらしい。こんな所で寝るなんて、我ながら無茶ばかりしているのが分かる。
空を見ると夜が明けていた。
「……泣いて……たの?」
背後からの声に振り返る。背もたれにしていたフェンスの向こうに栗色の髪をした少女が立っている。
「お前に関係ないだろ」
横目に看板らしき物を見る――どうやらここは養護施設らしい。見知らぬ少女はこちらを心配そうに見ている。
「……大丈……夫?」
涙が伝う頬に、ゆっくりと少女が手を伸ばす。
「やめろ!」
思わずその手を振り払ってしまう。一瞬だったが、少女はとても悲しそうな顔をしていた。
「……ごめん……なさい……」
「いや、俺が悪かった」
先程の表情を思い出し、素直に謝る。子ども相手に八つ当たりとは本当に最低だ……
「何だってお前こんな時間にいるんだ?」
夜明けの空には太陽が光始めている。普通ならまだ子どもは寝ている頃だろう。
「……今が一番……静か……だから」
「そうか? まぁいいや。俺は宿に戻る」
立ち上がり、伸びをしてフェンスから離れる。
「……待って」
「うん? 何だ?」
「……また……来る?」
「いや、何だって俺が見知らぬ……」
また悲しそうな顔をする少女。
「あぁーー、分かったよ! また来るよ!」
「……ありが……とう」
そう笑いながらお礼を言う女の子が、自分にとって何より大事な存在だと、研究所の爆発事故で何の情報も持っていなかったその時の俺には分からなかった。
それに気付いた時、俺の止まっていた時間は動き出す事になる…………
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