第一章20 『泉と出会いと○○と』
「エン君ごめん! 許して!」
夜這い(仮)騒動から一晩経ち、私たちは二つ目の依頼と、フォレスト近辺の調査を兼ねて西入り口前まで来ていた。それは良いのだが……
「許しません! 何で僕の部屋にいるのかと思ったら、まさか部屋に忍び込んでたなんて」
「ち、違う違う! 本当にやましい理由じゃないから!」
「じゃあ、何だって言うんですか?」
「そ、それは……寝顔を見たり、添い寝しようかなーって」
「やましい理由しかないにゃ!」
エン君が昨日の夜からずっとこの調子なのだ。朝ごはんの時すら全く相手にしてくれなかった。
「ねぇー! 何でもするから許してよぉ~!」
「ん? 何でもにゃ?」
「何であんたが反応するのよ!」
「僕は昨日、ドロシーさんが協力してくれるって言ってくれた事、本当に嬉しかったんですよ? それなのに……」
「うぅ……」
悲しそうに顔を俯けるエン君に心が痛む。
「エン君昨日は本当にやりすぎました! ごめんなさい!」
「………………」
「エン君?」
「………………です」
「えっ?」
「冗談です! 許しますよ!」
そう言ってにっこりと笑うエン君。あれ? やっぱり目の前にいるのは天使かな?
「えっ? じゃあ今までの全部?」
「はい! 怒った振りです」
「エンも、ドロシーの扱い方が分かって来たみたいにゃ……」
「何だぁぁぁ! 本当にびっくりしたよぉぉぉ! てっきり嫌われたかと」
「そんな事ないですよ! でも……」
一瞬で空気が張り詰める。
「次に同じことをしたら」
蔑んだ目で私を見るエン君。あれ? 何この気持ち? 凄くゾクゾクしてきた…………これはこれでいい!
「これ以上変な性癖に目覚めるのは止めるにゃ!!」
「誰が変な性癖よ!」
ライには私が喜んでるようにでも見えたのか、先に釘を刺される。全く失礼な!
「でも、今回は何か見つかるといいにゃ」
「そうね。結局昨日は願いを叶える滴に繋がりそうな情報は見つけられなかったし」
昨日アルさんが馬車を直している間に、私とライで辺りを少し探索してみたが、滴に繋がりそうな何かはなかった。
いや、なくて当たり前なのだ。何も確実な情報もなく、噂だけが一人歩きしている。この噂を流したのは誰なのか?
これは自分達の為にもあんまり考えたくない話だが、もし願いを叶える滴なんて最初から存在しないとしたら、この噂を広げる事に何の意味があるのか。
西入り口から歩き続け、泉までもう少しという所で突然……
「ぶぁぁぁっくしょん! 馬鹿やろにゃぁぁぁ!」
「どんなくしゃみよ!」
「あー、ごめんにゃ! 何か肌寒くて……」
「えっ? あっ、確かに」
フォレストの町にいた頃より少し寒い気はする。この地域の事はよく知らないから、こういう事もあるのかな? と納得するしかない。
いつの間にか地面を歩いていたライが私のローブの中に潜り込んで胸の辺りから顔を出している。日常では寝る時や、安全だと判断出来る時以外は殆ど猫の姿のライだが、こういう時は便利そうだ。
「やっとついたにゃ」
程なく目的地に到着した。地中から溢れる綺麗な澄んだ水が泉を形作っている。
「この泉で何を調査するんですか?」
「泉の水を持ち帰るのと、周りに生えている草や花をいくらか採取するだけでいいみたい」
「簡単な依頼にゃ」
「これを元に魔法学者さんが何か調べるみたい」
「魔法学者ですか?」
「魔法を研究する人ね。この依頼主はどちらかといえば、地域に根差した魔を研究するのが専門みたいだけど」
二つ目の依頼にこれを選んだのはそれが理由だ。この人に直接話を聞ければ、願いを叶える滴について有力な情報が得られるかもしれない。
「うん?」
一際目立つ花を見つけ、思わず手が止まる。白い六芒星の花弁を持つ不思議な花だった。
「これも持っていくにゃ」
「そうね」
ライに急かされ、その花も袋に入れる。
「これで一通り終わったかな?」
泉の水に、周りの草や花、依頼内容はバッチリ達成していた。
「じゃあ、ここら辺もグルっと見てま……」
「ドロシーどうしたにゃ?」
遠くからでも分かるあの姿。泉の向こう側には栗色の髪を短めのツインテールにした可愛い女の子が歩いていた。
「女神……」
「だから何が見えてるにゃ!」
隣に赤いツンツン頭もいるみたいだが、チャンスは今しかない。仲良くならねば!
「こんにちはーーー!」
勢いよく挨拶して近づいていく。私の声にびっくりしたのかツンツン頭の後ろにサッと隠れる女の子。羨ましいぃーー!
「あ? 何だお前?」
少女を庇うように咄嗟に腕を出す男。自分でも驚くくらい両方に警戒されている。あれ? 流石に傷付くぞ?
「昨日会ったよね~?」
そう女の子に言ってみるがツンツン頭の背後から出てくる気配は一切ない!
「そりゃ、あんな絡み方したらこうなるにゃ……」
「ドロシーさん、また怖がらせちゃダメですよ!」
「何だ、何だ? 次から次へと。お前らフェイの知り合いか?」
女神の名前を心に刻む。こうなったら仕切り直して、何とか心を開いて貰うしか。
「初めまして! 私はドロシーと言います。で、こっちは……」
「ライにゃ」
「エン・カイドウといいます」
「俺はガイ・アルスだ。ほら、フェイ!」
ぽんと押され、ぴょこんとガイさんの後ろから女の子が出てくる。やっぱり可愛い……
「……フェイ……コーネル……」
たどたどしく自分の名前を言うフェイちゃん。
「可愛いよぉぉ!」
「だからそれ止めるにゃ!」
私が叫んだ瞬間、びくっとガイさんの後ろにまた戻ってしまった。
「やっちゃったよぉぉぉーー!」
「何でこれだけでドロシーは本気で泣きそうになってるにゃ……」
ガイさんの背後から、ちらちらと何かを伺っている。
「何にゃ?」
どうやらライを見ていたらしい。
「……喋る……猫?」
「そうにゃ」
「……魔ノ……者?」
「フェイ、よくわかったにゃ!」
「……ふふふ」
笑っている……だと!? 私はこれまで生きてきて、これほど喋る猫として生まれ変わりたいと切に願った事は今までない!
「お前ん所の嬢ちゃん凄い顔してるぞ」
「多分どうでもいい事だと思うから、気にしないでいいにゃ」
「僕も日は浅いですけど、あれが平常運転だと分かってきました」
「私はいったいどうすれば!」
「うん? ドロシー!」
「何?」
「ふざけるのは一旦終わりにゃ! 何かヤバイのが来るにゃ!」
がさがさと大きな音が遠くからこちらに近づいて来る。
木を掻き分けて私たちの前に現れたそれは
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