第一章18 『再会と宿と○○と』
「いや~、まさか今朝のお嬢ちゃんに助けられるとは……」
頭をかきながら、助けたおじさんがそう言う。最初は気付いていなかったが、王都からここまで私達を乗せてくれた御者だった。
「いえいえ、皆さん無事で本当に良かったです」
私達が助けたのは四人、一人はこの御者さん、残り二人は観光客、最後は先程まで気絶していたので、まだどういう人か分かっていない。
「本当に助かったよ! そういや名前すら聞いてなかったな……俺はアル・リンドバーグだ」
「ドロシーです。アルさん、こちらこそ消火まで手伝って貰ってありがとうございました!」
「命を助けて貰ったんだ、これくらいお安いご用さ」
「ドロシーさーん!」
気絶していた人を介抱していたエン君が、離れた所から呼んでいる。
「じゃあ俺は壊れた馬車を修理してくる」
「はい! 何か手伝えそうな事があったらまた言ってください」
アルさんの後ろ姿を見送りつつ、私もエン君の所に向かう。
「どうしたの?」
「この方がお礼を言いたいらしくて」
エン君と猫の姿に戻ったライも見守りつつ、上体だけ起こした若い男がこちらを見る。見た目はギルドで見た赤いツンツン頭ぐらいの若さだが、眼鏡とどうにも気が弱そうな感じがする。
「君が助けてくれたのかい?」
「はい、私とそこのライとエン君とです」
「ありがとう……もう終わりかと思ったよ」
この男性はずっと気絶していたものの、特に傷などはなく、ただ恐怖で気を失っていただけらしい。
「僕の名前はウィン・ルーサー。君の名前は?」
「ドロシーです。ウィンさんもここへは観光ですか?」
「いや、実はこういう者でね」
そう言って胸元から赤い魔法石を取り出す。
「こいつ魔王だったのかにゃ!?」
「猫くんハッキリ聞こえてるよ~?」
「こら、ライ! 失礼な事言わないの!」
涙目なウィンさんに、ライに代わって頭を下げる。
「まぁ、そう思われても仕方ないけどね……あの状況で気絶する魔王なんて僕くらいだろうし」
「いや、誰だってあんな状況なら驚きますよ!」
自嘲気味に言うウィンさんを助けたつもりが、逆に気を使わせたと落ち込んでいる。これは面倒なタイプかもしれない。
「それでウィンさんはここに何をしに?」
「あっ、そうだった! 僕はギルド管理局の者でね」
「ギルド管理局?」
疑問そうなエン君に説明する。
「各地域にあるギルドを纏めて管理する組織ね。フォレストのギルドで私達が見ていた王都の新聞や資料も、各地域の情報を共有しておけば、有事の際に動きやすいからってギルド管理局がやってる事なの」
「あっ、なるほど! ありがとうございます」
「でも、何でこんな所まで?」
ギルド管理局はその立場上、相当な事がないと直接動かないと聞いた事がある。
「フォレストのギルドから何度も応援要請があってね。人員を何名も送っていたはずなんだが、どうやら殆ど来ていないらしくて、状況を確認する為にここまで来たんだ」
「あっ、その話聞きました!」
「お姉さんから貰ったお菓子美味しかったにゃ~」
「何処から連想してるのよ……」
その人員は何処に行ったのだろう? こうなって来ると元々フォレストにいたはずの魔王達がいなくなったのも関係がある気がしてくる。
「確認する前にこのザマだけどね……」
ウィンさんがハハハと乾いた笑い声を漏らす。
「まぁ、ウィン元気出すにゃ」
「どの立場で言ってるの!?」
ぽんぽんとウィンさんの肩を叩いているライに突っ込みを入れつつ、考える。
フォレストにいた魔王と、応援に送られた魔王、両方が消えた事が関係あるならその理由は何だろう? この町でやっていくつもりの人間と、最初から仕事として応援で来た人間、どちらも消息を断つ理由がない。それなら……
「あっ!」
「うん?」
「関係ありそうな話を思い出しました」
そう言いながら、壊れた馬車を修理中のアルさんを見る。
「これは人さらいの可能性があります……」
馬車の修理も終わった頃にはもう日も暮れていた。なので、私達も馬車に乗せてもらい、一旦フォレストのギルドに
御者のアルさんと二人の観光客とは別れ、ウィンさんも含めた私達はギルドの前まで来ていた。
「いや~、あのアルって御者はいい人にゃ!」
助けてくれたお礼にと、別れ際にアルさんから貰った焼き菓子を食べながら満足そうなライ。
「それに、何かあったら任せろ! って言ってたし、また何かあった時に助けてくれるかもね」
「一生ついてくにゃ!」
「チョロ過ぎない!?」
アルさんがギルドの前まで馬車で送ってくれたので、予定よりも早く着く事が出来た。ギルド内は時間の影響か全く人がいない。
「ドロシーくんのお陰で興味深い話も聞けました」
「それなら、良かったです」
馬車に乗ってる間、ウィンさんは私がアルさんから聞いた噂話を本人から詳しく聞いていた。私の考えが正しければ、あの話はこの事件に関係しているはずだ。
「後は直接ギルドでも話を聞いてみます」
そう言って受け付けと一言、二言喋った後、ウィンさんはギルドのカウンター奥に消えていった。
「あっ、ドロシーさんお疲れ様です」
「お姉さんもお疲れ様です!」
私に気付いたお姉さんが頭を下げる。あれ、お姉さんやつれてない? うつろな目と合わせて、いかに今日が激務だったか分かる。
「とりあえず、こっちの依頼は終わりました! もう一つは明日に行こうかと……」
討伐を証明する為に持ってきた
「はい。確認終わりました。もう一つの方も明日よろしくお願いします」
報酬を受け取りながら、聞こうと思っていた事を質問する。
「あのお姉さん」
「はい?」
「ここら辺で今からでも泊まれそうな宿ってあります?」
「あっ、それなら!」
ギルドの天井を指差し、ニヤリと笑うお姉さん。うつろな目でそれは凄い怖いです!
「宿にいくよ~」
ギルド前で待っていたエン君とライに声を掛ける。
「クッキー美味しいにゃぁ……」
「まだ食べてたの!?」
「一応止めたんですが、ライさんずっと食べてまして……」
幸せそうな顔でクッキーを頬張るライは、まるで何日もご飯を食べていなかったかのようだ。
「これから夜ご飯食べるの分かってる?」
「夜ご飯は別腹にゃ!」
「そっちが別腹!? 逆でしょ!」
「まぁ、どっちが別腹でも胃に入れば一緒にゃ…」
「それあんたが言っちゃダメな奴!」
遠回しに食えたら何でもいいと言うライを嗜めつつ、二人を連れて宿に向かう。
「宿は何処にゃ?」
「こっちこっち!」
ギルドから離れようとするライを引き止め、大樹マザーの外側にある階段を指差す。
「ギルドの上に酒場と宿があるらしいよ」
「へぇー! 凄いにゃ!」
「本当に色々な施設があるんですね」
「さっさと宿まで行くよ~!」
そう言いながら、二人を連れて階段を上がっていく。ついついグヘヘと笑みをこぼしてしまう。
「何ちゅう顔してるにゃ!」
ライが何かを言っているが気にしない。そう! まだまだ
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