第一章16 『ロリコンと報告と○○と』
「聞いてきたにゃーー!」
いつの間にか調べものに夢中で、ライの事を忘れていた。一時間も経ってる以上、沢山の情報を手に入れてるだろうと思い、帰って来たライを見る。そこには丸々と風船のように太った猫がいた。
「何でそうなった!?」
「お腹いっぱいにゃ!」
「何してたの!? 頼んだのは情報収集だったよね?あれ私、もしかして食事してきてって頼んだ?」
ライがいたカウンターを見ると、綺麗な受け付けのお姉さんがライに向けて手を振っている。
「餌付けされてる!?」
驚きだった。ライの事を忘れていた手前、あんまり怒れないが、まさかこんなにでっぷりして帰ってくるとは。
「あのお姉さんいい人にゃ」
「確かに、それだけ食べさせてくれたらいい人だろうけど……」
「ついでに情報もくれたにゃ」
「いや、そっちが本来の目的だから!」
「願いを叶える滴について、噂は出回っているけど、実際に見たって人はやっぱりいないみたいにゃ」
「やっぱりか……」
「そうなんですね……」
分かっていた事とはいえ、やはり落胆する。隣にいるエン君も同じように落ち込んでいる。
そもそも噂自体があやふやなのだ。願いとは何を指すのか、滴をどうしたら願いが叶うのか、見た目も効能も、願いを叶える滴という名前だけでは何一つ分からない。
「ギルドも、最近になって急に広まった噂だから調べたかったらしいけど、そんな余裕がないらしいにゃ」
「そうみたいね」
話している間にも、カウンターの奥ではばたばたと人が動いている。あの様子を見るに、ライに餌付けしていたお姉さんも休憩を兼ねて話していたんだろう。
「お姉さんの話では、最近ここに来ていた古巣の魔王が何人も顔を見せなくなったらしいにゃ」
「他のギルドに行ってるとかじゃなくて?」
「お姉さんもその可能性はあるけど……って言ってたにゃ」
「一つのギルドに居続けないといけない理由はないからね」
「だから王都に応援を要請したらしいけど、全然人が来ないらしいにゃ」
「あー、なるほどね。通りであんなに依頼書がびっしり貼られてる訳だ」
私も沢山のギルドを見てきた訳ではないが、あんなに貼ってあるのは初めて見た気がする。
「王都は冷たい! ってお姉さん怒ってたにゃ」
「まぁあれを見てる感じ、怒るのも仕方ない気はするね」
未だに騒がしそうなギルド内だが、ばたばたしているのはカウンターだけで、魔王も、町の住民もそんなにいない。ぱらぱらと手元の資料を軽く見ながらギルドを見回していたその時だった。
「ん?」
入り口の扉が開き、誰かが入ってきた。そこには栗色の髪を短めのツインテールにした女の子が立っていた。両手に余る程の大きな可愛いクマのぬいぐるみをかかえている。
「め……」
「ドロシーどうしたにゃ」
「女神かな?」
「何が見えてるにゃ!?」
年齢はエン君と同じくらいだろうか?その子はとにかく可愛かった。エン君を天使とするならあの子は女神! 世の中にいる全てを魅了してしまいそうな程の可愛さだった。
「えっ?」
女神に続いて男が入ってきた。赤いツンツン頭で、見た目は二十代くらい、背中には大きな剣らしき物を背負っていた。女神と男は、何だか仲がとっても良さそうに喋っている。あっ、そうか!あの男!
「ロリコンか……」
「どの口が言ってるにゃ!」
「いや、絶対そうだって! 私には分かる!」
「何の根拠もないにゃ! 男を見て数秒も経ってないのに、その推測は何処から来るにゃ……」
そんなやり取りをしている間に、男は女神の先を歩き、依頼受注カウンターの受け付けでお姉さんと何かを話している。ぽつんと一人になった女の子。
「チャンス!」
「何処に行く気にゃ!」
「いや、ト……トイレに」
「もっとマシな嘘つくにゃ!」
「ドロシーさん、何をしに行くかは分かりませんけど、流石にやめた方が」
「エン君まで!? いやだなぁ~、別に悪い事をしに行く訳じゃ……」
ただ寂しそうにしている幼女に声を掛けにいく。それの何が悪いのか! 私達が騒いでるのが聞こえたのか、女神がこちらを見た。
「こんにちは~!」
遠くから勢いよく手を振り挨拶をする私を見て、一瞬泣きそうになりながら目を逸らす女の子。
「可愛いよぉぉ!!」
「明らかに怖がらせてるのに、そのメンタルの強さは何処から来るにゃ!」
「ドロシーさん怖がらせちゃダメですよ!」
「だってぇ……」
「あの子と同年代くらいのエンに怒られてる時点でもうダメにゃ」
「ライまで酷い!」
「酷くないにゃ」
そんなやり取りをしている間に、カウンターにいた男が戻ってきて、女神と少し話した後ギルドを連れ立って出ていった。やっぱりあの男……
「ロリコンね!」
「それはドロシーにゃ!」
結局ライの方は空振り、私とエン君も資料を見てみたがそれらしい情報はなかった。こうなったらやる事は一つしかない。
「こうなったら直接フォレストの周りを調べてみるしかないわね」
噂の出所がここなのは確定している。と言うことは、本当に願いを叶える滴があるならこの町の近くにあるはずだ。それに……
「やっぱりにゃ」
「どうしたんですか?」
びっしりと並ぶ依頼書を確認する。よく見ると半分くらいが同じ魔物の討伐依頼だった。他にも沢山の依頼がある。
「こんなに困ってる人がいるなら、少しは助けないとね!」
「ドロシーさん……」
「ドロシーはお人好しだからにゃ」
「ただのヤバイ人なのかと思ってました」
「エン君今何て言った~? おねーさんここで泣くよ?」
「すみません、すみません!」
「とりあえず、これと、これかな?」
町の西側と南側を調べながら、解決出来そうな依頼を二つ程選んでカウンターに持っていく。
「これとこれをお願いします」
「ありがとうございます! 魔法石の提示をお願い出来ますか?」
「はい」
魔王の魔法石を、受け付けのお姉さんに渡す。
「忙しそうですね」
「はい! 本当に、ほんとーーーーーーーに忙しくて……」
よく見ると、ライやさっきの男と喋っていたお姉さんだった。うつろな目してるけどお姉さん大丈夫なの!?
「ドロシー様ですね! 依頼受け付け完了しました。こちらは返却いたします」
身元の確認も終わり、魔法石が返される。
「あっ、そういえば!」
「はい?」
「今日黒ずくめの集団に襲われたんですが、何か情報はありますか?」
「黒ずくめの? そういった話は特に聞いてないですが」
「分かりました」
「念の為、上にも聞いておきますね! 他に何か情報はありますか?」
「黒ずくめってだけで、襲われた理由も分かってないです」
「そうですか……確認をとってみますが、ドロシーさんもお気をつけて」
「はい! ありがとうございます!」
「依頼よろしくお願いします」
深々とお辞儀をするお姉さんにお礼を言って、ライとエン君と一緒にギルド入り口に向かう。
そこで足元に何かが落ちているのに気付く。入り口に置かれていたのを誰かが落としたのか、それはこの町のパンフレットだった。ひょいと拾い入り口に戻す。
「自然と共存する町フォレストへようこそ! か……」
パンフレット最後の一文が目に留まり、つい口に出す。
「うん?」
何かが引っ掛かるが、それが何なのか分からない。
「ドロシーどうしたにゃ?」
「あっ、ごめんごめん!」
先に行っていたライが、ドアから顔を出してこちらを見ている。急いで私もギルドから出て二人と合流する。何とか今日中に、二つの依頼を終わらせなければ……
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