第一章6 『食堂と少年と○○と』
可愛い天使の様な男の子を吹き飛ばした私達は、今は食堂にいた。少年の前には山盛りのご飯。何故か猫の姿に戻ったライの前にも同じくらいの量がある。いや、流石に多くない? 前にも、右にも壁があるみたいなんだけど。
時を遡ること数十分前……
「こんな、可愛い子に私は何て事を!」
木の幹に座り込んだ男の子に近づく。胸に耳を当て心臓が動いているか、口元で呼吸をしているかを確認する。
「なっ……」
「どうしたにゃ?」
「た、大変! 呼吸もないし、心臓も止まってる!!」
まさか、さっきの一撃が致命傷だったのかも? 急いで治療しないと。
「待ってて! おねーさんが今、人工呼吸でよみがえらぶえっ!」
「嘘をつくにゃ! 嘘を!」
「な、何で邪魔するのライ? 早くしないとこの子が死んじゃぶぅ!」
すぐに人工呼吸しようとする私の顔を、後ろから両手でガッチリと何度も掴んでくるライ。顔潰れるかと思うくらいのガチな力で止めてくる。
「この子は息もしてるし、心臓も動いてるにゃ!」
「そんなことない! 私ははっきりこの耳で!」
「私の耳がいい事を忘れたにゃ?」
「チッ!!」
「今、舌打ちしたにゃ!?」
クソ!この猫耳が超いいんだった!
「でも、気絶して動かないのは事実! 私がギュッと抱き締めながら病院まで連れてぐふぉっ!」
今度は抱き締めようと近づいた私を手で止める。いや、止めるというかこれ腹に掌底入ってるよね? 朝ご飯出るかと思ったんだけど?
「その必要もないにゃ!」
「もう何でもいいからとりあえず近付かせて!」
「とうとう理由すら放棄にゃ!?」
もう理由を考えるが面倒なんで、直接特攻をするか悩み始めた時だった。
「うっ……」
「君大丈夫?」
ライに首の後ろを掴まれながら、男の子もとい、この世に舞い降りた天使の様子を伺う。
「あれ? 僕は?」
そう辺りを伺う少年はやっぱり可愛いかった! 見た目は十一か二歳くらいで、あどけない表情に黒髪、よく見ると髪の中に一束くらい赤い髪が混ざっている。前髪の、丁度左目辺りの髪が、まるで血のように真っ赤になっていた。
「ここは?」
「覚えてない? ここはフォレストの町だよ?」
「すみません。町の名前にはあんまり詳しくなくて」
「というか、何でこんな所に君みたいな子どもが一人でいるにゃ? 親はどこにゃ?」
ライは不審に思っているようだが、私もそこは疑問だった。ここは観光地とはいえ、周りには山と森しかない。さっきの様子を見るに、町の外から来たようだったが、近くで人が住んでいるのはこの町しかないはず。
王都からここに来るまでにも馬車で二、三時間かかる。普通より速い、風の加護を受けた馬でそれくらいだった。そんな場所で、親もいないというのは明らかにおかしかった。
「僕は……」
――ぐぅーーーーー!
「何の音?」
何かを言いかけた少年の言葉を遮るように大きな音が鳴る。
「す、すみません! お腹が……」
顔を真っ赤に恥ずかしがる少年。超可愛い……
「ごめんにゃ!」
「あんたも鳴ってたの!?」
そして、腹ペコの天使と猫を連れ、フォレストのパンフレットにあったオススメの食堂までやって来たのだった。
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