第一章7   『大食いと大食いと○○と』

 

 食堂の机の上には、暴れ猪のステーキをご飯の上に刻んだ丼やら、山盛り野菜のスープ、温野菜のサラダ、翔び鶏のからあげなど色々な料理がかなりの量並んでいる。まだ昼には少し早いとはいえ、私も流石にお腹が減ってきた。


「それで……んぐっ! 君の……はむはむ。ゴクン! 親はどこにゃ?」


「喋るか食べるかどっちかにしなさいよ!」


 カチャカチャと皿の音をたてながら、私の右にいるライが質問をする。凄い勢いで料理を掴んでは口の中に放り込んでいる。胃どうなってんの?


「僕に……はむっ! 親は……ゴクゴク! もぐもぐ……いません!」


「こっちも!?」


 対する少年もとい天使は全く音を立てずに、手も動かさず目の前の皿からどんどん料理だけがなくなっている。いや、それはそれでどうなってんの?


「親がいないって事は、ここまで馬車が何かで一人で来たの?」


「いえ、徒歩で」


「徒歩で!?」


「あっ、違います!」


「流石に冗談だよね? びっくりした~」


「途中、走りました!」


「そういう事じゃなくて!」


 空の皿を前に、少年は紙のナプキンで口を拭きながら、至極真面目そうに答えている。いや、というかもう食べ終わったの!?


「まぁ、とりあえず料理頼んでたりでバタバタしてたからしっかりと自己紹介をするね。私はドロシー」


「私はライにゃ! あっ、店員さんハニーアップルのパイ一つお願いにゃ!」


「何でデザート頼んでるのよ!」


「僕の名前はエン・カイドウって言います。よろしくお願いします。あっ、僕もハニーアップルのパイ一つ……」


「君までデザート!?」


 まぁ、小さく手を上げながら頬を染めている姿は可愛かったので許そう。


「こちらこそよろしくね。エン君、勘違いとはいえいきなり攻撃しちゃってごめんなさい」


「ごめんにゃ!」


「いや、僕こそ驚かせてすみませんでした」


 そう言って律儀に頭を下げるエン君。どうやら、悪い子ではないようだ。


「でも、本当に何処も痛くない?」


「はい! 何処も痛くないです」


 確かに彼の言う通り何処にも怪我はなかった。しかし、それはおかしい。ライが使った魔法は、電気を纏って稲妻のように突進する速さ重視の技だが、木の一本や二本は軽くへし折れる威力はある。それに……


「いただきますにゃ!」「いただきます」


 店員からハニーアップルのパイを嬉しそうに受け取ったライを見る。エン君の気絶時にも分かるが、ライの耳は非常にいい。近くに何かや誰かが来たならすぐに反応するし、それに助けられた事は今まで何度もあった。だからこそ私も油断していた。


(この子は絶対に普通じゃない……)


「ご馳走さまにゃ」「ご馳走さまでした」


「私の分は!?」


 山盛りあった料理を片付けた二人は、非常に満足そうだった。

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