第一章5   『ボロ雑巾と獣人と○○と』

 

 ドンおじさんから教えて貰ったギルドへの道は極めて分かりやすかった。市場があった南の入り口から、円を描くように西入り口まで行き、そこからは直通なのでギルドまで真っ直ぐ歩くだけらしい。


「やっぱり珍しい景色にゃ」


「確かに、ここまで町の近くに森があるって状況も珍しいよね」


 市場からの西入り口まで半分くらい歩いたが、町を守る為の壁らしき物はここまでなかった。木で作られた柵と、魔物避けらしき高い街灯は続いていたが、柵の目の前にはすぐ森がある。


「うーん……っと、町全体を囲うように置かれた街灯には魔法が施されており、魔物避けになってるんだって」


「どおりでさっきから髭がピリピリする訳にゃ……」


 道中で手に入れたこの町のパンフレットを読む。簡単なこの町の説明や、地図、オススメの場所など、流石観光地としても有名とだけあって、こういう所はしっかりしている。


「後は……」


「美味しいご飯屋さんかにゃ?」


「それしか興味ないの!? 違う、違う! 町の中心にある大樹マザーは昔から悪しき者を退ける効果があるみたい」


「それだけにゃ?」


 心底どうでも良さそうな顔をしているライ。この猫マザーに近づいたら、その力で消し飛ぶんじゃないだろうか?


「自然と共に生きる町フォレストへようこそ! だって」


 パンフレットの締めの文章を読みながら、今度は町の方を見る。大小様々な建物があるが、ちらほら木がそのまま家になっている所を見ると、この言葉も納得出来る。


「王都の周りは壁だらけだもんにゃ」


 つい二、三時間前の光景を思い出す。複数の入り口以外は、ぐるりと王都を囲むように高い壁が建っている。向こうは魔物避けだけではないとはいえ、こっちを見てしまうと息苦しさを感じる。


「こっちはこっちで、少し心配になるほどの守りの薄さだけどね」


 ずっと町の外周近くを歩いてきたが、木で作られた柵も所々倒れていたり欠けていたりした。

 まぁ、それだけこの町が安全ともとれるが、もし街灯が纏めて破壊されでもしたら、この柵じゃとても魔物から町を守れるとは思えな……


――ガシッ!


「?」


「ドロシーどうしたにゃ?」


「いや、ちょっと……」


 足がピクリとも動かない。パンフレットなんて読みながら歩いてるから何かに引っ掛かったのかと足元を確認する。


「えっ?」


 足元にはボロ雑巾があった。雑巾と呼ぶにはサイズが大きいが、ボロボロのほつれや傷や汚れだらけの布で包まれたそれは、どこからどう見てもそうとしか思えなかった。

 そんなボロ雑巾が私の足を掴んでいた。一瞬頭に御者の人がいなくなる噂がチラつくが、足を掴んでいる以上実体のある何かなのは間違いない。


「さよなら、ドロシー! 短い付き合いだったにゃ……」


「何しれっと別れの挨拶してんのよ!」


 あの猫後でご飯抜く!足を掴む力が強くなる。痛みを感じる訳ではないが、流石に危険を感じる。


「ライッ!!」


「分かってるにゃ!」


 少し遠くから様子を見守るだけだったライが、獲物を狩る獣のように身を低くする。


雷光ライトニング


 瞬間、光の線がボロ雑巾をぶっ飛ばした。近くにあった木の柵ごと豪快に森の方へと転がっていく。


「全くドロシーは手間をかけさせるにゃ」


 パチパチと電気が弾ける音が聞こえる中、桃色の長髪に、猫の耳がついた、獣とも人ともとれる獣人の少女が立ち上がる。


「ありがとう、ライ!」


 私の友であり、相棒でもあるライの本来の姿を確認しながら、飛んでいったボロ雑巾の様子を伺う。


「特に魔力は感じなかったけど、結局あれは何だったんだにゃ?」


 ライと一緒に壊した木の柵を抜け、町の外にある森に入る。ボロ雑巾だった物は転がりながら木の幹にぶつかったらしくそれ程遠くにはいっていなかった。


「あっ!」


 今見れば雑巾のようになっていたのは、草や木、土の汚れがついたローブだったと分かるが、転がる勢いが良すぎて、途中でついていた汚れが吹き飛んでいた。

 木の幹には十一か二くらいの男の子が気絶している。


――こ、こ、こ、これは……


「可愛いぃーーーーー!!!」


「こいつマジでヤバイにゃ……」


 視界の端にいるライが私を見ながら何かを呟いていたが、今はそんな事より目の前にいる可愛い男の子の方が私にとって何より重要だった。

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