File.29 突然の訪問者
食事を終えると、入手したデータの解析を再開するサクラ。
テレサも手伝うために、作業部屋へと移動します。
そうして暫く作業を続けていると、部屋に響くコール音。どうやら誰かが訪ねてきたようです。
確認:ドアカメラで対象を捕捉。こちらに向かって笑顔で手を振っています。
『テレサ、訪問者はアイラのようです。入室を許可しますか?』
「えぇ? リアルで訪ねてくるなんて珍しいですね。う~ん? どうしましょう?」
困惑しながらサクラへ視線を向けるテレサ。
「あん? 私に気を遣う必要はないよ? ここは元々、テレサの部屋なんだからさぁ。居候は家主の決定に従うさ。まぁ、でも、この部屋には通さないで欲しいねぇ」
部屋中に広がる紙媒体の資料を見やりつつの返答。どれも再捜査に関する重要書類です。機密保持という観点からして妥当な判断でしょう。
『分かりました。では、アイラをゲストルームへ案内しておきます』
「頼みましたよ、ソフィア。身支度をしたら、すぐにそっちへ行きますから」
「私は……一段落したら顔を出すかねぇ。だから、睨むんじゃないよ、テレサ」
慌てて自室へ戻ろうとしたテレサに見つめられ、やれやれと肩を竦めるサクラ。
さて、こちらもアイラへの応対をするとしましょう。とりあえず、食品配給ブースに飲み物などを頼まないといけませんね。
§§
アイラをゲストルームへ案内してから5分後。
「お待たせしました。ちょっと着替えに手間取ったのです」
少し息を弾ませながら、パタパタと駆け足で入室するテレサ。
服装は紺色のブレザーと赤いチェックのプリーツスカート。以前使用したホログラムスーツのデータですね。悩んだ挙げ句、無難かつ簡単な服装で妥協したようです。
「いやいやー、気にしなくていいっすよ~。突然、押しかけたのはアタシっすからねぇ。お気遣いなく~」
ソファーに腰かけ、ひらひらと手を振りながら笑うアイラ。
「ふふっ、でも、こうしてリアルで会うのは久しぶりですね。あ、ソフィア、テレサにも同じ飲み物をお願いします」
テーブルに置かれたドリンクを確認しつつ、向かいのソファーに座るテレサ。
『分かりました。少し待ってください。アイラも飲み物の追加が必要ですか?』
「う~ん、アタシはいいっすよ。まだ半分の残ってるっすからねぇ」
『了解しました。では、テレサのドリンクのみオーダーします』
注文:食品配給ブース。品名、ブルーアップルジュース。個数1。
3分後、届いた飲み物に口を付けながら、テレサは訝しげに問いかけます。
「それで? 今日はわざわざなんの用事ですか、アイラ?」
「えぇ~? 用事がないと来ちゃいけないんっすかぁ? って言うのは冗談で、ブラックラットパーク事件以降、ザナドゥにログインしてないテレサっちが心配で様子を見に来たんっすよぉー。職場には長期の有給まで申請してるっすし……」
怪訝な表情を浮かべるテレサに、肩を竦ませながら答えるアイラ。
「うぅ……すみません。でも、そんなにログインしてませんか?」
謝りつつ、どこか釈然としない様子のテレサ。
「珍しく結構期間が空いてるっすよ? ねぇ、ソフィアっち?」
『はい、現在のログアウト時間は8日と11時間23分となっています』
「ほらー、やっぱりっす! いつもなら日に一度はログインしてたのに! これで心配するなって言うほうが無理っすよぉ~」
やれやれとため息をつくと一転、探るような眼差しでテレサを見つめるアイラ。
「それでぇ? 本当にどうしたんっすかぁ~?」
「べ、別になにもありません! たまたま! たまたまなのです!」
あわあわしながら誤魔化そうとしますが……。テレサ? それでは逆に疑ってくれと言っているようなものですよ?
その証拠にアイラの表情がどんどん険しさを増していきます。
「いや、絶対になにかあるっすよねぇ? アイラちゃんは騙せないっすよ? こっちはテレサっちが、あのサクラとかいうハーフと同居してるって情報も掴んでるんっすからね? さぁ、なにがあったか話すっすよぉ~!」
「無理! 無理です~! 守秘義務! 機密事項なのです!」
ジリジリと近づき問い詰めるアイラと首を横に振るテレサ。
そうやって二人が騒いでいると、
「まったく、少しは静かにできないのかねぇ、アンタたちは……」
どこか呆れた様子でぼやきながら部屋に入ってくるサクラ。
そんな彼女へ視線を向けると次の瞬間、アイラは目をカッと開きます。
「ハッ! その声はあのいけ好かないあのハーフっすね!? うわぁ~! リアルの姿もやっぱりなんだかムカつくっす! ってか、やっぱり同居してるじゃないっすかぁ! テレサっち! 説明! 説明を求めるっす! 今すぐ! ナーウ!」
サクラから視線を戻し、テレサの両肩を掴んで揺らすアイラ。
「あぁ……なんだい? これはどういう状況だい、ソフィア?」
『端的に言うと、アイラが暴走中です。以上』
「そ、そうかい……」
回答すると、困惑した表情を浮かべるサクラ。
「うぅ……二人とも助けてくださいよぉ。目が、目が回ります~」
若干涙目になりながら、情けない声を上げるテレサ。
するとサクラは面倒臭そうに頭を掻きながら、アイラを止めに入ります。
さて、この間にこちらは食品配給ブースへ追加の注文を出しておきましょう。話しはまだまだ続きそうですからね……。
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