フォルダ⑤ セントラルシステム
File.28 仮初めの日常
あれからセントラルへ帰還して24時間が経過しました。
現在、テレサは就寝中。サクラは入手したデータを解析しています。
スラムで助けた少女は無事にセントラルで保護。ただ、そのあとどうなったか詳細は不明。理由はメンテナンスドローンに偶然を装い発見、回収させたからです。
セントラルに保護してもらう都合上、無許可で外出したテレサたちが一緒に帰還することは不可能でした……。こちらで元気に暮らしていることを祈ります。
待機状態で記録を整理していると、テレサの部屋で起床用アラームが起動。
数分後、寝室からブラックラットのぬいぐるみを抱き締めてリビングに姿を現すテレサ。
『おはようございます、テレサ。調子はいかがですか? 肉体的、精神的に異常があった場合はすぐに知らせてください。メディカルドローンを緊急で手配します』
「ふぁ~、おはようです。テレサは大丈夫ですよ~。少し心配しすぎです」
寝ぼけ眼で微笑みを浮かべるテレサ。
普段通りの言動ですね。音声、体温、顔色、呼吸、脈拍はどれも正常値。スラムでの一件が体調に及ぼす影響を懸念していましたが、特に問題は見当たりません。
テレサが右腕に装着した携帯端末から各生体情報を取得し、簡易的なメディカルチェックをしていると、
「サクラは徹夜ですか? なんだか寝ている間、ずっと音がしてましたけど?」
欠伸を噛み殺しながらの問いかけ。
『少し待ってください……行動記録を確認しましたが、どうやらそのようです。普段とっている仮眠もこの24時間でおこなわれた形跡はありません』
答えると、テレサは表情を曇らせてサクラが作業中の部屋へ向かいます。
しかし、部屋の扉を開けた瞬間、顔をしかめ咳き込むテレサ。
「けほっ……うぅ、煙たいです。臭いです。サクラ? サクラァ?」
少し涙を浮かべつつ扉の前で部屋の奥へと呼びかけると、
「う~ん? なんだい? もうそんな時間かい? って、あぁ……悪いね、テレサ。空気清浄機を動かすのを忘れてたよ」
紫煙をくゆらせながら、目の下にクマを作ったサクラが現れます。
『サクラ? 煙草を吸うならしっかりとルールは守ってください。喫煙はテレサの健康に影響する重大な問題です』
「ルールって、アンタが言うのかい、ソフィア? あぁ、いや、なんでもない。悪かった。次からは忘れないさ。にしても、普段通りだねぇ……」
注意すると謝罪ののち、なぜか訝しげな表情を浮かべるサクラ。
『なにか言いたいことでも? HAL-A113ソフィアは本日も正常に稼働中ですが?』
「あぁ、うん……そうだね。アンタは正常、正常だ……」
微妙に引っかかる物言いですね。けれど、真意を問い質す前に、
「そんなことよりご飯を食べましょう! テレサはお腹が減りました!」
テレサから食事の催促が……。そういえば、食品配給ブースへまだ連絡をしていませんでした。急いで注文することにしましょう。
ふふっ……、なんだかいつもの日常が戻ってきた感じがしますね。
そうです。なにも問題はありません……。
HAL-A113ソフィアは正常に稼動できています。
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