フォルダ④ セントラルスラム
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ブラックラットパーク事件が解決して3日目。
前日の夜遅くまでセントラルに各種報告を行っていたテレサは、ベッドでまだぐっすりと眠っています。
作業:起床用アラームの設定を変更。起動時刻を30分プラス。起動後は5分おきにスヌーズを実行。
今朝ぐらいは少しだけゆっくり寝させてあげましょう。
さて、あとは食品配給ブースに朝食を頼んで、服の用意もしておかないと……。
セントラルへの報告が終了したら、サクラからルームへ来るよう指示されていますからね。
注文:食品配給ブースへ朝食をオーダー。テイストはジャパニーズ。エネルギー量は391.8kcal。配達時間は40分後を希望。
接続:ルームクローゼット管理システムへアクセス。収納品から本日のお勧めをピックアップ。ホログラムスーツは内蔵データを最新版へアップデート。
タスクを処理していると寝室から物音。
ルームカメラを向けると、珍しくアラームの起動前に起きるテレサの姿を確認。
数分後、クロッキーラットの特大ぬいぐるみを両腕で抱き締め、のろのろとソファーへ歩いてきます。
『おはようございます、テレサ。でも、今朝はもう少し眠っていても大丈夫ですよ? ここ数日は忙しかったのでゆっくり休んでください』
「ふぁ~……大丈夫です。クロッキーがいるからテレサは頑張りますぅ……」
言いつつ再び目を閉じ、ぬいぐるみを抱き締めてソファーへ沈み込むテレサ。
起こすのも可哀想ですし、時間になるまでこのまま眠らせておきましょう。
ただ、このあとクロッキーラットのぬいぐるみはクリーニングする必要がありますね……。テレサの涎がベッタリと現在進行形で付着中です。
連絡:クリーニングブースへ定期外の作業を発注。品名、ぬいぐるみ。洗濯コースはウルトラソフト。依頼品は1時間後に引き渡し。作業は本日中を希望。
これで今夜も綺麗に使用できます。
他の残っているタスクも急いで処理を終わらせましょう。本当、朝は色々と忙しくていけません。
§§
2時間後、サクラのルームへ移動用ドローンに乗って向かうテレサ。
両手にはブラックラットパークで購入した品が多数。サクラへのお土産だとか。
「うぅ……結局、二度寝してしまいました……。また寝坊とか最悪です。もう、ちゃんと注意してくださいよ、ソフィア!」
『申しわけありません、テレサ。けれど、体調と以降のパフォーマンスを考えれば判断は妥当だった思われます。サクラにも事情は連絡したので大丈夫です』
「むぅ……、いつもこれぐらい優しければいいのに……」
『なにか言いましたか、テレサ?』
「別になんでもないですよぉ~」
『そうですか。お役に立てたようで幸いです』
他愛もない会話を続けながら移動していると突然、ドローンが停止します。
場所はリニアエレベーターを降りてすぐ。サクラのルーム近くの通路です。
「な、なんですか、これ!?」
困惑した様子で驚きの声を上げるテレサ。
視線の先には進路を塞ぐように表示された『KEEP OUT』のホログラム。黄色と黒で描かれたそれは否応にもこちらの危機感を煽ります。
これは……なにか事件でしょうか? ホログラムで隔てた通路の向こうには十数台の警備用ドローンも確認できます……。
接続:セントラル管理システムへアクセス。事件、事故に関するニュースを検索…………ヒット。
『テレサ、どうやらブラックラットパーク事件に関する捜査という名目で通路が封鎖されているようです。ちなみに捜査対象にはルーム1000-9、サクラの部屋も含まれています』
報告に目を丸め、わたわたとその場で慌て始めるテレサ。
「え? えぇ!? どういうことですか? サクラは? サクラは無事なんですか!?」
『開示中の情報だけでは詳細不明です。申しわけありません』
「そ、そんな……」
呆然と呟き、ふらふらと規制線のホログラムへと近づくテレサ。
異変を察知し、こちらへ向かってくる3台の警備用ドローン。
不味いですね……このまま規制線を越えたらドローンに捕まりかねません。
そう思い、テレサへ警告を発しようとした瞬間、
「おーう、遅かったじゃないか。って、どうしたんだい、テレサ? 今にも泣き出しそうな顔をして?」
紫煙をくゆらせ、通路の陰から現れるサクラ。
一見すると普段通り飄々とした態度ですが、どこか疲れている感じもします。
そんな彼女が不機嫌そうに右手を振ると、反転し、接近をやめて持ち場へ戻る警備用ドローン。
さて、これは一体全体どういう状況でしょう?
とりあえず、サクラには色々と事情を聞く必要がありそうです。
そもそも、こちらを呼び出したのは彼女ですからね……。
けれど、微妙に嫌な予感がするのは気のせいでしょうか? テレサがまた厄介ごとに巻き込まれないことを祈ります。
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