File.19 オーバーライト
T09A3 R-3001タクティカルOSバージョン4.1.1.2に同期中…………エラー。
HAL-A113、T09A3 R-3001の両システムに互換性なし。
システムの修正を実行…………エラー。T09A3側が管理者権限の提示を要求。
デバイスから該当権限を検索……失敗。要求を拒否。システムから警告。
T09A3 R-3001がHAL-A113を不正アクセスと判断……防衛システムが起動。
プログラムによる攻撃を検出、ブロック、検出、ブロック、検出、ブロック。
T09A3 R-3001タクティカルOSとの接続を一時的に切断、同期を中止。
数世代前とはいえ流石は軍用ドローン、簡単にはいきませんか……。
管理者権限、パスワードはともになし。サクラもおそらく知らないのでしょう。所持していれば事前に渡されているはずですし……困りました。
ハードウェアがあるのに、それを動かすソフトウェアが使用できないとは……。
それでも起動させるためには……しかたありません。少々、手荒ですがあの手を使用することにしましょう。
接続:セントラルデータベースへアクセス。公開中のアーカイブより該当データを検索……ヒット、ダウンロードを開始………………完了。
再接続:T09A3 R-3001システム。タクティカルOSバージョン4.1.1.2へ汎用型ドローンOSバージョン8.9.7.2の上書きを実行……T09A3側より警告。起動不全の可能性を示唆……無視。上書きを続行………………完了。
汎用型ドローンOSを起動…………エラー。未対応、未登録のハードウェアを多数検出。アーカイブより対応ドライバを検索…………失敗。
システムの修正を実行…………使用可能なセンサーからデータを取得。各種パラメータを再設定。不足プログラムを再構築及び新規作成………………完了。
T09A3 R-3001を起動します。
駆動系の稼動音、軋む内部フレームと多重関節……媒介変数を適宜更新。最適値へ変更。OSの学習システムはフィードフォワードを優先。
そうして、ゆっくりと立ち上がるT09A3。
「流石は最先端のAI。やればできるじゃないか」
珍しく感嘆の声を上げるサクラ。マイクユニットは正常に稼働中。スピーカーユニットを起動。
『オヤクニタテレバ……』
拡声器から発生する電子音。
音声の調整を実行。HAL-A113ソフィアの音声波形をベースに修正。
『お役に立てれば幸いです。しかし、サクラに報告しなければならないことがあります。現在、T09A3 R-3001はデフォルトのOSではなく、汎用型ドローンOSで起動中です。随時最適化していますが、オリジナルよりスペックは低下しています』
報告に唖然とした様子で目を見開くサクラ。
ですが、事実なのでしかたありません。現在出せる性能は本来の13%前後といったところでしょう。ただ、それでも警備用ドローン十数機を軽く超えるスペックです。
「あぁ……すまない。驚いたね、この短時間でOSを丸ごと入れ替えたのか……。動かせるとは思っていたけど、随分と反則的な方法を使ったもんだ。それで? ダウンしたスペックでも仕事は問題なく勤まるんだろうね、AI?」
一転、訝しげな視線を投げかけてくるサクラ。
『問題ありません。システムも随時更新中です。最終的にはフルスペックで稼動させることもできます』
即答すると、やれやれといった様子で肩を竦めるサクラ。
「そう自信たっぷりに返されると皮肉も言えなくなるじゃないか……。しかたないねぇ、信じて出発するとしようか。遅れずにしっかりついてくるんだよ?」
ニヤリと笑い、T09A3の横に置かれたそれから布を剥がすサクラ。現れたのは仮想空間内でしかもう見ることのなくなった銀色に輝く大型バイク。
『このドローンもですが、珍しいモノを持っていますね。しかし、化石燃料式ですか……。現存しているのも驚きですが、まともに動くのですか?』
「問題ないさ。ちゃんとメンテナンスはしてるからね」
にわかには信じがたい話です……。旧時代の骨董品ですよ? サクラのレトロ好きもここまでくると呆れを通り越して、尊敬に値します。
などと思考していると、バイクに跨がりエンジンを始動するサクラ。
瞬間、空間に轟く爆音。その力強く暴力的なエンジン音は現在主流のモーターとはまるで違います……。
そうして出口へ向かい、徐々に速度を上げて走り出すサクラ。さて、遅れないようにあとを追うとしましょうか。
収納中の脚部タイヤを展開。システム、オールグリーン……T09A3 R-3001、HAL-A113ソフィア、出撃します。
テレサ、もう少し待っていてくださいね……すぐに終わらせて戻りますから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます